病院の長い待ち時間はなぜ改善されない?その裏事情を解説

病院の長い待ち時間はなぜ改善されない?
病院の長い待ち時間はなぜ改善されない?

“あの不満”。診察室より長い時間を過ごす場所、それが“待合室”です。なぜこんなに待たされるのか? しかも10年後も改善される気配がない…そんな疑問を医師の視点から真面目に解説します。
(本記事は2020年6月初記載、最終更新は2025年5月)

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医療機関での待ち時間の主な原因は4つ

1. 医師や看護師の数に対して受診者数が多すぎる

決して、医療従事者が怠惰で時間にルーズだから受診者を待たせているわけではありません。病院の構造的な問題として、診療スタッフの数に対し、患者数が圧倒的に多い現状があります。これが待ち時間の最大要因です。

この現象を社会学的に説明するモデルとして、タルコット・パーソンズが『社会体系論』(←当サイト内関連頁を開く)で提唱した「病人役割」の概念が参考になります。パーソンズによれば、社会は病人を生み出し、受診者を増やすメカニズムを内在しているのです。

2. 緊急事態への対応による予定の乱れ

これはもう「仕方ない」と言うほかありません。病院は「突発的な重症例」や「緊急手術」など、診療計画が簡単に崩れる場面が多く存在します。

ただし、改善すべき点があるとすれば、今どういう理由で診療が遅延しているのかを患者が理解できる情報提供体制が不十分なことです。せめて「今、なぜ待たされているのか」くらいは説明されてもいいでしょう。

3. 医療提供体制のICT化の遅滞

これは日本の医療全体に関わる大きな問題です。電子カルテは導入されて久しいですが、今なお使い勝手が悪く、むしろ業務効率を悪化させている事例もあります。

医師が「パソコンばかり見ている」のはなぜ?

患者側からの不満に「医師が顔を見ない」というものがありますが、実際には電子カルテの画面が極めて分かりづらいためです。

これは、フロントエンドエンジニアと医師の意思疎通がうまくいっていないことが根本にあります。医師の業務を正確に理解しているエンジニアは皆無に近く、逆に医療現場を理解してIT設計に関われる医師もごく少数です。

4. 行政が「待ち時間=抑制策」として容認している可能性

この点は私「理屈コネ太郎」の完全なる私見ですが、医療費の急騰を防ぐ戦略的な“無作為”として、あえて待ち時間を改善しないのではないかという仮説があります。

もし待ち時間が劇的に短くなれば、これまで「面倒くさいから」と受診を控えていた人たちの潜在需要が一気に表面化し、医療費が爆発的に増えるでしょう。

そうなれば、診療報酬や薬価の引き下げが検討され、結果として

  • 若い医師が美容医療に流れる
  • 海外メーカーが日本市場から撤退する

など、日本の医療全体が収縮する危険性があります。

そう考えると、あえて積極的な改革に乗り出さないのは、行政としても“合理的な怠慢”と言えるのかもしれません。

保険証のICチップ導入が進まない理由

IC化の遅れが診療効率を下げている

健康保険証へのICチップ導入が進まず、QRコードすら普及していない現状は、病院の待ち時間問題を深刻化させています。

これは単なる病院側の問題ではなく、日本の医療制度全体がICT化に乗り遅れていることに起因しています。

ETCとの比較で見える「情報化の破壊力」

身近な例として、高速道路の料金所でETCが導入されたことによって渋滞が激減したのを覚えている人も多いでしょう。

同じように、医療にも情報技術を導入するだけで診療までのスピードをコンマ数秒単位に短縮する可能性があるのです。

マイナンバーとの紐付けに未来はあるか?

2020年11月25日時点の報道では、数年後に健康保険証とマイナンバーカードの紐付けが進む予定であることが明らかになっています。

ただし、保険者側(=行政)の名寄せには効果があっても、医療機関には恩恵が少ないのが実情です。
それでも「紐付けしないよりはbetter」とは言えるでしょう。

結論:待ち時間の本質的解消には“制度改革”が必要

医療現場の努力だけで待ち時間が解消することは、今後10年はないと思われます。
ICT導入と制度改革、そして行政の優先順位変更が揃わなければ、待合室での「長い時間」は今後も続くでしょう。

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