『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン(Star Trek: Deep Space Nine、DS9)』は、「宇宙を旅するシリーズ」として知られるスタートレックの中でも、異色かつ重厚な世界観を持つ作品です。舞台は恒星間航行中の宇宙船ではなく、惑星ベイジョー(Bajor)近傍の宇宙ステーション〈Deep Space 9〉。宗教、戦争、政治、民族対立といった深いテーマに踏み込み、「探索」よりも「対立と共存」を描くこのシリーズは、スタートレックの他作品とは一線を画します。本記事では、DS9の物語背景と魅力的な登場人物たちを詳しく解説します。
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■ DS9とはどのような作品か
『Deep Space Nine』は1993年から1999年まで放送され、全7シーズン・176話を数える長編テレビドラマです。物語は、西暦2369年、カーデシア連合(Cardassian Union)の長年の支配から独立を果たした惑星ベイジョーと、惑星連邦(United Federation of Planets)の宇宙艦隊(Starfleet)が共同運営する宇宙ステーションDeep Space 9を舞台に展開します。
この作品では、宇宙の探検よりも、宇宙ステーション内での政治的駆け引きや異文化間の対立と共存、宗教と科学の相克、戦争と和平などのテーマが重視されます。また、登場人物たちの内面や関係性に深く迫る群像劇としての側面も色濃く、シリーズ中でも最も人間ドラマに重きを置いた作品と評価されています。
物語は西暦2369年頃、地球から約60光年離れた惑星ベイジョーとその近傍にある宇宙ステーションDS9で始まります。数十年にわたりカーデシア連合の支配を受けた惑星ベイジョーは独立を勝ち取り、その復興支援のために惑星連邦からDS9に派遣されたのが、この物語の主人公、宇宙艦隊司令官(Commander)ベンジャミン・シスコ(Benjamin Sisko)です。
シスコは過去の戦闘で妻を失っており、心に深い傷を抱えながらDS9に赴任しました。当初は任務終了後に退役するつもりでしたが、ベイジョー側のリエゾンとしてDS9の副司令官を務めるキーラ・ネリス(Kira Nerys)との対立や、デルタ宇宙域と直結するワームホールの発見、そしてベイジョーの神々「預言者(Prophets)」との邂逅を通じて、自らの使命を受け入れる決意を固めていきます。
本作は、ベイジョー、カーデシア、惑星連邦の複雑な関係性、宗教と科学の対立、そしてドミニオン戦争へと至る一大叙事詩として展開されていきます。
■ 主な登場人物(宇宙艦隊側)
● ベンジャミン・シスコ(Benjamin Sisko)
本作の主人公であり、DS9の司令官。物語開始時にはCommander(中佐)であるが、後にCaptain(大佐)に昇進。かつての戦争で妻ジェニファーを失っており、その傷を抱えながら一人息子ジェイクを育てるシングルファーザーとしてDS9に着任する。
当初は任務を終えたら退役するつもりでいたが、ベイジョー人の宗教的存在である“預言者(Prophets)”とワームホール内で接触し、彼らから「エミサリー(Emissary)」として選ばれる。以後、惑星連邦の将校としてだけでなく、ベイジョーの宗教的象徴としても生きることを求められる複雑な立場に置かれる。
政治、信仰、戦争、父子関係など多様なテーマの中心に立つ人物であり、ドミニオン戦争では艦隊戦略の中核を担いながらも、自らの信仰と責任を受け入れ、物語終盤には宇宙の彼方へ旅立つ神秘的な結末を迎える。
● マイルズ・オブライエン(Miles O’Brien)
かつてUSSエンタープライズDに乗艦していた運用主任。DS9では主任技術士官(Chief of Operations)としてステーションの維持・整備・防衛の要を担う。技術力と忍耐強さに優れた職人肌の人物。
多くのトラブルや異常事態の際に冷静沈着な対応を見せ、幾度となくステーションの危機を救う。家庭では植物学者の妻ケイコと2人の子ども(モリーとキラ=ユミ)と暮らしており、民間人としての生活感も豊かに描かれる。
ジュリアン・ベシアとの友情はシリーズ中でも特に人気のある描写であり、オブライエンの不器用ながらも誠実な人柄が視聴者に愛される理由となっている。
● ケイコ・オブライエン(Keiko O’Brien)
マイルズの妻であり、民間の植物学者。DS9では子どもたちの教育環境が十分でないことを憂慮し、自ら教師として教室を開設。異種族間の子どもたちに向けた教育の実践者として、連邦の理念を体現する存在でもある。
惑星ベイジョーや他の種族との文化摩擦にも直面しながら、家庭を支える芯のある女性として描かれ、夫マイルズの心の支えでもある。
● ジュリアン・ベシア(Julian Bashir)
DS9のチーフ・メディカル・オフィサー(Chief Medical Officer)。若き理想主義者としてステーションに着任し、当初はやや青臭さも感じられるが、医師としての献身や人間関係の深化を通じて着実に成長していく。
後に、自らが幼少期に遺伝子操作によって知能と運動能力を強化された“強化人間”であることが判明し、その出自を隠していたことが明らかになる。この秘密は、彼の倫理観やアイデンティティに影響を与え、医療行為や命に対する彼の姿勢をより深く描き出す要素となる。
マイルズ・オブライエンとの親密な友情はしばしばユーモラスに描かれ、また、ガラックとの緊張感のある会話シーンもファンの間で評価が高い。
● ジャッジア・ダックス(Jadzia Dax)
トリル(Trill)人の女性で、体内にダックス(Dax)という共生生物(シンビオント)を宿す。ダックスは複数の“ホスト”に渡って記憶と人格を受け継いでおり、Jadziaはその第8のホストにあたる。
科学士官として高度な知識と判断力を持ち、同時にクールな理性と遊び心ある人柄を併せ持つ。前ホストのクルゾン・ダックスはシスコの旧友であり、彼女は“オールドマン”と呼ばれ親しい関係を継承している。
クリンゴン戦士ワーフとの恋愛・結婚は彼女の内面を深く掘り下げる要素となり、シリーズ終盤での戦死と、その後の新たなホスト(エズリ・ダックス)の登場は、トリル文化と記憶継承の重みを象徴する展開となっている。
● ワーフ(Worf)
クリンゴン人の戦士。『Star Trek: The Next Generation(TNG)』から引き続き登場し、DS9ではシーズン4からレギュラーとして加わる。クリンゴン帝国と惑星連邦の間で忠誠と誇りを揺らす存在であり、名誉を何よりも重視するクリンゴンの武士道的価値観を体現している。
ドミニオン戦争においては戦術士官として前線に立ち、また、後に将軍マートクとの盟友関係を築き、クリンゴン政治の中でも重要な役割を果たす。
ジャッジアとの関係では恋愛・結婚を経験し、彼女の死とその後の悲しみも描かれることで、ワーフの人間的成長が深く表現される。
● ジェイク・シスコ(Jake Sisko)
ベンジャミン・シスコの一人息子。民間人としてDS9で暮らしながら、作家としての道を志す。連邦士官ではない立場から戦争や宗教、家族といったテーマを描くことで、物語全体に多角的な視点をもたらす存在。
父との親子関係は、シスコ自身のエミサリーとしての葛藤や指揮官としての孤独を強く浮き彫りにする。特にジェイクが父を失いかけるエピソード「The Visitor(亡霊)」は、シリーズ屈指の感動回として知られている。
■ 主な登場人物(惑星ベイジョー関係者)
● キーラ・ネリス(Kira Nerys)
ベイジョー出身の女性将校で、DS9における副司令官(First Officer)として登場。元は**ベイジョー解放戦線(Bajoran Resistance)**の戦士であり、カーデシア占領時代に数々の過酷な戦闘を経験している。
シリーズ当初は、惑星連邦を“新たな支配者”と見なして反発心を抱いていたが、シスコや他のクルーとの交流を経て、次第に相互理解と協調の道を選ぶようになる。
非常に信仰心が強く、ベイジョーの神々「預言者(Prophets)」を敬う立場から、エミサリーとして扱われるシスコに複雑な感情を抱きつつも、支えようとする姿が描かれる。
また、保安主任オドーとのロマンスもシリーズ後半の重要な要素の一つであり、彼女の人間的な成長が物語全体の中で丁寧に描かれる。
● ウィン・アダミ(Winn Adami)
ベイジョーの宗教階級に属する人物で、当初は「ヴェディク(Vedek)」(僧階)として登場し、のちに最高位である「カイ(Kai)」へと昇格する。
表向きは敬虔な聖職者だが、実際には野心的かつ策略家であり、政治的影響力を拡大するために宗教を利用する姿勢を見せる。たびたびDS9の司令官ベンジャミン・シスコと対立し、ベイジョーの未来を巡って衝突する。
終盤では預言者の敵である「パー・レイス(Pah-wraiths)」と手を組み、信仰の堕落と危機を象徴する存在となる。彼女の行動は、宗教と権力の危険な結びつきを強烈に描き出す。
● ヴェディク・ベアイル・アントス(Vedek Bareil Antos)
ベイジョーの温厚かつ穏健な聖職者で、カイの座をウィンと争った重要人物。ヴェディク時代には、政治よりも精神性と宗教的調和を重視し、ベイジョーの未来に向けた平和的なヴィジョンを持っていた。
副司令官キーラ・ネリスと恋愛関係にあり、彼女に大きな精神的支えを与える存在でもある。彼の人柄と誠実さは多くの支持を集めたが、政治的に駆け引きに弱い部分もあった。
後に連邦との和平交渉を巡る政治的陰謀に巻き込まれ、深刻な負傷を負い、生命維持をめぐる倫理的判断の末、命を落とす。彼の死はキーラにとって大きな転機となり、宗教と個人の信仰の在り方を問う重厚なエピソードとして描かれている。
■ 主な登場人物(カーデシア関係者)
● ガル・デュカット(Gul Dukat)
カーデシア連合の元高官で、かつてDS9の前身「テロック・ノール(Terok Nor)」の統治者を務めた人物。冷酷で狡猾、自己中心的な性格でありながら、カリスマ性と戦略眼を併せ持つ野心家。
シスコとは物語を通してたびたび対峙し、善と悪のあいまいな領域で揺れ動く存在として描かれる。ドミニオン戦争では連合に協力し、後にベイジョーの神々の敵である「パー・レイス(Pah-wraiths)」と結託し、精神的にも肉体的にも崩壊していく。
シリーズを代表する複雑なヴィランであり、絶対的な悪としてではなく、「信念を抱いた破綻者」として描かれることが多い。
● エリム・ガラック(Elim Garak)
かつてカーデシアの秘密警察「オブシディアン・オーダー(Obsidian Order)」に所属していた諜報員。現在はDS9に仕立て屋として住み、元スパイとしての過去を隠しつつ、政治的な駆け引きにも関与する謎多き存在。
親友であるジュリアン・ベシアとの会話は、作品屈指の知的な掛け合いとして知られる。忠誠心と人間性の間で揺れる内面が魅力であり、ドミニオン戦争の末期にはカーデシア解放戦線の実質的なリーダーとして活動する。
● ダマール(Damar)
デュカットの副官として登場した軍人。初期は従順で忠誠心の強い部下として描かれるが、ドミニオンとの同盟や戦争によってカーデシアが抑圧されていく中で、苦悩と葛藤の末、反乱軍の指導者へと成長する。
連邦やクリンゴン、ロミュランと協力してドミニオンと戦う決意を固めるその姿は、自己犠牲と革命の象徴であり、最終的に命を賭して祖国の未来に貢献する悲劇の英雄となる。
● トラ・ザイヤル(Tora Ziyal)
デュカットとベイジョー人の女性との間に生まれた混血の娘。父と再会してからはDS9で生活を始め、キーラ・ネリスと友情を育む。
しかし、父デュカットの野望とドミニオンへの傾倒の中で立場が複雑化し、最終的にはドミニオンの影響下に置かれる父に逆らったことで命を落とす。彼女の死はデュカットの精神的崩壊の引き金ともなった。
■ 主な登場人物(その他の勢力・中立種族)
● オドー(Odo)
DS9の保安主任を務める異星人で、液状の身体を持つ「チェンジリング(Changeling)」=変身生命体。ドミニオンを統治する創設者(Founders)の同種族でありながら、秩序と正義を信じ、ベイジョーや連邦の法に則って行動する。
常に中立と規律を重んじる姿勢で、カーデシア占領時代からDS9の保安を担ってきた。シリーズ後半では自らの出自と向き合い、ドミニオンの同胞たちを説得するために戻る道を選ぶ。キーラ・ネリスとの恋愛も、人間的成長を描く要素の一つ。
● クワーク(Quark)
DS9の酒場「クワークス・バー」を経営するフェレンギ人。商売第一主義を掲げつつも、弟ロムや甥ノーグとの関係を通じて、しばしば人間的な一面を見せる。
口八丁手八丁の交渉術とともに、DS9内で最も情報通であり、裏社会的な活動に関わることも多いが、結果的に良心に従う行動をとることが多い。
● ロム(Rom)
クワークの弟で、フェレンギ社会では珍しい理系思考を持つ技術者。初登場時は気弱で冴えないキャラクターだったが、工学的センスを活かしてDS9の技術維持に貢献する。
のちにフェレンギ同盟のグランド・ネーガスに選ばれ、制度改革を推進する立場となる。誠実で家族思いな人物として成長していく姿が描かれる。
● ノーグ(Nog)
ロムの息子で、フェレンギ人初のStarfleet士官候補生。少年期はクワークの店で働きながら反抗的な面もあったが、ジェイク・シスコとの友情やStarfleetへの憧れをきっかけに、軍人としての道を選ぶ。
ドミニオン戦争中に重傷を負いながらも、リハビリを経て復帰。精神的成長を遂げた姿が多くのファンに感動を与え、名実ともに“新しいフェレンギ人像”を体現したキャラクターとなった。
● マートク将軍(General Martok)
クリンゴン帝国の将軍で、名誉と忠誠を重んじる勇敢な戦士。ワーフと強い絆を築き、ドミニオン戦争では連邦側の重要な戦力として活躍。
物語終盤ではクリンゴン帝国のカンツラーに選ばれ、名実ともに帝国を導く存在となる。誠実さと戦略眼を兼ね備えた尊敬される人物。
● ウェイユン(Weyoun)
ドミニオンの外交担当官で、ヴィンダー(Vorta)種族のクローン。非常に礼儀正しく、敬語を使いながらも冷酷かつ合理的に敵を追い詰める戦略家。
創設者(Founders)を神として絶対視しており、ドミニオンの対外的な“顔”としての役割を担う。死亡してもクローン体が次々と登場するため、シリーズ中に複数体が登場する。
■ 各シーズンの放送期間とエピソード数
シーズン | 放送期間(米国) | エピソード数 |
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シーズン1 | 1993年1月3日 ~ 1993年6月20日 | 20話 |
シーズン2 | 1993年9月26日 ~ 1994年6月12日 | 26話 |
シーズン3 | 1994年9月26日 ~ 1995年6月19日 | 26話 |
シーズン4 | 1995年10月2日 ~ 1996年6月17日 | 26話 |
シーズン5 | 1996年9月30日 ~ 1997年6月16日 | 26話 |
シーズン6 | 1997年9月29日 ~ 1998年6月15日 | 26話 |
シーズン7 | 1998年9月30日 ~ 1999年6月2日 | 26話 |