食料品消費税率0%で飲食店がバタバタ倒産するは本当?|簿記の原則から検討する。

「食料品の消費税を0%にすると、飲食店が損をして倒産が増える」といった主張を目にすることがあります。しかしこれは、消費税のしくみと会計の基本を誤解したものです。

本記事では、ファイナンスで修士号を持つわたし理屈コネ太郎が会計と簿記の初歩を使って、この誤解を論理的に正し、食料品消費税率0%の影響をわかりやすく解説します。

ただし、あくまで理屈コネ太郎の管見内の独断と偏見による私見である事をご銘記下さい。

さて、結論から申し上げます。

食料品の消費税率が8%から0%になっても、会計学的には飲食店の利益も、実際に支払う消費税の総額もまったく変わりません。


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消費税は「取引ごとの税」ではなく「付加価値に対する税」

消費税は、取引のたびに積み上がっていく税ではありません。取引の中で生まれた「付加価値」にだけ課税されるしくみです。

そのため、仕入先に支払った消費税は、客への飲食料の提供時に預かった消費税から差し引くことが認められています。これが「仕入税額控除」という制度です。

なぜ差し引けるのでしょうか?
それは、控除しなければ、同じ商品の流通過程で何重にも課税されてしまうからです。いわゆる「二重課税」の回避措置なのです。(二重課税は税制では御法度ですが、実際には日本の税制には二重課税が散見されるようです)

飲食店視点でのいくつかの具体的な試算を下記に示して説明します。


ケース1|現行制度:仕入時の食材に8%の消費税がかかる場合

  • 食材の仕入:税抜300円+消費税24円(8%)=支払324円

  • 客への飲食料の提供:税抜1,000円+消費税100円(10%)=受取1,100円

【消費税の動き】

  • 飲食店が客から預かる消費税:100円

  • 飲食店が仕入時に食料品店へ支払った消費税:24円

  • 飲食店が税務署へ納める消費税:100円-24円=76円(控除適用)

飲食店が実際に支払う消費税の「総額」は
24円(仕入時)+76円(納税)=100円

【利益の計算】

  • 売上(税抜):1,000円

  • 仕入(税抜):300円

  • 利益:700円


ケース2|消費税率0%が導入され、仕入食材が消費税0円になった場合

  • 食材の仕入:税抜300円+消費税0円=支払300円

  • 客への飲食料の提供:税抜1,000円+消費税100円(10%)=受取1,100円

【消費税の動き】

  • 飲食店が客から預かる消費税:100円

  • 飲食店が仕入時に支払った消費税:0円

  • 飲食店が税務署へ納める消費税:100円(控除対象なし)

飲食店が実際に支払う消費税の「総額」は
0円(仕入時)+100円(納税)=100円
(ケース1とケース2の違いは、飲食店がどのタイミングで誰に対して消費税を払うか…です。しかし、支払う消費税の総額は2つのケースで全く同じです)

【利益の計算】

  • 売上(税抜):1,000円

  • 仕入(税抜):300円

  • 利益:700円(変化なし)


なぜ「損した」と感じてしまうのか

仕入時の消費税が0%になると、「仕入税額控除ができないから損だ」と感じる人がいます。しかしこれは誤解です。

食糧品消費税率0%の場合、そもそも仕入時に消費税を払っていないのですから、そのぶんを控除できないのは当然です。
それを「損」と見なすのは、本来払っていない税金を“取り戻せなかった”ことを損だと錯覚しているにすぎません。

仕入税額控除は「得をする制度」ではなく、多段階課税を防ぐための調整措置なのです。


結論:会計的には利益も消費税負担も一切変わらない

表にして確認してみましょう。

比較項目現行制度(仕入8%)消費税ゼロ(仕入0%)
支払消費税(仕入時)24円0円
納税額(税務署へ)76円100円
総支払消費税100円100円
飲食店の利益700円700円

つまり──

✅ 飲食店が利益を減らすことはありません
✅ 飲食店が支払う消費税の総額も同じまま
✅ 倒産が増えるような要因は、会計的には存在しません


おわりに

消費税の議論は複雑に見えて、簿記の初歩で読み解けばごく単純です。会計学が、あるいは簿記が、ビジネスの基本中の基本である証左です。

仕入時に払わなければ、控除も発生しない。それは損ではなく、中立です。

したがって、食料品の消費税が0%になることが、会計的に飲食店の経営を圧迫することはありません。

ただし、簿記や会計の原理から解離した税制、たとえば簡易課税を採用している飲食店では事情が異なるかもしれません。

もし、簡易課税が現行のままで食料品消費税率0%が実施されたら、殆どの簡易税制を採用している飲食店は増益(簡易税制なので増益分を補足できない可能性あり)するでしょう。

世の中には、自分が経営する飲食店の消費税の納税額算定に原則課税の方が有利なケースであるとわからずに簡易課税を選択してる経営者もいるので、こういう経営者が食料品消費税率0%が実施され、また簡易税制の内容に変更が生じたら、食料品税率0%になったせいで納税負担が増えた…と心理的に感じるかもしれません。

最後にもう一点。

食料品消費税率0%が実施されると、需要が外食から家庭内での食事にシフトする、あるいは飲食店の価格が相対的に高いと認識されてしまう、などのマーケット的な理由で飲食店の経営を圧迫する可能性はあります。この点には注意しておく必要がありそうです。


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