効経済成長率で読み解く政策の効き目|マクロ経済学こそ市民の学問

Contents

はじめに

本記事では、政府の政策の“効き目”を市民の視点で読み解く方法を、マクロ経済学の基本理論に基づいて整理します。失われた30年が40年にならないために、政策に対する選球眼を私たちも持つ時代が来たのです。

いわゆるバブル崩壊(バブル経済と後年呼ばれる現象が本当にバブルであったのかは近日中に別記事で詳述します)から最近までの30年、日本の経済成長は横ばいです。

同じ期間、米国や豪州は2倍以上の成長を遂げているにも関わらず…です。日本人は世界に知られた勤勉でモノ作りの得意な人々です。

これだけ勤勉な日本人に、長期間にわたって実質的な経済成長を享受させられなかったという事実は、政府の経済運営のあり方を根本から問い直す必要があることを示しています。

ところで、経済成長率(GDP成長率)は、政府の経済政策がうまく機能しているかどうかを判断するための、もっとも客観的で測定可能な指標のひとつです。本記事では経済成長率その他のマクロ経済学的指標を用いて、なぜ日本が現状この体たらくなのか、そうすれば日本の経済は良くなるのか…について解説します。

※本記事は筆者の個人的意見ではなく、マクロ経済学の標準的な枠組みと理論に基づいています。


第1章:経済成長率とは何か?

実質経済成長率とは、物価の影響を除いた経済の実力の伸びを表す指標です。
これは雇用の増加、所得の上昇、税収の拡大、社会保障の安定など、多くの政策目的と直結します。実質経済成長率を向上させる事が、国民の財産や生命や尊厳を守る事と同じくらい、国が国民に対して追う責任なのです。

名目経済成長率との違いや、インフレを加味した見方も重要ですが、政策効果を評価する際には、特に“実質”成長率が重視されます。


第2章:成長率と連動する主要マクロ指標

経済成長率は、他のマクロ経済指標と密接につながっています。

  • 失業率:成長率が上がれば雇用が増え、失業率は下がります(オークンの法則)

  • インフレ率:景気拡大が続けば物価も上昇しやすくなります(フィリップス曲線)

  • 賃金・消費支出:成長が家計に波及すれば、消費も増え、さらに成長を促す好循環が生まれます


第3章:成長を生む政策とは?

経済成長を高める政策は、大きく分けて次の3つに分類されます。

  1. 需要刺激型減税・給付金・公共投資などにより短期的に成長と雇用を押し上げる

  2. 供給側改革:教育投資・規制緩和・労働市場改革などにより中長期的に生産性を高める

  3. 安定化政策:インフレの抑制や財政の持続可能性を確保し、成長の持続基盤を作る

これらの政策は単独でなく組み合わせて用いることで、より実効的に機能します。


第4章:市民が政策の“効き目”を読むために

政策を評価する際には、成長率・失業率・インフレ率・賃金といった客観的な数値に注目することで、政府の説明と実態のずれを読み取ることができます。

市民として注目すべきチェックポイント:

  • 成長率が高くても、失業率は下がっているか?

  • インフレが高まっても、賃金は追いついているか?

  • 政策の「意図」と、指標の「実際の変化」は一致しているか?


第5章:なぜ日本は30年間成長できなかったのか

日本の実質成長率は、1991年以降おおむね0〜1%台に留まりました。
一方、米国・オーストラリアは年2〜3%台、中国は7%超を維持。

年1〜2%の違いでも、30年積み重なれば、次のような経済規模の開きになります:

  • 日本(1%):約1.35倍

  • 米国(2.5%):約2.1倍

  • 中国(7%):約7.6倍

つまり日本が「少しずつ成長」している間に、他国は2倍・7倍の経済規模になっていたのです。
この差は、生活水準、所得、税収、雇用、投資、すべてに影響を与えました。


第6章:経済停滞の真因と、制度的無策がもたらした損失

❶ 主な原因

  1. 需要喚起の不足
     → デフレ下での消費増税(デフレ下の増税はマクロ経済学的には禁忌である)、公共投資抑制が消費を冷やした(これもデフレ下では禁忌に近い)、これをやり続けたのが日本政府であった。

  2. 供給側改革の質的不足
     → 非正規雇用の拡大が“柔軟化”とされたが、実際には雇用の安定性と賃金を悪化させた(詳細は後述)

  3. 金融政策への過度な依存
     → 金融緩和は実行されたが、実体経済への波及が弱かった


❷ どうすればよかったのか?

  • 減税・直接給付・未来志向の公共投資で需要を強く刺激すべきだった

  • 職業訓練、リスキリング、転職支援などを通じて、労働者が自律的に成長できる実効ある制度が必要だった

  • 金融政策と財政政策の「両輪運用」が求められた


❸ 働きながら学ぶ人への制度的無策

日本には働きながら新しいスキルを学んだり、スキルを向上させたりする仕組みがほぼありません。職業能力開発大学校のような制度は理念としては素晴らしいものの、「働きながら学びたい社会人」にとっては使いづらすぎるのが現実です。働きながら学びたい社会人にとって使い勝手が悪い理由は下記の通りです。なお、近年いくつかの改善の試みがなされている可能性もありますが、制度の全体像としては依然使い勝手が良いとは言い難い状況です。

  • 平日日中の通学前提

  • 夜間・週末・オンライン講座の未整備

  • カリキュラムは伝統的技能職中心で、成長分野に対応できていない

「志ある人がたどり着けない制度」になってしまっているのです。


第7章:実効ある制度が生活を変える──フランスのCPFに学ぶ

フランスでは、職業訓練個人口座制度(CPF)により、年間100万人以上が再訓練を受け、60〜70%がキャリアの変化や賃金向上を達成しています。

成果が評価される理由:

  • 利用者が自ら講座を選び、自律的にスキルを更新できる

  • 就職率・満足度・賃金上昇などの成果指標を国家機関が毎年公表

  • 政府・企業・市民の間で、「コストに見合う成果がある」という共通認識がある

この制度は、個人の向上意欲を支え、雇用の安定と経済の成長を両立させる「実効ある公共投資」として評価されています。

日本との違いは、制度の“存在”ではなく、制度が生活を確実に変えるかどうかです。


おわりに

本記事では、マクロ経済学の視点から、市民が政策の“効き目”を見極めるための指標として、経済成長率とその関連指標の読み方を紹介しました。

日本の30年停滞は、その期間に政権を担っていた人々の失政である事は明らかです。

市民がマクロ経済学の基本的な視点を身につけ、政府の政策を数値で評価し、選挙という手段で意思を示す──その循環こそが、失われた10年・20年・30年を取り戻す力になるのです。


当サイト内他記事への移動は下記より

生活のヒント一覧表|Life Hackで人生はスイスイスイ!

当サイト内記事トピック一覧はこちら

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です