食料品消費税0%でイートイン飲食店は増税にならない!|簿記・会計・税制から説明

食料品の消費税が0%になっても、飲食店にとって増税にはなりません。
利益も納税額も、会計の仕組み上まったく変化しません。
本記事では、その理由を簿記・会計・税制の基本から丁寧に説明します。


Contents

■ 結論(先に明確に)

私の結論は以下の通りです。

  1. 「飲食店にとって増税になる」──これは完全な誤解です。

  2. 「飲食店がバタバタ倒産する」──これも会計的には誤りです。

  3. ただし、食料品0%で“自炊コストが下がって需要シフト”が起きれば、客足が遠のき経営が苦しくなる飲食店は一部出るかもしれない。

つまり「会計的には影響ゼロ」「市場の変化には影響あり得る」という構図です。

本記事では、ファイナンス修士でもある私・理屈コネ太郎が、
消費税の仕組み、簿記の基本、市場ニーズの移動
という3つの視点から、この問題を“シンプルに”解説します。
(もちろん、あくまで私の管見内の私見にすぎないこともご理解ください。)

関連記事➡食料品消費税0%で起きるかも知れないイートイン外食需要減少のハナシ


■ まず押さえるべき前提

食料品の消費税率が8%から0%になっても、

  • 飲食店の利益

  • 飲食店が最終的に支払う消費税の総額

この2つは、会計の原理上まったく変わりません。

そのため、
「仕入の消費税が控除できない → 飲食店が損する」
という説明は、仕入税額控除経費控除を混同した典型的な誤解だと言えます。

またときどき、ネット記事の中には、
「食材が非課税になると仕入れ時の消費税が控除できなくなるため、飲食店の税負担が増える」
と説明するものがあります。

ところが、この説明には重大な論理破綻があります。
食料品が非課税または税率0%になるなら、そもそも飲食店は仕入れ時に“消費税を払っていません”。
払っていない税金は控除できなくて当然であり、控除できないこと自体は飲食店の負担増にはつながりません。

余談ですが、こうした記事は、おそらく不十分かつ不正確なプロンプトに基づいてAIに書かせた記事だとわたしは睨んでいます。

同じブログの書き手として、大変に残念です。

さて、飲食店がバタバタ倒産しないと私が考える根拠は以下のものです。

食料品の消費税率が8%から0%になっても、会計的かつ税制的には、飲食店の利益も、実際に納付する消費税の総額はまったく変わりません。

以下でこの事について詳細に説明します。

この記事では食料品消費税率0%について論を進めますが、食料品非課税でも経営的視点でみれば全く同じ結果になります。

食料品消費税率0%と食料品消費税非課税は、税法上は異なる概念ですし、また経理処理も異なりますが、飲食店の経営視点でのアウトプットは全く変わりません。


仕入れ時に仕入れ先に支払った消費税は控除される

消費税は、取引のたびに積み上がっていく税ではありません。取引の中で生まれた「付加価値」にだけ課税されるしくみです。

そのため、仕入先に支払った消費税は、飲食料の提供時に客から預かった消費税から差し引くことが認められています。これが「仕入税額控除」という制度です。

ときどき、仕入れ時に支払った消費税は売り上げから経費的に控除すると誤解している人がいるので、消費税についてディスカッションする場合にはこの点に注意してください。

仕入時の消費税が控除できるのは、飲食店が消費者から預かった消費税から控除できるという…という点は是非とも銘記しておくのがよいでしょう。

さて、なぜ飲食店は消費者から預かった税額から仕入れ先に支払った消費税額を控除できるのでしょうか?
それは、控除しなければ、同じ商品の流通過程で何重にも課税されてしまうからです。いわゆる「二重課税」の回避措置なのです。(二重課税は本来は税制上では御法度ですが、実際には日本の税制には二重課税が散見されるようです)

さて、飲食店視点でのいくつかの具体的な試算を下記に示して説明します。


ケース1|現行制度:仕入時の食材に8%の消費税がかかる場合

  • 食材の仕入:税抜300円+消費税24円(8%)=支払324円

  • 客への飲食料の提供:税抜1,000円+消費税100円(10%)=受取1,100円

【消費税の動き】

  • 飲食店が客から預かる消費税:100円

  • 飲食店が仕入時に食料品店へ支払った消費税:24円

  • 飲食店が税務署へ納める消費税:100円-24円=76円(控除適用)

飲食店が実際に支払う消費税の「総額」は
24円(仕入時)+76円(納税)=100円

【利益の計算】

  • 売上(税抜):1,000円

  • 仕入(税抜):300円

  • 利益:700円


ケース2|消費税率0%が導入され、仕入食材が消費税0円になった場合

  • 食材の仕入:税抜300円+消費税0円=支払300円

  • 客への飲食料の提供:税抜1,000円+消費税100円(10%)=受取1,100円

【消費税の動き】

  • 飲食店が客から預かる消費税:100円

  • 飲食店が仕入時に支払った消費税:0円

  • 飲食店が税務署へ納める消費税:100円(控除対象なし)

飲食店が実際に支払う消費税の「総額」は
0円(仕入時)+100円(納税)=100円
(ケース1とケース2の違いは、飲食店がどのタイミングで誰に対して消費税を払うか…です。しかし、支払う消費税の総額は2つのケースで全く同じです)

【利益の計算】

  • 売上(税抜):1,000円

  • 仕入(税抜):300円

  • 利益:700円(変化なし)

この通り、食料品消費税が8%⇒0%となっても、飲食店が支払う消費税の総額も利益も全くかわりません(詳細は後掲の表を参照してください)。飲食店は仕入れ先への消費税控除額がなくなってしまって、それまでの比較して税額が増えてしまうというのは誤解だとご理解いただけるでしょう。


なぜ飲食店の納税負担が高くなると誤解されるのか?

仕入時の消費税が0%になると、「控除する金額が0になるので売り上げから控除できる費用が減り、飲食店の納税額が増える」と感じる人がいます。しかしこれは前に説明した通り仕入税額控除と経費控除とを混同したことによる誤解です。

食料品消費税率0%の場合、そもそも仕入時に消費税を払っていないのですから、そのぶんを控除できないのは当然です。税率が変わった場合、本記事のように変更前後を簿記や会計の原則、税制の仕組みに則って試算をすれば、こうした誤解を抱く事はありません。


結論:会計的には利益も消費税負担も一切変わらない

表にして確認してみましょう。

比較項目現行制度(仕入8%)消費税ゼロ(仕入0%)
支払消費税(仕入時)24円0円
納税額(税務署へ)76円100円
総支払消費税100円100円
飲食店の利益700円700円

つまり──

✅ 飲食店が利益を減らすことはありません
✅ 飲食店が支払う消費税の総額も同じ
✅ 倒産が増えるような要因は、会計的には存在しません


おわりに

消費税の議論は複雑に見えて、簿記の初歩で読み解けばごく単純です。会計学が、あるいは簿記が、ビジネスの基本中の基本である証左です。

仕入時に払わなければ、控除も発生しない。それは損ではなく、中立です。

したがって、食料品の消費税が0%になることが、会計的に飲食店の経営を圧迫することはありません。

ただし、簿記や会計の原理から解離した税制、たとえば簡易課税を採用している飲食店では事情が異なるかもしれません。

もし、簡易課税が現行のままで食料品消費税率0%が実施されたら、殆どの簡易税制を採用している飲食店は増益(簡易税制なので増益分を原則課税ほどには正確に補足できない可能性あり)するでしょう。

一方、世の中には、自分が経営する飲食店の消費税の納税額算定に原則課税の方が有利なケースであるとわからずに簡易課税を選択してる経営者もいるので、こういう経営者が食料品消費税率0%が実施され、また簡易税制の内容に変更が生じたら、食料品税率0%になったせいで納税負担が増えた…と心理的に感じるかもしれません。

最後にもう一点。

食料品消費税率0%が実施されると、飲食店の価格が相対的に高いと認識されて需要が外食から家庭内での食事にシフトするなどのマーケット的な理由で飲食店の経営を圧迫する可能性はあります。この点には注意しておく必要がありそうです。


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