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■ はじめに
日本人は投資に慎重だ、とよく言われる。
しかし、それを単純に「国民性」や「慎重な性格」で語るのはあまりに乱暴である。
日本人が投資を恐れるのは、
理にかなった“歴史的・心理的・構造的な背景”があるからだ。
本稿では、
日本株の長期停滞
GDPの低成長
デフレと緊縮政策
バブル崩壊という国民的トラウマ
金融教育の欠如
そして“清貧という幻想”
これらがどのように日本人の投資観を形づくり、
なぜ「投資に積極的になれと言う方が無理」なのかを明らかにする。
結論として、
日本人が投資を恐れるのは“合理的”であり、“環境がそうさせた”のである。
■ 第1章 日本株が30年以上ほぼ上がっていないという現実
投資行動の大半は「経験」から形成される。
では日本の投資経験はどうだったか。
1989年、日経平均は3万8915円をつけた。
その後の30年で、その高値を一度も更新していない。
長い期間、日本株は横ばいか下落で推移してきた。
同じ時期、米国株(S&P500)は10倍以上になった。
欧州・先進国株も右肩上がりで成長した。
つまり、
日本株に投資して資産が大きく増えた経験を持つ日本人はほとんどいない。
この経験を何十年も積み重ねた結果、
投資=危険
という認知が育つのは当然である。
■ 第2章 GDPが横ばいで、未来が開けて見えない
GDPは「国全体の所得」である。
日本は1995年頃からほぼ横ばいで推移し、
実質的な成長はほとんどなかった。
所得が増えない国で、
投資して未来を作る
資本を増やして自由度を高める
という発想が育つはずがない。
さらに、
非正規雇用の増加
給与の伸び悩み
可処分所得の低下
これらが「防御的な生活」を強化した。
未来に希望がない環境では、
人間はリスクではなく“確実性”を好む。
当然、投資は避けられやすくなる。
■ 第3章 デフレと緊縮政策が投資を“危険”に見せた
日本は20年以上デフレだった。
デフレとは「現金の価値が上がる」状態だ。
つまり、
何もしない方が得
現金で持っている方が安全
投資は“わざわざリスクを取る行為”
と見えてしまう。
ここに政府の緊縮政策が重なり、
増税や社会保障負担の増加が続いた。
国民は常に「生活防衛」に追われ、
投資どころではなかった。
■ 第4章 バブル崩壊という国民的トラウマ
1990年代のバブル崩壊は、
日本人の投資観を根底から変えた。
株で破産
不動産で人生が狂う
銀行の破綻
日銀の急激な引き締め
これらの経験は、多くの家庭に深い恐怖として刻まれた。
そしてこの恐怖は 親から子へ“価値観”として継承された。
「投資は危ない」という言葉は、
日本では理論ではなく“家訓”として受け継がれている。
■ 第5章 清貧という幻想──貧しさを美化する文化
日本には「清貧」という言葉がある。
しかし、清貧の本来の意味は、
清(せい)=清廉であること、潔く正しいこと
貧(ひん)=欲望を抑え、節度を持つこと
であり、
「物理的に貧しいことが美しい」という意味ではない。
ところが近代日本では、
素朴であること
我慢すること
贅沢を嫌うこと
お金を語らないこと
が、
“清く美しい生き方”として過剰に美化された。
これは儒教や仏教の価値観が混ざり、
戦時〜戦後の教育が強化した“文化的装飾”にすぎない。
人間の自然史では、むしろ
貧すれば鈍す
の方が真実に近い。
余裕がなければ判断力が落ち
不安で思考は短期化し
挑戦できず
将来に投資できない
清貧は、
貧しさに付与された“美辞麗句”であり、現実とは逆である。
しかしこの価値観が、
「投資=欲深い」「お金=卑しい」という感情を育て、
投資を遠ざける心理的基盤を作ってしまった。
■ 第6章 金融教育が圧倒的に欠如していた
日本では長く「お金の話」がタブーだった。
学校では教わらない
家庭で話さない
メディアは“投資=危険”を過剰に報道
投資に前向きな人を“ギャンブラー扱い”する文化
投資経験が乏しいまま、
偏った情報だけが蓄積されていった。
当然、日本人は投資を恐れるようになる。
■ 第7章 日本人が投資を恐れるのは“合理的”である
日本株の停滞、GDPの低迷、
デフレ、緊縮、増税、トラウマ、清貧、金融教育の欠如──。
これらすべてが絡み合い、
日本人が投資を恐れるのは合理的であり、
国民が悪いわけではない。
むしろこの環境で投資に積極的になれという方が無理である。
■ 第8章 世界は違う動きをしてきた
一方、米国・欧州・先進国の株式市場は、
この30年間で何倍にも成長した。
これは
技術革新
人口動態
投資による生産性向上
という、
“文明の自然な成長”の結果である。
つまり、
投資が危険なのではなく、
日本だけが世界と違う特殊な30年を歩んだ のだ。
■ 結び
日本人が投資に慎重なのは、
性格ではなく歴史的な必然である。
しかし、その認識は「日本の30年」に限定されたものであり、
世界全体の流れとは異なる。
投資=危険という認知バイアスから解放される方法は、
“日本以外のデータを見ること” から始まる。
そして、
世界の成長の歴史を知れば、
投資への恐怖は自然と消滅するだろう。
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筆者紹介は理屈コネ太郎の知ったか自慢|35歳で医師となり定年後は趣味と学びに邁進中
