Contents
第0章|本記事の位置づけ
人は、事前の取り決め通りには動かない。
これは珍しい現象ではない。
現実には、
約束は外形的には守られているが、
品質的には合意時の想定下限周辺レベルという事態が、
頻発している。
このズレは、
相手の性格の問題でも、能力不足の問題でもない。
また本記事は、
人を動かす方法や、説得や管理の技術
を語るものではない。
誰に、何を頼むかを考えるときの
構造的な見方として、
「やりたい・やってもいい・やりたくない」
という相手の気持ちで考える三分法を提示し、
それを使うと、なぜ摩擦・失敗・反感が減りやすいのかを整理する。
このを手がかりに、
相手の気持ちの位置を機微として推察し、
その前提で事前合意を行うことで、
結果に対する不要な手間やコストを減らす事ができる。
本記事の目的は、それに尽きる。
第1章|気持ちは、仕事の「結果」に必ず影響する
同じ仕事、同じ業務内容であっても、
する人の気持ちで結果には明確な差が出る。
差が出るのは、
成果物の質
仕上がりの丁寧さ
想定外への対応
完了までの摩擦の量
といった部分だ。
この差を生む最大の要因は、
能力や経験よりも、その仕事に対する気持ちである。
整理すると、次のようになる。
やりたい
合意形成時の想定どおりの結果になることが多い。
追加の監理がほとんど要らず、
想定外への対応も摩擦なく完了しやすい。
やってもいい
成果は合意時の想定水準は満たすことが多い。
ただし、報酬(金銭、ポスト、待遇、モノなど)や条件とのバランス次第で、
想定より品質が下がることがある。
やりたくない
合意は成立する。
しかし、業務内容を基準にした報酬(大抵は金銭である)では、
依頼主からは見えない箇所での手抜きや不正が発生しやすく、
追加的な監理・確認・予防のコストが必要になる場合がある。
この考えは、自分がやりたくない仕事を仕方なく引き受けたときの事を思い出せば、多くの人にご理解いただけると思う。
自分ではやりたくない気持ちを抑えてそれなりの品質の成果物を返したつもりだったのに、
思いもしない場所や数の修正を求められた、あの経験である。
第2章|仕事を頼むとき、何が見落とされがちか
誰かに仕事を依頼するとき、
多くの人が注目するのは、
過去の実績
スペック
肩書
である。
しかし、それらは
今回依頼する業務の結果を保証しない。
問題は、
この人は何ができるか
ではなく、
この業務内容について、
その人がどんな気持ちで関わるか
という点にある。
実績や能力は、
「できるかどうか」の参考にはなる。
だが、
どの水準の結果が出てくるかは、
気持ちの位置によって大きく左右される。
第3章|三分法という、あえて粗い判断フレーム
「やりたい・やってもいい・やりたくない」という三分法は、
精密な分類ではない。
中間状態やグラデーションは、当然存在する。
しかし、実務においては、
それらを精密に測ろうとすると、
判断が遅れる
言語化競争になる
建前と本音が混ざる
といった問題が起きやすい。
そのため本記事では、
あえて粗く、どれかに落として考える。
この割り切りによって、
結果的に失敗が減る。
三分法は、
分析のための理論ではなく、
判断を単純化するためのフレームである。
第4章|本人の説明は、気持ちの位置を示さない
ここで言う「説明」とは、
本人が語る「やりたい理由」や「やっても良い理由」などのことだ。
やりたい理由
やってもいい理由
やりたくない理由
しかし現実には、
本人自身も、自分の気持ちとその理由を、
本当の意味で正確に言語化できているとは限らない。
そのため、
本人の説明は、
結果予測には使えないことが普通である。
そして社会では、人は
「本音ではやりたくない仕事」を引き受ける事が少なくない。
理由はさまざまだ。
組織内の担当者だから
自営業者で、経営的に断れないから
プロフェッショナルとして、
経験則に照らし、
潜在的に多くのリスクを含むと感じつつも、
職業倫理規定上、引き受けざるを得ないと判断したから
これらは、
意欲の表明ではなく、
立場や状況による選択である。
したがって、
言葉として明確に語られる「やりたい」あるいは「やっても良い」理由と、
実際の気持ちの位置は、
一致しないことが普通に起こる。
第5章|やりたくない人に任せると、なぜ破綻しやすいか
やりたくない人に仕事を任せた場合でも、
合意は成立する
約束も外形的には守られる
しかし、成果は、
合意時の想定下限周辺に張り付くか、
それを下回りやすい。
それを防ぐために、
監視
確認
注意喚起
シグナル発信
といった作業が増える。
結果として、
監理コストがベネフィットを上回り、
依頼した意味が、
ファイナンス的にも論理的にも破綻する。
問題は、
仕事をやるかどうかではない。
期待した水準の成果が出るかどうかである。
第6章|この構造は、立場や場面を問わず成立する
この構造は、特定の立場に限らない。
社長
プロジェクトマネージャー
管理職
若い起業家
フリーランス
プライベートでの依頼
有償・無償も関係ない。
共通しているのは、
人間は、やりたくないことを任されると、
義務であっても、
仕事の質が低品質になりがちである。
もちろん、
常に「やりたい人」だけを選べるわけではない。
だからこそ、
完璧なマッチングではなく、
不良率・摩擦・失敗が最も少なくなる選択
を目指すことになる。
結語|だから「やりたい人に頼む」が最も合理的
三分法は、
人を評価する理論でも
人を操作する技術でもない
失敗確率と摩擦コストを下げるための思考レンズである。
積極的には、
やりたい人に仕事を依頼する。
次善の策として、
やってもいい人に正当な対価を支払い、
必要に応じて確認する。
そして、
やりたくない人に、
合意だけを根拠に仕事を任せることは、
避けた方がよい結果につながりやすい。
これは、感情論でも、べき論でもない。
現実の構造を、
少しだけ正確に見るための視点である。
