本記事は、
「良い上司になる方法」を語るものではありません。
これから働く人、あるいは経験の浅い人が、
ダメな上司を早い段階で見分けるための視点を整理したものです。
人格評価や相性論ではなく、
上司という役割が構造的に成立しているかどうかだけに注目します。
Contents
はじめに|「良い上司像」を増やさないために
良い上司の条件を挙げ始めると、きりがありません。
部下思いであること、育成力があること、ビジョンを語れること。
どれも間違いではありませんが、それらは多くの場合、「理想像」の話です。
本稿で扱いたいのは、
好かれる上司でも、尊敬される上司でもありません。
その人は、上司という役割として成立しているか。
この一点だけを、できるだけ少ない条件で見極めるための基準を提示します。
人格や相性、能力論はいったん脇に置きます。
第1章|上司とは「上にいる人」ではなく「引き受ける人」である
上司という言葉は、しばしば
「指示系統の上位にいる人」
という意味で使われます。
しかし、役割としての上司の本質は、そこではありません。
上司とは、
判断の結果がどう転んでも、
その責任を引き受ける立場にある人です。
決断、調整、失敗処理。
誰もやりたがらないこれらを引き受ける非対称な役割。
本稿で提示する条件は、すべてこの前提から導かれます。
第2章|条件① 責任を引き受けること
上司かどうかは、成功時よりも失敗時に可視化されます。
想定外が起きたとき
判断が裏目に出たとき
現場が混乱したとき
その際に、
「現場が判断した」
「部下が勝手にやった」
という言葉が出てくるなら、その人は上司として成立していません。
能力不足は致命傷にならないことがあります。
しかし、責任回避は必ず組織を壊します。
第3章|条件② 部下の手柄を横取りしない
成果配分は、感情論ではありません。
インセンティブ設計そのものです。
上司が部下の成果を横取りすると、
判断が保身に寄る
報告が歪む
本来出てくるはずの改善案が消える
結果として、組織全体の判断品質が下がります。
手柄を横取りしない上司は、
必ずしも評価されなくても、役割としては成立しています。
逆に言えば、評価を欲しがる上司は危うい存在です。
第4章|条件③ 過剰に不謹慎でないこと
上司の発言は、本人の意図とは無関係に権力を帯びます。
冗談、軽口、揶揄。
同僚間なら問題にならない言葉でも、
上司の口から出た瞬間、意味が変わります。
これはハラスメント以前の話です。
問題は「不快かどうか」ではなく、
余計な精神コストを発生させていないかです。
上司に必要なのは、場を和ませる能力ではありません。
場を壊さない自制です。
第5章|条件④ 判断を先送りにしないこと
現実の判断は、常に情報不足の中で行われます。
それでも、時間制約は待ってくれません。
上司は、
「知っているから決める人」
ではありません。
引き受ける覚悟があるから決める人です。
判断を先送りする上司は、一見すると無害に見えます。
しかし実際には、
責任が現場に分散し
成功は上に集まり
失敗は下に落ちる
①と②を、静かに破壊します。
第6章|条件⑤ 上位性だけで人を動かそうとしないこと
ここが、本稿で新たに加えたい条件です。
自分が上司であるという事実だけを根拠に、
十分なメリットも提示せず、
やりたくないと思っている人に命令して従わせる。
この態度は、厳しさの問題でも、冷酷さの問題でもありません。
構造理解の欠如です。
第7章|人は「やりたい・やってもいい・やりたくない」で動いている
人は、事前の合意通りには動きません。
少なくとも、品質は一致しません。
仕事に対する気持ちは、大きく分けて三つあります。
やりたい
やってもいい
やりたくない
やりたくない位置にいる人に、
権限だけで仕事を任せるとどうなるか。
合意は成立します。
約束も外形的には守られます。
しかし成果は、
想定下限周辺に張り付き、
監理・確認・修正のコストが増え、
最終的には依頼自体が非合理になります。
これは感情論ではありません。
失敗確率と摩擦コストの話です。
(※詳細は
「人に頼むと仕事品質が下振れする理由|『やりたい・やってもいい・やりたくない』」
を参照してください)
第8章|「心の機微に敏感」とは、共感力の話ではない
ここで言う「心の機微」とは、
感情に寄り添うことでも、空気を読むことでもありません。
この人は、どの位置にいそうか
権限で押すと、品質はどうなるか
追加の監理コストは許容範囲か
これを前提条件として扱えるかどうかです。
本人の説明や建前は、
気持ちの位置を正確に示しません。
だからこそ上司には、
冷静な推察力と、設計意識が求められます。
終章|五つを満たしていれば、上司としては十分である
本稿で提示した条件は、五つです。
責任を引き受ける
手柄を横取りしない
過剰に不謹慎でない
判断を先送りにしない
上位性だけで人を動かそうとしない
育成力や人格、カリスマ性は必須条件ではありません。
嫌われても、尊敬されなくても、
この五つを満たしていれば、上司としては成立しています。
上司を神格化しないためにも、
条件は増やしすぎない方がよい。
読者自身が、
過去に出会った上司を静かに振り返る。
本稿が、そのための物差しになれば十分です。
