医者はなぜせっかちで不機嫌に見えるのか|その理由は「時間」と「命」にある

医者なぜいつもせっかち、不機嫌?
医者なぜいつもせっかち、不機嫌?

Contents

はじめに

医者がせっかちに見えるのは、次の2点において時間に追われているためだと考えられます。

第1に受診者を危機に晒したくないこと。
第2に待合室にいる受診者全員を診療時間内に診療し終えなければならないことです。

以下、やや専門的な言葉が出てきますし、論理展開も『理屈コネ太郎』の文章能力の限界により難解に感じられる箇所があるかもしれません。

現状のベストを尽くしますが、読者の方に負担をかけてしまう点はあらかじめお詫びいたします。


第1の理由|受診者を危険に晒したくない

医者がせっかちになる理由はなぜ?診断が遅れると命に係わるから

さて第1の理由である「受診者を危険に晒したくない」という点から、なぜ医者がせっかちになるのかについて説明していきます。

まず知っておいていただきたいのは、稀ではありますが、診断や治療の開始が分単位で遅れることで、受診者の状態が著しく悪化し、その後の人生に決定的な影響を与えてしまうケースがあるということです。


「胃が痛い」は本当に胃の病気?症状と原因が一致しない理由

具体的に『理屈コネ太郎』が経験した一例を挙げます。

ある日(診療時間内)に「胃が痛い」と言って来院した受診者Aさんがいました。

「胃がとても痛いので、薬をもらおうと思って仕事を途中で切り上げてきた」とのことでした。

痛い場所を指差してもらったところ、Aさんの言う「胃」とは、医学用語では「上腹部」あるいは「心窩部」と呼ばれる部位でした。

心窩部に痛みを発症する病気は非常に多く、胃潰瘍、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)、胆嚢や膵臓、さらには心臓や血管の病気でも、受診者は「胃が痛い」と表現することがあります。

それぞれの病気や重症度によって治療方法は大きく異なります。

まずは、質的に異なるさまざまな病気でも、人は「胃が痛い」と感じることがあるのだと理解していただきたいと思います。

実際に、別の受診者Bさんは、大動脈解離(しかもStanford A型)で「胃が痛い」と訴えて受診されたことがありました。

Bさんは胸でも背中でもなく、心窩部を指して「胃が痛い」とおっしゃったのです。

必要性を説明して検査したところ、大動脈解離だと診断がつき、至急専門の医療機関に転送となりした。

もし「胃が痛い」との言葉を信じて胃カメラの予約と胃薬の処方だけで済ませていたら、その患者さんは落命したかもしれません。

このように、受診者の表現をそのまま鵜呑みにすることは、医療においては非常に危険だといえます。こうした患者・医師間のコミュニケーションの困難性については別記事患者と医師がズレる本当の理由で詳述しています。


医者が検査を勧める理由は?患者の希望とのズレ

そのため、当該受診者にはこの点を説明したうえで、血液検査、心電図、造影CT、腹部超音波、上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)の実施を勧めました。

しかしAさんは「これは胃の痛みなので、胃薬だけもらえれば大丈夫です」というご希望でした。


インフォームドコンセントとは?医療はなぜ患者の意思優先になったのか

現在の医療ではインフォームド・コンセントが基本となっており、受診者が望まない検査や治療は原則として行いません。

日本では、ある事件を契機として、医学的合理性よりも受診者の自己決定権を重視する流れが強まりました。

そのため、「胃が痛いので胃薬を出してほしい」と受診者が希望した場合、医師がH2ブロッカーやPPIを処方することは、医学的には必ずしも合理的ではないものの、自己決定権を尊重するという観点では許容される行為とされています。

インフォームド・コンセントの概念がなかった時代には、このような診療は医学的にも社会的にも評価されないものでした。

なぜなら、治療は行っていても、その前提となる診断が行われていないからです。

かつての医療では、医学的合理性が個人の決定権よりも優先されており、場合によっては半ば強制的に検査や治療が行われていました。

つまり、
医学合理性 > 個人の決定権(過去)
医学合理性 < 個人の決定権(現在)
という構造の変化があったといえます。


医者が何度も確認する理由は?説明しても検査しない患者

そのため『理屈コネ太郎』はAさんに対して、「これだけ強い心窩部痛で受診されているにもかかわらず、評価をせずに胃薬だけ処方するのは根拠のない行為ですが、それでもよろしいですか」と何度も確認しました。

しかしAさんは、「大丈夫です。間違いなく胃なので、胃薬だけでいいです。自分の身体なのでわかります」と考えを変えませんでした。

その結果、カルテにその旨を記載したうえで胃薬を処方し、Aさんは帰宅されました。


医療で時間が重要な理由|説明20分が持つ意味

Aさんには、昼間の診察時に約20分近い説明時間をかけましたが、結果的に検査は実施されませんでした。

結果を知っている今となっては、この説明時間は無駄だったといえるかもしれません。

そしてこの20分は、そのとき待合室で待っていた他の受診者の時間でもあります。

待合室の中に、この受診者と同程度、あるいはそれ以上に重症化寸前の方がいなかったと、誰が断言できるでしょうか(実際にはCさんやDさんのように分単位の判断が必要な方がいました)。


夜間救急はなぜ大変?再受診で何が起きたのか

その日の21時頃、Aさんの奥様から連絡があり、「胃痛が治まらないので診てほしい」とのことで、22時頃に再受診となりました。

今度は検査への同意が得られたため、夜間の限られたマンパワーの中で胃カメラ以外の検査を実施したところ、胆石胆嚢炎および総胆管結石疑いと診断されました。

その後入院となり、抗生剤治療、ドレナージ、各種検査、手術を経て、約10日後に退院されました。


夜間の医療体制はなぜ厳しい?医療資源とマンパワーの問題

夜間はどの医療機関でも人員が限られています。

看護師は入院患者の対応に追われ、医師も当直体制であり、日中とは状況が大きく異なります。

そのような状況の中で、Aさんに約2時間を費やして検査を行いました。

もし原因が心臓や大動脈であれば、専門機関への搬送が必要ですが、夜間の受け入れには明確な根拠が求められます。

そのため、夜間でも原因と緊急度を可能な限り見極める必要がありました。


患者の行動は他の患者に影響する?待合室の構造

読者の方には、待合室で待っている状況や、入院中の状況を想像していただければと思います。

Aさんの行動が、他の受診者の時間や機会に影響を与えている可能性は理解していただけるのではないでしょうか。

もちろんAさんの考え方は、多くの一般の方にとって自然なものです。

しかし、このようなケースが積み重なることで、医療現場全体に影響が及びます。

そのため、医師はどうしてもせっかちにならざるを得ない側面があります。


第2の理由|待合室の全員を診療時間内に処理する必要

医者と看護師の違いは?なぜ医師だけが厳しく見えるのか

医師以外の医療職は、受診者に対して受容的であるよう教育されています。

特に看護師はその傾向が強いです。

そのため、受診者に対して厳しい指摘ができるのは、実質的に医師だけという構造になっています。


医者が質問を遮る理由は?必要な情報だけを求める構造

診察室では、医師は診断に必要な情報だけを求めています。

不要な情報は、時間を奪うだけでなく、診断を誤らせるリスクにもなります。

そのため、質問には端的に答えることが求められます。


医者が不機嫌に見える理由は?診療時間と生活の制約

さらに、医療従事者にも生活があります。

勤務時間内に診療を終える必要があるため、診療が滞るとストレスがかかります。

その結果、せっかちに見えたり、不機嫌に見えたりすることがあると考えられます。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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