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はじめに:「職業政治家」の何が問題なのか?
結論を述べると、職業政治家は政治活動が職業であり、その他の生活基盤を持ちません。その構造そのものが、職業政治家の脆弱性であり問題点なのです。
民主主義制度のもとで、私たちは選挙を通じて議員を選び、政治の舵取りを託しています。しかし、その議員が「職業政治家」の場合、果たして私たちの期待通りの活動をしてくれるのでしょうか?
既述した職業政治家の問題点がこの危惧といかにリンクするのかを、この記事では、職業政治家の定義からその長所・短所、そして有権者に求められる鑑定眼について理屈コネ太郎の私見を述べます。
職業政治家とは何か?
「職業政治家」とは、議員報酬・政党助成金・献金や寄付、パーティー開催を主たる収入源とし、他に生計手段を持たない政治活動を行う人々を指します。一般に職業と認知されている仕事、例えば企業に勤めることや自分でビジネスを運営したり、フリーランスで仕事をしたりはしません。
つまり、彼らにとって政治家でいることは“職業”であり、特に選挙で当選して議員になることは、一定期間ではあっても正規雇用の立場を手に入れて、さまざまなフリンジベネフィットを受けられるという意味を持ちます。職業政治家にとって、献金や寄付金を集めることや、特に当選して議員になることは、何としても成就させたい願いなのです。
職業政治家の長所:知識と経験の蓄積
職業政治家の議員には当然、肯定的な側面もあります。特に国政レベルの政策決定や議論においては、高度な集中力と論理性が求められるので、通り一辺倒の大衆に耳障りの良い正論だけでは、真に生産的な議員活動はできません。
生産的な議員活動には、議員自身の生活のすべてを国益のための政策立案や、見逃されている社会的課題に鋭く切り込む質問主意書作成に集中させるような、知的労働が必要です。
こうした作業は兼業政治家ではなかなか困難です。であれば、生産的な議員活動をしてもらうためにも、特に国政議員には生活に心配がない給与なり報酬なりが支給されるべきです。生活に心配のない政治一本で生きている職業政治家議員には、それゆえ次のような存在意義があります。
高い政策の専門性:法制度・国際関係・行政システムに精通し、長年の経験が政策に活かされる。
継続性のある対応:長期間の政務参加により、一貫したビジョンで政策を進められる。
人脈の広がり:行政、民間、国際社会との連携において、信頼関係が築かれやすい。
ただし、これらのメリットが真に発揮されるのは、「政治的理念」と「公益」が活動の中核にある場合に限られます。
職業政治家の短所:生活基盤としての“政治”
1. 他の生活手段がないという構造的リスク
議員は「落選すればただの人」と言われたりしますが、実際はただの人よりつらい状況かもしれません。なぜなら、他の生活基盤がないので、落選すると収入が激減して、場合によっては生計が立ちいかなくなるからです。職業政治家は“議員であること”で安定的な歳費を国から支給されます。
この安定的な歳費によって、本人や家族の生活を安定したものにできるのです。したがって、「落選=無職=生活不安」となるような職業政治家の在りようを普通に推測すれば、彼らが他人のためよりまずは我と家族のため…という心境で、次の選挙で当選することを最優先に位置づけて行動するのは、彼らの立場では合理的な行動でしょう。
2. 当選のため支持母体への迎合と信念の形骸化
これまで述べてきたように、職業政治家は信念や哲学よりも「当選するための戦略」を優先することが珍しくありません。特に集票力があるとされる支持母体や支持団体を持つ議員は、そうした団体の意向を自身の政策に反映させないわけにはいきません。なぜなら、そうした団体からの票が彼らを当選させて議員にしてくれるからであり、彼と彼の家族に、議員とその家族という安定的な社会的立場を与えるからです。
つまり職業政治家は、以下のような行動をしがちです。
支持母体の主張を、公益性や国益より優先させる
支持母体以外の人々に向けて、「一般受け公約」を掲げる
現実性を無視して、耳障りの良い政策を並べる
当選後にさらりと公約を破棄し、「情勢が変わった」と説明しつつ、何の情勢がどう変わったかについては明言しない
日本の内閣総理大臣はかつて、「選挙公約は必ずしも守られるものではない」と国会の場で答弁したことがあるくらいですから。
残念なことに、こうした職業政治家の言動が常態化しても、職業政治家は次の選挙でも当選してしまいます。
なぜなら、支持母体や支持団体の構成員、その呼びかけによって動員された人々が投票に行く一方で、普通の人は政治に関心がなく、投票率が低いからです。
LGBT法案や夫婦別姓法案など、日本国民のほとんどが困っておらず無関心である問題が、さも優先度の高い社会的インパクトの大きな問題であるかのように国会で議論され、ときに可決されてしまう原因は、低い投票率が組織票や動員票の比率を、国民全体の中での比率以上に引き上げてしまい、日本全国で見れば優先順位の低い小さな問題が、少数の特殊な人たちによって国会で最優先に議論すべき問題に位置づけられてしまうという、民主主義の誤作動が発生するのです。
3. “なれ合い”と利権構造の温床
職業政治家は長期にわたって議員を続けることで、他の政治家や団体、業界との間に、良く言えば顔見知り関係、悪く言えば利害共有関係(一種の共犯関係)が生まれやすくなります。それは、以下のような構造です。
議員同士の選挙時における「持ちつ持たれつ」
業界団体からの多額の寄付金と引き換えに、当該業界に都合の良い政策
個人(外国人を含む)による大量のパーティー券購入という形式での政治資金提供と、その特定の人々に都合の良い政策
資金提供者 ⇒ 議員 ⇒ 資金提供者に好都合な政策
という、見方によっては買収とも解釈できる構造が慢性的に発生しており、長期間の議員生活の中で、こうした構造を法に触れないようマネジメントするノウハウも洗練されています。
このような「馴れ合いの政治」は、本来あるべき政策目標をねじ曲げてしまうのです。
4. 世襲議員は職業政治家の究極形態
職業政治家議員の究極形の一つが「世襲議員」です。世襲議員は、親や祖父といった近親者から政治地盤を譲り受け、同じ選挙区・同じ政党で立候補することで、非常に有利なスタートを切ることができます。
彼らにはすでに確立された後援会や支援団体が存在し、看板(知名度)と地盤(支持基盤)を受け継いでいるため、新人候補とは比べものにならないほど楽に当選しやすい立場にあります。加えて、政治資金についても世襲の際に非課税で継承できるケースが多く、政界参入のハードルは極めて低くなっています。
こうした状況では、世襲できる人物が存在すれば、「世襲しない方が変です」…というくらい、世襲への道は開かれているのです。
そのため、本人の意思や能力とは無関係に、親や周囲の人々が敷いたレールの上を走るかたちで政治家になるケースも少なくありません。こういう人は、幾人かの例外を除けば、大抵は何年経っても成長の痕跡が見られず、議員として仕事らしい仕事をしない人です。
繰り返しますが、世襲政治家の中には、傑出した人物も存在します。しかし、それ以上に「何もしない」「言われたことしかしない」「地元で選挙活動しかしない」議員も多く、そうした存在が長年にわたって議席に居座ることで、政治の硬直化や世代交代の阻害を招いています。
権力は自己保身に帰結する構造的宿命
職業政治家である議員にとって、権力とは「より良い明日を社会実装する手段」ではなく、「地位と生活の維持装置」、さらには「快感装置」となりがちです。
正規の議員報酬はもちろん、「快感装置としての権力」を手放したくなくなるのは、人間の心理として当然です。だから政治家は、「次の選挙でどう勝つか」を思考の中心軸に、意識的か無意識かは別にして、据えるでしょう。
そうなると…
選挙の時だけ短期的な人気取り政策に終始し
本質的な構造改革を避け
自己責任を回避し続ける
という怠惰な政治が起きます。
そして興味深いのは、自身が当選するためであれば、同じ所属政党の他の議員が落選することすら選択肢として飲み込んでしまうのが、職業政治家の性質だという点です。もっと凄い職業政治家になると、とにかく当選するために元来の政策とは無関係な政党に乗り換える事も厭いません。
私たち有権者にできること
このように考えると、少なくとも自分が投票権を持つ選挙では、必ず投票に行って、組織票や動員票の影響を相対的に薄める事が大切だと気づきます。棄権や白紙投票はダメな職業政治家を喜ばせるだけです。
立候補者のメンツがあまりにプアすぎて誰に投票したら良いのかわからない。これは多くの有権者が抱く実感でしょう。
そういう時は、
以下の観点を考えながら消去法で選ぶことをおすすめします。
候補者の過去の公約と実行度を確認する(当選目的用の公約かも)
政策内容よりも「誰に向けた発言か」を読み解く(支持母体への配慮)
本音と建前の落差を見抜く(候補者は当選するために本音を隠します)
そして、あなたが考える「当選させてはいけない人」には、うっかり間違って投票しないという姿勢が大切ですね。
そしてもうひとつ、自身の全ての投票行動を記録するのがおススメです。誰にどういう理由で投票したのか。これを記録しておくと、その後の答え合わせによって自分の鑑定眼を養うのに大いに役立ちます。いかに職業政治家が、国益や公益よりも、自身の当選を最優先に行動してるかが分かってきます。
このすこしだけ慎重な判断が、民主主義をまとも機能させる第一歩だと、理屈コネ太郎は思います。
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