女性天皇と女系天皇の違い|歴史が示す日本の皇位継承のかたち

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はじめに|「女性天皇=女系天皇」ではないという事実

近年、「女系天皇も認めるべきでは?」という議論を耳にする機会が増えました。
しかしながら、その中でしばしば見落とされているのが、「女性天皇」と「女系天皇」の違いです。

今後の天皇のあり方は、時代とともに日本人が考え、決めていくべき問題です。未来の日本人が女系天皇でもいいよね…と判断すれば、皇位継承の在り方はそうなっていくでしょう。
そのためにも、これまでの日本がいかに皇統を維持してきたかという歴史的な事実を知っておくことは、今後を考える土台になります。

本記事では、今後の皇位継承の在り方を考える土台として、事実としての歴史的背景と制度の構造を簡潔に整理してみたいと思います。


女性天皇と女系天皇はどう違うのか?

まず、定義を明確にしておきます。

  • 女性天皇とは、天皇に即位した「女性」のこと。
     → 歴史上、8代10人が存在。すべて男系(父が天皇または男系皇族)の女性でした。

  • 女系天皇とは、母が天皇の血筋でも、父が皇統の外(父方を遡っても神武天皇に行きつかない)の子が即位すること。
     → 歴史上、一例も存在していません。皇統の系譜以外の父親を持つ人物が日本の天皇になった事はないのです。因みに女系天皇という言葉は最近になって使われ始めた言葉で、女系天皇という概念そのものが最近まで存在しませんでした。

つまり、「女性の天皇」=「女系天皇」ではありません。
両者はまったく異なる概念です。


日本には10人の女性天皇がいたが、すべて男系女性だった

日本史において、女性天皇は10人存在します(うち2人が重祚)。
しかしいずれも「男系の女性」、すなわち父親が天皇または男系皇族であることが共通しています。

名前在位父親男系か女系か
推古天皇592–628年欽明天皇男系女性
皇極・斉明642–645年・655–661年茅渟王(欽明の孫)男系女性
持統天皇690–697年天智天皇男系女性
元明天皇707–715年天智天皇男系女性
元正天皇715–724年草壁皇子(天武の子)男系女性
孝謙・称徳749–758年・764–770年聖武天皇男系女性
明正天皇1629–1643年後水尾天皇男系女性
後桜町天皇1762–1771年桜町天皇男系女性

このように、女系(父が民間人など)天皇は1人も存在しません。


女性天皇は「中継ぎ」として即位してきた

多くの女性天皇は、皇位後継者である男系男子がまだ幼い、あるいは政局が混乱しているといった事情から、中継ぎとして即位しています。

例:

  • 持統天皇:孫(文武天皇)が幼かったため、自ら即位して繋いだ

  • 元明・元正天皇:息子・甥である聖武天皇の即位を準備するための中継ぎ

  • 後桜町天皇:甥の後桃園が幼少だったための代行的即位

こうしたケースでは、女性が即位することが皇統の断絶を防ぐための暫定措置と位置づけられていました。


男系女性天皇のあとの男系男子をどう擁立したか:遠縁から探してきた事例も

たとえば、称徳天皇(孝謙天皇の重祚)の崩御後、女帝は子を持たず、皇統が絶えるかに見えました。
しかし朝廷は、天智天皇の孫(息子の息子なので男系男子)である**白壁王(のちの光仁天皇)**を見出し、皇位を継がせます。

このように、直系の男系男子がいないときには、男系血統をたどって遠縁からでも後継者を探すという姿勢が一貫して保たれてきました。つまり、女系天皇という選択肢は存在しなかった。良いも悪いもありません。それが日本の歴史です。


なぜ女性天皇は「男系でない男性」と結婚しなかったのか?

もう一つ重要な事実があります。
歴代の女性天皇たちは、即位中または即位前後に、民間出身者など皇統外の男性と結婚した例がありません

これは、皇統の純粋性を守るという抽象的理念のためというよりも、継承を巡る争いを避けるための現実的な判断だったと考えられます。

たとえば、もし女性天皇が民間出身の男性と結婚し男子を産んだ場合、その子は「天皇の実子」でありながら、父が皇統外のため、制度上は天皇になれません
そうした状況は、直感的には納得しがたく、「なぜ(女性)天皇の息子が天皇になれないのか?」という疑問が社会的対立を生む可能性があります。

そのような後々の混乱を未然に防ぐために、女性天皇たちは自ら結婚を控えるか、皇族男性としか婚姻しなかったのだと見られています。


結論|未来を決める前に、これまでを正しく知っておきたい

皇位のあり方について、将来の日本人がどう決めるかは、国民的な議論によって定まるべきものです。
その際、どんな立場を取るにしても、「女性天皇」と「女系天皇」は違うものであること、
そして歴史上、女系天皇が一度も存在せず、女性天皇もすべて男系女性だったという2千年以上続く事実は、出発点として共有されるべきではないでしょうか。

こうした歴史的事実を踏まえたうえで、それでも日本人が女系天皇を認めるというのであれば、それはまた新しい日本のひとつのカタチかもしれません。

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