持ち家 vs 賃貸(1/4)|総支出額比較では腑に落ちない理由

持ち家と賃貸の選択を前に、将来とお金について思索する男女のイメージ。家・資産・住まいの自由度を対比的に表現した写真風ビジュアル。
「どちらが得か」ではなく、「なぜ腑に落ちないのか」を考えるための視点。

Contents

本記事の性質と結論

本記事は、持ち家と賃貸の優劣を「総支出額の比較」によって判断しようとする議論が、なぜいつまでたっても埒があかず、腑に落ちないのか──その理由を整理するものです。
また本記事は、持ち家 vs 賃貸論争に関する四部作の第一部に位置づけられます。

本記事の論旨は明確です。

持ち家 vs 賃貸の優劣を「総支出額の比較」で判断しようとする限り、
この論争は恐らく永久に終わりません。
なぜなら、その総支出額の積算方法自体が現実から乖離しており、
人々が本当に知りたい問いの核心に届いていないからです。


費用積算による比較では埒が明かない理由

1. 積算の範囲が、そもそも狭い

多くの比較記事や動画では、

  • 購入価格

  • ローン利息

  • 固定資産税

  • 修繕費

  • 家賃総額

といった、金額として把握しやすい項目が並べられます。

しかし、現実の人生には、

  • 収入の増減

  • 転勤や離職

  • 家族構成の変化

  • 健康状態の変化

  • 住環境への不満や飽き

といった、意思決定に決定的な影響を与える変数が数多く存在します。

これらは事前に確定額で計算しにくいため、
多くの総支出額試算からは、意図的に、あるいは無意識に除外されています。

その結果、
積算は成立しているように見えても、
人生の変数がごっそり抜け落ちています。
だから、どこか腑に落ちず、埒が明かないのです。


2. 税制や市場動向の「変化」を計算に入れていない

住宅ローン控除や各種税制優遇を組み込んだ比較も多く見かけます。

しかし、その多くは、

  • 現行制度が将来も続く

  • 控除条件が変わらない

  • 所得水準が安定している

  • 金利も安定している

  • インフレやデフレの影響を考慮しない

  • ローン完済後の持ち家資産価値を十分に検討していない

といった、極めて楽観的で粗い前提の上に成り立っています。

多くの費用比較は、

「今の制度が30年間変わらない前提」

という、現実には存在しない世界線を暗黙の前提としています。

これでは、現実の意思決定に使えるはずがなく、
やはり埒が明かず、腑にも落ちません。


3. 賃貸の「調整能力」が計算から抜け落ちている

賃貸の本質は、支出総額そのものにはありません。

  • 事情によって住居費を下げられる(逆もまた可能です)

  • エリアを変えられます

  • 生活水準を調整できます

という、調整弁の多さにあります。

引っ越しコストは確かにかかります。
しかし、

  • 家賃水準を下げる

  • ライフステージに合わせて住環境を変える

という選択肢を持てること自体が、
賃貸の重要な価値です。

費用積算による比較では、

「一度決めた住居費を、何十年も固定として考える」

という前提が置かれがちですが、
それは賃貸の現実を反映していません。


4. 「同じ物件を買うか借りるか」という前提が非現実的

費用比較の多くは、

  • 同じ立地

  • 同じ広さ

  • 同じグレード

の物件を、

  • 買った場合

  • 借りた場合

で比較しています。

しかし、ほとんどの場合、実際の意思決定はそうなりません。

  • こちらの家は販売

  • あちらの家は賃貸

というように、選択肢そのものが異なるのが現実です。

この時点で、比較はすでに
机上の演習になっています。

なお、同一の販売物件について与えられる現実的な選択肢は、

  • 借入して購入するか

  • 全額キャッシュで購入するか

のいずれかです。

販売物件を賃貸に切り替えるかどうか、
賃貸物件を販売に切り替えるかどうかは、
いずれもその時点の所有者だけが決められます。

この非対称性もまた、
費用積算比較では見落とされがちです。


なぜ「情報は多いのに、どれも納得できない」のか

ここまで整理すれば、理由は明らかです。

  • 積算範囲は狭い

  • 税制は静止画です

  • 調整能力は無視されています

  • 前提条件は非現実的です

この状態で、人々の心の奥にある問い――

「もし市場や人生に変化が生じたら、どうなるのか」

に答えられるはずがありません。

だからこそ、

  • 情報は乱立し

  • 結論は割れたままになり

  • 結局、読後に納得感が残りません

という状況が、長く繰り返されています。


本記事のまとめ

費用積算による比較は、

  • 計算としては成立しても

  • 意思決定の指針としては粗すぎます

そして何より、
人々が本当に知りたい問いの核心、
「さまざまな要素をすべて織り込んだときに、どちらが合理的なのか」
という問いに触れていません。

次の 第二部 では、
ファイナンス的視点から見た結論 を示し、
持ち家 vs 賃貸論争の解像度をさらに引き上げていきます。


次に続く

持ち家 vs 賃貸論争(2/4)|ファイナンスの視点で合理的な結論を出す


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