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本記事の性質と結論
本記事は、持ち家と賃貸の優劣を「総支出額の比較」によって判断しようとする議論が、なぜいつまでたっても埒があかず、腑に落ちないのか──その理由を整理するものです。
また本記事は、持ち家 vs 賃貸論争に関する四部作の第一部に位置づけられます。
本記事の論旨は明確です。
持ち家 vs 賃貸の優劣を「総支出額の比較」で判断しようとする限り、
この論争は恐らく永久に終わりません。
なぜなら、その総支出額の積算方法自体が現実から乖離しており、
人々が本当に知りたい問いの核心に届いていないからです。
費用積算による比較では埒が明かない理由
1. 積算の範囲が、そもそも狭い
多くの比較記事や動画では、
購入価格
ローン利息
固定資産税
修繕費
家賃総額
といった、金額として把握しやすい項目が並べられます。
しかし、現実の人生には、
収入の増減
転勤や離職
家族構成の変化
健康状態の変化
住環境への不満や飽き
といった、意思決定に決定的な影響を与える変数が数多く存在します。
これらは事前に確定額で計算しにくいため、
多くの総支出額試算からは、意図的に、あるいは無意識に除外されています。
その結果、
積算は成立しているように見えても、
人生の変数がごっそり抜け落ちています。
だから、どこか腑に落ちず、埒が明かないのです。
2. 税制や市場動向の「変化」を計算に入れていない
住宅ローン控除や各種税制優遇を組み込んだ比較も多く見かけます。
しかし、その多くは、
現行制度が将来も続く
控除条件が変わらない
所得水準が安定している
金利も安定している
インフレやデフレの影響を考慮しない
ローン完済後の持ち家資産価値を十分に検討していない
といった、極めて楽観的で粗い前提の上に成り立っています。
多くの費用比較は、
「今の制度が30年間変わらない前提」
という、現実には存在しない世界線を暗黙の前提としています。
これでは、現実の意思決定に使えるはずがなく、
やはり埒が明かず、腑にも落ちません。
3. 賃貸の「調整能力」が計算から抜け落ちている
賃貸の本質は、支出総額そのものにはありません。
事情によって住居費を下げられる(逆もまた可能です)
エリアを変えられます
生活水準を調整できます
という、調整弁の多さにあります。
引っ越しコストは確かにかかります。
しかし、
家賃水準を下げる
ライフステージに合わせて住環境を変える
という選択肢を持てること自体が、
賃貸の重要な価値です。
費用積算による比較では、
「一度決めた住居費を、何十年も固定として考える」
という前提が置かれがちですが、
それは賃貸の現実を反映していません。
4. 「同じ物件を買うか借りるか」という前提が非現実的
費用比較の多くは、
同じ立地
同じ広さ
同じグレード
の物件を、
買った場合
借りた場合
で比較しています。
しかし、ほとんどの場合、実際の意思決定はそうなりません。
こちらの家は販売
あちらの家は賃貸
というように、選択肢そのものが異なるのが現実です。
この時点で、比較はすでに
机上の演習になっています。
なお、同一の販売物件について与えられる現実的な選択肢は、
借入して購入するか
全額キャッシュで購入するか
のいずれかです。
販売物件を賃貸に切り替えるかどうか、
賃貸物件を販売に切り替えるかどうかは、
いずれもその時点の所有者だけが決められます。
この非対称性もまた、
費用積算比較では見落とされがちです。
なぜ「情報は多いのに、どれも納得できない」のか
ここまで整理すれば、理由は明らかです。
積算範囲は狭い
税制は静止画です
調整能力は無視されています
前提条件は非現実的です
この状態で、人々の心の奥にある問い――
「もし市場や人生に変化が生じたら、どうなるのか」
に答えられるはずがありません。
だからこそ、
情報は乱立し
結論は割れたままになり
結局、読後に納得感が残りません
という状況が、長く繰り返されています。
本記事のまとめ
費用積算による比較は、
計算としては成立しても
意思決定の指針としては粗すぎます
そして何より、
人々が本当に知りたい問いの核心、
「さまざまな要素をすべて織り込んだときに、どちらが合理的なのか」
という問いに触れていません。
次の 第二部 では、
ファイナンス的視点から見た結論 を示し、
持ち家 vs 賃貸論争の解像度をさらに引き上げていきます。
次に続く
持ち家 vs 賃貸論争(2/4)|ファイナンスの視点で合理的な結論を出す
