船内機艇(インボード艇・シャフト艇)とは何か|構造・特徴・メリット・デメリットを徹底解説

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■ はじめに:船内機艇・インボード艇・シャフト艇はすべて同じ意味です

まず前提として、本記事で扱う
船内機艇(せんないきてい)・インボード艇・シャフト艇
という三つの言葉は、いずれも同じ推進方式のボートを指す用語です。

  • 船内にエンジンを搭載し

  • 船底を貫通するシャフトを回転させ

  • 末端のプロペラで推進する方式

――これを一般に「船内機」と呼びます。

呼称の違いは、構造のどこに注目するかの差によるものです:

  • 船内機艇:エンジンの配置に注目

  • インボード艇:船内(inboard)に搭載する点に注目

  • シャフト艇:シャフト貫通方式に注目

構造的には同一ですので、本記事では専門的に一般的な 「船内機艇」 の語を用います。


■ 船内機艇(インボード/シャフト艇)の構造と特徴

船内機艇は、船内中央部(通常は船体重心付近)にエンジンを置き、
そこから シャフト(軸) を船底方向に伸ばし、
船外側に露出したプロペラを回転させて推進します。

操舵はプロペラの後方にある 舵板(ラダー) を動かすことで行われます。
つまり、

  • 推進:プロペラ

  • 方向転換:舵板

と機能が分離している点が、船外機艇や船内外機艇と異なります。

構造が古典的である一方、最も歴史が長く成熟した方式でもあり、
現在でも漁船・業務艇・プレジャーボートの多くで採用されています。


■ 船内機艇のメリット

● ① 船体重心にエンジンを置くため、走行安定性が高い(本記事で新規追加)

船外機艇ではエンジンが船尾に集中するため、
高速巡航時に船尾が沈み込んだり、波で跳ねやすかったりすることがあります。

一方、船内機艇では エンジンが船体中央にあるため、

  • 重心位置が理想的になる

  • ピッチング(上下動)が少ない

  • 波のある海域でも挙動が安定する

  • 長距離巡航で疲れにくい

など、走行特性が極めて優れます。

「遠くへ行くなら船内機」 と言われる理由のひとつです。


● ② 大型ディーゼルエンジンを搭載でき、耐久性・信頼性が高い

船外機はガソリンエンジンが主流ですが、
船内機艇ではより丈夫な ディーゼルエンジン が使われることが多い。

  • 長寿命

  • 過負荷に強い

  • 故障しにくい

  • 大出力が出せる

航続距離を重視する人や釣りで沖に出る人にとって大きな利点。


● ③ 舵板(ラダー)による操縦は、熟練すると非常に安定する

船外機艇のようにプロペラを左右に振るのではなく、
プロペラが常に一定方向を向いたまま“舵板で水流を曲げて進路を変える”ため、
走行中の直進性が高く、まさに船らしい操船感覚です。


● ④ 釣りとの相性が良い

船尾にエンジンが張り出さないため、
大物釣りやトローリングでの作業性が高い

魚の取り込みもスムーズで、
プロペラで魚体を傷つけるリスクも船外機艇や船内外機低より格段に低い。


● ⑤ 構造が成熟しており、信頼性が非常に高い

長年以上使われ続けてきた方式であり、弱点や対策がすべて確立しています。


■ 船内機艇のデメリット

● ① シャフト貫通部(スルハル)の水密性が弱点

本記事で新たに追加する重要なデメリットです。

船内機艇のシャフトは、船底の「スルハル(貫通孔)」を通って船外へ出ています。

座礁・漂流物・ロープ巻き込みなどで
シャフトがほんのわずかでも歪む(芯ズレする)と、
スルハルのシール性能が低下し、
浸水 → 半沈 → 全沈
というシナリオが現実に起こりえます。

とくに古い艇では、

  • スターンチューブの摩耗

  • パッキンの劣化

  • シャフト軸受の摩耗

などにより、音もなく浸水が進む例があります。

この点は船外機艇・船内外機艇には存在しない固有のリスクです。


● ② 座礁時にプロペラやシャフトがダメージを受けやすい

シャフトは船底から突出しているため:

  • 浅瀬

  • 漁網

  • 浮遊物

に接触すると損傷しやすい。

船外機のように「跳ね上げて」目視したり洋上で対応できないのが難点。


● ③ 船内のエンジン整備が難しい

船外機は丸ごと後ろから触れますが、船内機は:

  • 狭い

  • 上から潜るしかない

  • 熱い

  • 部品アクセスが悪い

という構造的な制約がある。

整備性の悪さは、船内機艇の共通課題です。


● ④ 後進時に舵が効くまでにタイムラグがある

船外機艇は「エンジンごと回す」ので即座に舵が効くが、
船内機艇は 舵板に水流が当たらないと曲がれない

後進時に舵が効きづらいのは避けられない特性。

※ そのため、バウスラスターだけでなく、スターンスラスターがあると大変に助かる。


● ⑤ 水深の浅い海域が苦手

プロペラが船底より低い位置にあるため、
浅瀬では座礁リスクが高い。

⑥ もしかするとブローチング耐性が低いかも…
この件は別記事艇の推進方式別ブローチング耐性【考察という名の知ったかぶり】に詳述したので、そちらを参照して欲しい。


■ 船内機艇はどんな人に向いているか

  • 長距離巡航を楽しみたい

  • 沖の釣り(大物・パヤオ・トローリング)をしたい

  • ディーゼルの耐久性を重視する

  • 荒波での安定性を最優先したい

  • 多少の整備コストは許容できる

こういう方向け。

逆に、取り回しの軽さ・低コスト・浅瀬航行を重視するなら船外機艇が有利。


■ まとめ

船内機艇(インボード艇・シャフト艇)は:

  • エンジンを船体中央に搭載し

  • シャフトでプロペラを回し

  • 舵板で方向を変える

という古典的かつ最も成熟した推進方式です。

船体の挙動が安定し、ディーゼルエンジンの信頼性も高く、
釣りや長距離巡航では非常に大きな利点があります。

一方で、
シャフトの芯ズレ → スルハル浸水 → 半沈・全沈
という固有のリスクは、ほかの方式にはない点であり、
船内機艇を選ぶ上で理解しておくべき重要なポイントです。


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