わたし理屈コネ太郎は、40代のころ臨床医として活動しながら、社会人大学院でファイナンスを専攻し修士を取得して以来、経済学、特にマクロ経済学のパワフルさを痛感するようになった。
政府の経済失策も、マクロ経済学の理論に照らせばその瑕疵が理解できる。
そこで敢えて断言したい。
マクロ経済学こそ、すべての社会人にとって最強のツールである。
統計学も行動経済学も有用な学問だ。
しかし、私たちが生活するこの日本の経済状況や政府の政策の方向性を明確に説明できるのはマクロ経済学だけである。
Contents
はじめに
経済ニュースや政府の発表を聞いて、「なぜそうなるのか」「本当に効果があるのか」と感じたことはないだろうか。
その疑問に答える最も確実な学問がマクロ経済学である。
マクロ経済学は理論を積み上げるための学問であると同時に、
その理論を使って政府の政策を検証し、経済の現実を理解するための実践的な学問である。
この知識を身につければ、政治家やメディアの言葉を“数字で”読み解けるようになる。
本記事では、イギリスのトラス政権、そして日本の「バブル崩壊」という二つの事例を通じて、
マクロ経済学がどれほど強力な「政策評価のレンズ」になるかを見ていく。
第1章 政策を読み解く5つの基本指標
経済の状態を判断する際、マクロ経済学では主に次の5つの指標を使う。
- GDP(国内総生産) ― 経済全体の成長速度を示す。 
- 失業率 ― 労働市場の温度を示す。 
- 物価指数(インフレ率) ― 通貨価値の安定度を示す。 
- 金利 ― 通貨の“値段”であり、景気を加熱・冷却する調整弁。 
- マネーサプライ ― 経済全体に流れるお金の総量。 
これらを見れば、景気が拡大期にあるのか、冷え込みつつあるのか、
そして政府の政策が経済に対して順風か逆風かをおおよそ判断できる。
第2章 マネーサプライを理解すると政策の整合性が見える
多くの人が誤解しているが、マネーサプライとは「日銀が刷った紙幣の総量」ではない。
実際に私たちが使っているお金の9割以上は、銀行の貸出によって作られた預金である。
銀行は貸出を行うたびに、自行の帳簿の中で「貸出金(資産)」と「預金(負債)」を同時に記帳する。
つまり、銀行が貸す瞬間に新しいお金が生まれる。
これを信用創造という。
借り手が返済すると、その預金は消滅する。
したがって、マネーサプライは「新規貸出 − 返済」の差で増減する。
この仕組みを知っていれば、金利や財政支出が経済にどう効くかを具体的にイメージできる。
金利を上げれば新しい借入が減り、マネーサプライの増加ペースが鈍る。
逆に金利を下げれば、借入が増え、経済に資金が行き渡る。
第3章 トラス政権の失敗──“過熱経済”に刺激策を打った誤り
2022年、イギリスのリズ・トラス政権は、大規模減税と財政出動を打ち出した。
しかし発表直後に英ポンドは暴落、国債市場は混乱し、政権はわずか数週間で崩壊した。
当時の英国経済をマクロ指標で見ると、
・高インフレ(物価上昇率10%前後)
・低失業率=労働力不足
・景気過熱を冷ますための高金利政策
という状況にあった。
つまり、経済はすでに過熱気味で、追加の刺激策は不要だった。
そこに大規模減税を行えば、市中にお金が溢れてお金の価値が下がり、インフレがさらに悪化する危険な局面になる。
それにもかかわらず、トラス政権は減税と財政支出を同時に発表し、
市場は、政府がマクロ経済学的に明らかに誤った政策をとったと受け止め、
通貨と債券の信認を一気に失った。
マクロ経済学の基礎を知っていれば、
「景気が熱いときに減税や財政出動は禁物」とすぐに判断できたはずである。
知識の欠如が政策の破綻を招いた典型例だ。
第4章 “誤診されたバブル崩壊”──マネーの流れを止めた日本
1990年代初頭の日本では、土地と株式が高騰し「バブル」と呼ばれた。
だが、当時の消費者物価は安定しており、実体経済のインフレは起きていなかった。
過熱していたのは資産市場だけだったにもかかわらず、
政府と日銀は「景気が行き過ぎている」と誤診し、金利を引き上げてマネーサプライを急激に絞り込んだ。
結果として、企業も家計も資金繰りが詰まり、経済全体の血流が止まった。
「バブル崩壊」という言葉が定着したが、実際には政策によって引き起こされたマネーショートである。
マクロ経済学的に見れば、資産市場の加熱と経済全体の過熱は区別すべきであり、
前者だけが問題なら、金融引き締めではなく税制で対応するのが定石だった。
第5章 マクロ経済学という「政策評価の言語」
マクロ経済学を学ぶ最大の意義は、
「政府の説明をそのまま信じず、自分でデータを読めるようになること」にある。
政治家は「財政再建」「デフレ克服」「成長戦略」といった言葉を並べるが、
それが実際にGDP成長・物価・雇用・金利にどう影響するかを判断するには、
マクロ経済学の基礎知識が欠かせない。
政策の善し悪しは、言葉ではなく数値の整合性で見極める。
マクロ経済学は、そのための共通言語であり、唯一の客観的基準である。
おわりに
経済政策の成否を左右するのは、理念でも政治力でもなく、経済構造の理解度である。
マクロ経済学は、その理解を支える最も実践的な学問だ。
金利、物価、雇用、GDP、マネーサプライ――
この5つの指標を追うだけで、ニュースの意味も、政府の発言も、まったく違って見えてくる。
マクロ経済学は難解な理論ではない。
それは、市民が自分の国の経済政策を数値で評価できるようになるための武器なのだ。
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筆者紹介は『理屈コネ太郎|35歳で医者になり定年後は趣味と学びに邁進中』です。