住宅ローン繰り上げ返済 vs 資産形成 ――現金をどう活用する?

住宅ローンの繰り上げ返済と資産形成を比較するイメージ。左側に住宅と現金、右側に積み上がるコインと成長を示すグラフが配置された対比構図。
住宅ローン繰り上げ返済と資産形成。 同じ現金を、どちらに活用するかという選択。

Contents

住宅ローン繰り上げ返済を考え始めた人へ

住宅ローンの返済が進んでくると、
繰り上げ返済を検討する人は多い。

利息を減らせる。
返済期間を短くできる。
心理的にも楽になる。

繰り上げ返済は、直感的に分かりやすく、良い選択肢に思える。
しかし繰り上げ返済は、金融機関が想定する借り手行動の典型であり、
その意味するところは、実は言われるほど繰り上げ返済は借り手にとって
良い話ばかりでもない。

この点については、
別記事
繰り上げ返済はなぜ“思ったほど有利でない”のか?
で詳述したので、ぜひ参照してほしい。

そこで、資産形成に本気で向き合うなら、
繰り上げ返済以外の選択肢についても考えてみたい。

なぜなら、繰り上げ返済を検討できるということは、
毎月の返済とは別に、一定の余剰キャッシュが手元にあるということだからだ。
そのキャッシュは、毎月の返済額を増やすことに投入する以外にも、
資産形成の元本になり得る。

本稿の目的は、
繰り上げ返済を否定することでも、
資産形成を勧めることでもない。

繰り上げ返済に余剰資金を投入すると決定する前に、
少し視野を広げて、
返済増額分のキャッシュは資産形成の元本にもなり得ることを示すものである。

本記事を通して、資産形成の視点から、
繰り上げ返済の意味を改めて見つめ直してみたい。


第1章|同額のキャッシュをどこに投入するか

本稿では話を単純化するため、
同額のキャッシュをどう使うかについて、選択肢を次の二択に限定する。
三つ目の選択肢として、漫然と貯金する、という考え方もあり得るが、
本稿では割愛する。

  • 同額のキャッシュを繰り上げ返済にまわす

  • 同額のキャッシュを資産形成にまわす

また、手元キャッシュの一部を返済にまわし、
残りを資産形成にまわすという選択肢もあるが、
本稿では論点の構造を明確にするため、割愛する。

ここで考えたいのは、
どちらが「正しい」かではない。

同じ現金を投入したとき、
長期的に見て何が起きやすいか。

この一点である。


第2章|そもそも住宅ローンはローリスク

住宅ローンは、他の一般的な個人向け借入と比べると、
非常にローリスクに設計されている。低い金利以上に、

第一に、不動産という物的担保がある。
返済不能に陥れば、物件を売却して現金化し、
ローン返済に充てることができる。

第二に、団体信用生命保険が付帯している。
借り手が万一返済能力を喪失しても、
残債は保険によって返済される。

この二重の安全装置によって、
住宅ローンは貸し手側にとっても、借り手側にとっても、
非常にリスクの低い仕組みになっている。

借り手側の心理としても、
返済可能性に強い確信を持ったうえで住宅ローンを組むのが通常だろう。

そのため、住宅ローン以外の個人融資の経験を持たない人も多い。

こうした住宅ローンのローリスク性を踏まえると、
繰り上げ返済を
「早期返済して返済総額を下げ、リスクを下げるために当然やるべき行為」
と捉える前提を、いったん見直す余地がある。


第3章|繰り上げ返済の意味

繰り上げ返済によって得られる効果は、主に次の二つだ。

  • 支払う利息額の削減

  • 団体信用生命保険コスト
    (無料と言われることも多いが、実は金利に内包されている)の削減

これらは、いずれも確定的な支出削減である。
ブレはなく、結果も読みやすい。

ファイナンス的に見れば、
繰り上げ返済のリターンは
住宅ローン金利と同水準の確定的リターンだと言える。

これはもちろん悪い話ではない。
ただし、住宅ローンの金利はもともと低い。

この低い金利相当のリターンを狙って
手元の余剰資金を繰り上げ返済にまわすより、
より高い期待リターンを持つ対象に投入した方が
結果的に有利になる可能性は無視できない。

そして同時に、繰り上げ返済には明確なコストもある。

  1. 繰り上げ返済手数料が新たに生じること

  2. 手元の現金が減り、流動性を失うこと

  3. 生活資金が不足したり、所得が下がった場合に、
    繰り上げ返済をやめて元の返済額に戻すことが、
    技術的には不可能ではないものの、
    実務的・心理的なハードルが高いこと

このように繰り上げ返済は、
借り手にとって良い話ばかりではないのである。


第3.5章|金融機関にとって繰り上げ返済は対策済みの借り手行動

繰り上げ返済は、
住宅ローン契約の締結時点で、
金融機関にとって対策済みの借り手行動として想定されている。

繰り上げ返済によって金融機関は元本を早く回収できるメリットがある一方、
利息収入が減少するというデメリットも生じる。

そのため、
金融機関は、繰り上げ返済によって利息収入が減少することを前提に、
その影響が過度に大きくならないよう、
契約条件や手数料をあらかじめ設計している。

具体的には、

  • 繰り上げ返済手数料

  • 住宅ローン控除メリットの減少
    (金融機関の裁量ではないが、理解を助けるためここに含める)

  • 一度繰り上げ返済に移行すると、
    元の返済パターンに戻すコストが不透明かつ高いこと

といった形で、
繰り上げ返済に移行する際の条件が、あらかじめ整えられている。

その結果、繰り上げ返済は、
借り手にとってそれほど有利になるようには作られていない。

繰り上げ返済は悪い話ではないが、
金融機関側が利息収入を失う以上、
一定の調整が前提となる。


第4章|住宅ローン金利と米国インデックスの「差」

住宅ローンの金利は、そもそも政策的に低い。
そして繰り上げ返済のリターンは、その金利相当分である。

一方、過去30年程度を振り返ると、
日本の住宅ローン金利と、
米国株インデックスの長期リターンの間には、
大きな差があった。

住宅ローン金利は低位で安定して推移してきた。
一方、米国株インデックスは、
長期的に高い成長率を示してきた。

これは偶然ではない。

住宅ローンは、
低リスク・低リターンの金融商品であり、
米国株インデックスは、
リスクを伴う代わりに高い期待リターンを持つ資産だからだ。

加えて、米国政府は日本のような単年度財政規律に強く縛られておらず、
米国経済のパイが成長する土壌が、
日本以上に備わっている点も大きい。
詳細は別記事
なぜ財務省は『赤字国債』を過剰に怖がるのか
に詳述したので、時間がある際に参考にしてほしい。

もちろん、
過去のリターンが将来を保証するわけではない。
この点は明確に留保しておく必要がある。

ただ、同じ現金を投入したときに、
どちらがより大きな結果を生みやすい構造にあるか
という問いに対して、
この差は無視できない。

誤解を避けるために明記しておくが、
ここで述べているのは米国インデックスであり、
個別銘柄についてではない。


第5章|低い金利を削減するか、高い期待リターンに投入するか

繰り上げ返済に現金を投入するということは、
低い住宅ローン金利を、確定的に削減する行為だ。

一方、資産形成目的で米国インデックスに現金を投入するということは、
より高い期待リターンを持つ対象に資金を置くことを意味する。

この差が存在する限り、
後者を検討する価値は、構造的に存在する。

これは投機ではない。
米国株インデックスへの投資は、
日常的な生活の延長線上で考えられる、
比較的現実的な資産形成手段の一つである。


第6章|資産形成として米国インデックス積立を扱う理由

資産形成の手段は本来、無数にある。
個別株投資、不動産投資、事業投資など、選択肢はいくらでも存在する。

本稿では、その中から
米国インデックスへの積立投資に限定して考える。

理由は明確だ。

  • 長期での期待リターンが高い

  • ボラティリティが比較的抑えられている

  • インフレ耐性がある

  • 運用が極めて簡単

  • 個別銘柄やタイミング判断をほとんど必要としない

  • 為替や海外課税を含む税務処理を、自分で考える必要がない

  • 完璧なポートフォリオに、ある意味で極めて近い

これらの条件を満たす資産形成手段は、
アマチュア投資家にとって極めて稀である。

ここで、NISA制度について触れておく。

NISA制度は、課税の扱いと投資額の限度を定めた仕組みである。
制度としての役割は明確だが、
資産形成と呼べる規模の金額を扱うには、限度額は小さい。

にもかかわらず、
「資産形成の第一歩はNISA制度の理解から始まる」
という認識が広く刷り込まれているように感じられる。

しかしそれは、
**制度瑕疵によって発生した「学習順序の失敗」**だと考えている。

本来先に理解すべきなのは、

  • 成長率

  • 複利

  • 時間

  • リスクと流動性

といった、資産形成の本質的な概念である。

それらのうち少なくとも一つが腑に落ちた後で、
「具体的な最初の一歩として、
税制上の優遇があるならNISA制度も使ってみようか」
と考えるくらいが、
制度の位置づけとしては妥当だろう。

本稿で重視するのは、
成長率と時間が生み出す複利効果を考えたとき、
繰り上げ返済と米国インデックス積立投資のどちらが
資産形成の目的に適っているか

という一点である。


第7章|完済時点で「何が残るか」という視点

繰り上げ返済を選択した場合、
ローン返済は当初予定より早く終わる。
その一方で、手元の現金や金融資産は残りにくい。

資産形成を選択した場合、
当初のローン完済時期までは住宅ローンは残っている。
しかし一方で、その間に資産形成が
ある程度成功している可能性がある。

ここで重要になるのは、
米国インデックス積立投資で形成した資産が
住宅ローン残高を上回る瞬間が起こり得ることだ。

その瞬間から、借り手は、

  • 繰り上げ返済

  • 一括返済

  • 返済せずに運用を継続する

という複数の選択肢を手にする。

資産形成とは、
住宅ローン控除を活かしたまま、
繰り上げ返済という選択肢を、後から獲得する行為
だと捉えることもできる。


第8章|ポートフォリオとして見たときの合理性

ローリスクな住宅ローンに対して、
繰り上げ返済によってさらにリスクを下げる。

これは、
リスクを徹底的に回避したい選好を持つ人にとっては、
安心感のある選択だろう。

一方で、
ローリスクな住宅ローンに、
プチリスクだが期待値のある資産形成を組み合わせると、
将来の選択肢は大きく広がる。

どちらが正しいかではない。
どのリスク状態を受容できるかの問題である。


終章|結論

冒頭述べたように、繰り上げ返済は悪くはない。
堅実で、分かりやすい選択肢だ。

ただし、
ローリスクな住宅ローンを、
手元キャッシュの流動性を犠牲にしてまで
さらにローリスク化する意味があるのかは、
真剣に考える価値がある。

米国インデックス積立投資ならば、
日常的な生活の延長線上でも、
資産形成という選択肢は十分に検討に値する。

判断は、構造を理解したうえで、
自身の価値観に基づいて行うものである。

本稿で、
繰り上げ返済に回そうと思っていた手元キャッシュの
より有効な投入先を検討するようになったとしたら、
筆者としてこれほど嬉しいことはない。

ただし、すべては自己責任でお願いする。


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