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第0章|はじめに ― MTはダイレクト、しかしATが速いこともある
MTのダイレクト感の正体は、駆動系テンションの発生と消退がドライバーに直接伝わることにあります。
一方、ATではトルクコンバータが駆動系テンション変化を吸収するため、駆動系情報が減り、ドライバーは車体挙動情報に集中しやすくなります。
この違いが、MTのダイレクト感と、GRヤリスのDATのような最近のATが速く走れる理由を同時に説明します。
多くのスポーツドライビング愛好家は、MTをダイレクト、ATはそれほどダイレクトではないと感じています。
しかし実際のスポーツドライビングでは、ATの方が速く走れてしまう場面も少なくありません。
この現象は一見矛盾しているように見えます。
ダイレクトに操作できるMTの方が速く走れそうに思えるからです。
この現象を
「変速機の方が人間より上手に変速するから」と説明することは簡単です。
しかし電子制御が安全方向に振られた市販車では、この説明は体感と必ずしも一致しません。
そこで本記事では、MTとATでドライバーに伝わる情報の違いに注目し、この矛盾を整理します。
結論を一文で言えばこうです。
駆動系情報が減るほど、ドライバーは車体挙動情報に集中しやすくなります。
第1章|MTのダイレクト感の正体
MTでは
エンジン
クラッチ
トランスミッション
シャフト
デフ
タイヤ
が機械的に強く結合しています。
この構造では駆動系に
ねじりテンション
が発生します。
アクセル操作によって
エンジンからタイヤまでの駆動系には
テンション発生
テンション解放
逆テンション
が繰り返し生じます。
さらにMTにはクラッチがあります。
クラッチを切ると
駆動系テンションは
瞬時に消えます。
クラッチを繋ぐと
再びテンションが発生します。
つまりMTでは
アクセル操作
クラッチ操作
によって
駆動系テンションの
発生と消退
をはっきり体感できます。
このテンション変化は
振動
姿勢変化
荷重変化
としてドライバーに伝わります。
しかしMTのダイレクト感は、単に受動的に感じ取るだけのものではありません。
シフトチェンジの際、ドライバーは意識していなくても
アクセル操作
クラッチ操作
によって駆動系テンションを調整しています。
アクセルをわずかに戻すことで駆動系の荷重を抜き、ギアを抜きやすくします。
あるいは回転数を合わせることで、次のギアにスムーズに噛み合わせます。
この操作は
駆動系テンションを感じ取りながら調整する作業
といえるでしょう。
つまりMTでは
ドライバーは
駆動系テンションを
受動的に体感するだけでなく
能動的に利用して操作している
とも言えます。
この駆動系情報の処理は、ドライバーの認知資源を一定量消費します。
受動的なテンションの体感と、能動的なテンション操作。
この二つが重なって現れることが、MTのダイレクト感の主要な源泉だと考えられます。
第2章|ATでは駆動系情報が減る
トルクコンバータATでは
エンジンとトランスミッションの間に
トルクコンバータ
が存在します。
トルクコンバータは流体結合であり
トルク変動
回転変動
テンション変化
を吸収します。
そのためATでは
駆動系テンションの
発生
消退
がドライバーに強く伝わりません。
つまりATでは
駆動系情報が相対的に減少します。
ドライバーに伝わる情報は主に
荷重移動
車体姿勢
タイヤグリップ
といった
車体挙動情報
になります。
第3章|駆動系情報と認知資源
人間の知覚には限界があります。
ドライバーは運転中に
多くの情報を処理しています。
MTでは
車体挙動情報
駆動系情報
の両方が同時に伝わります。
つまり
情報量が多い状態です。
ATでは
駆動系情報が減ります。
その結果
ドライバーは
荷重移動
姿勢変化
グリップ変化
といった
車体挙動情報に
注意を向けやすくなります。
言い換えると
駆動系情報が減るほど、ドライバーは車体挙動情報に集中しやすくなります。
第4章|車体挙動情報の純度と速さ
スポーツドライビングで重要なのは
荷重移動
タイヤグリップ
車体姿勢
です。
これらはすべて
車体挙動情報
です。
ATでは駆動系情報が減るため
車体挙動情報の
純度が高くなります。
ドライバーは
車体の動きを
より直接的に読み取りやすくなります。
その結果
車体挙動の理解が容易になります。
この構造が
ATで速く走れる理由の一つ
だと考えられます。
第5章|変速機が上手だから速いわけではない
ATが速く走れる理由として
「変速機の方が人間より上手に変速するから」
という説明がよく使われます。
しかし市販車では
燃費制御
排出ガス制御
安全制御
が優先されます。
そのため
ギア選択や変速タイミングは
必ずしもスポーツ走行に最適とは限りません。
多くのスポーツドライビング愛好家が
この説明に違和感を感じるのは
このためかもしれません。
つまりATが速い理由は
単純な
変速能力の差
だけでは説明できません。
より重要なのは
ドライバーに伝わる情報の構造
です。
第6章|結論
MTのダイレクト感の正体は
駆動系テンションの
発生と消退
がドライバーに伝わることにあります。
ATではトルクコンバータが
駆動系テンション変化を吸収します。
その結果
駆動系情報が減少します。
そして
駆動系情報が減るほど、ドライバーは車体挙動情報に集中しやすくなります。
この違いが
MTのダイレクト感と
ATが速く走れる理由
を同時に説明してくれると考えられます。
