日々何気なく払っている「消費税」。でも、その仕組みを本当に理解している人は、案外少ないのではないでしょうか。私、理屈コネ太郎も最近しった事があります。
今回は、その中でも特に驚かれることの多い「還付金制度」に焦点を当てつつ、消費税がどうして現在の形になったのか、少しだけ歴史をさかのぼってみたいと思います。
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◆ シャープ勧告という“はじまり”
日本に付加価値税の原型が最初に紹介されたのは、1949年のシャープ勧告と呼ばれる税制改革案でした。
これはアメリカの経済学者カール・シャープが、日本の戦後復興と財政再建のために提案した包括的な税制案の一部で、付加価値税もその中に含まれていました。
この付加価値税案は、当時の日本の国会でも実際に法案が通過するところまで進んだほどです。
しかし結局、運用には至りませんでした。なぜか。
その理由の一つは、制度があまりに過酷だったこと。
たとえば、
企業の売上に対して一律で課税する「粗利課税」のような形式で、仕入控除の仕組みが不完全だった
中小企業にとって会計処理が複雑すぎた
税負担が取引のたびに積み重なる「カスケード効果」が残されていた
などの問題点が指摘されました。今日の消費税(付加価値税)とはかなり異なる「未成熟な仕組み」だったのです。
◆ フランスで生まれた“本物の”付加価値税
その後、1954年にフランスの財務官僚モーリス・ローレが、**今日私たちが知る本格的な付加価値税(TVA)**を世界で初めて導入しました。
当時のフランスは、戦後復興期にありながら、国家財政の再建と産業の再活性化を急務としていました。既存の売上税制度は取引段階ごとに累積課税が発生し、生産・流通のコストを押し上げていました。これを是正し、輸出産業の競争力を高め、かつ安定した財源を確保する手段として、より中立的で合理的な間接税が求められていたのです。
この制度の画期的な点は、単に売上に税をかけるのではなく、
売上にかかる税額から、仕入れで支払った税額を差し引ける(仕入税額控除)
という仕組みを取り入れたことです。
この方式により、税は最終消費者が負担し、企業は税の“預かり屋”として機能するだけという、経済活動に中立的な構造が生まれました。
実はこの「消費地課税主義(destination principle)」という考え方自体は、すでに国際的な租税原則として認識されていました。
ローレの功績は、それを初めて現実に機能する制度として整えたことにあります。
つまり、既存の原則をもっとも実務的かつ整合的な形で制度化したのが、フランスのTVAだったのです。
◆ 還付制度が意味するもの
特に驚かれるのが、輸出企業には消費税が全額還付されるという事実です。
どういうことかというと、フランス型の付加価値税は「消費地課税主義」に基づいており、商品の最終消費地(=輸出先の国)で課税されるべきだという考え方です。
そのため、輸出企業が国内で商品を製造し、仕入時に支払った消費税は、輸出時にすべて返ってくる。
これにより、
日本の輸出品は「消費税抜き」で海外に出せる
海外の企業とイーブンな条件で競争できる
というわけです。
一見すると「輸出企業だけ得してる?」と思われがちですが、これは国際税制上の“公平”を保つための基本ルールなのです。
◆ トランプ大統領が抱いた“損している感”
ところが、この「還付制度」が別の見え方をした国があります。そう、アメリカ合衆国です。
アメリカには付加価値税がありません。州単位の売上税(sales tax)はありますが、連邦レベルでのVATのような制度は存在しません。
するとどうなるか。
日本やEUの企業は輸出時に税を還付され、「税抜き価格」でアメリカ市場に参入する
一方、アメリカの企業は国内で消費税がないため、還付も受けられない。さらに、輸出先の国では現地の消費税が上乗せされてしまう
この構図を見たトランプ大統領は、
「他国は還付金を受け取ったあとの安い商品を輸出している。アメリカがその国に商品を輸出した場合、アメリカには還付金がなく、また輸出先国で消費税が課せられてしまう。たいへんに。不公平だ」
と繰り返し主張しました。
とはいえ、アメリカが付加価値税を導入しないのには、それなりの理由があります。
最大の要因は、アメリカでは売上税が州政府の財源であり、連邦政府が似たようなVATを導入すると州の課税権と競合してしまうという制度上の問題です。
さらに、政治的にも「増税」や「見えにくい税制」へのアレルギーが強く、保守層を中心に「政府の拡大につながる」として強い反発があります。
また、基軸通貨ドルを持つアメリカは、他国のように消費税で財政を安定させる必要性が比較的低く、導入のインセンティブも乏しいのです。
これは制度上はWTOの国際ルールに則った“中立的な仕組み”なのですが、アメリカのようにVAT制度を持たない国から見れば、どうしても「損しているように見える」。
つまり、制度の中立性が、視点によって“優遇”に見えてしまうわけです。
このトランプの「勘」自体は、制度の裏側を嗅ぎ取ったものとして、実はかなり鋭いものでした。
◆ 知らないけれど、世界は動いている
私たちは、レジで払う消費税の背後に、これほど複雑で精巧な仕組みがあることを、日常ではなかなか意識しません。
けれども、こうした制度は国の設計そのものであり、私たちの暮らしや産業をじわじわと支え、あるいは縛っているのです。
「この世は知らないことばかりだなあ」――
消費税の還付金制度を知ったとき、そう思ったのは、きっと私だけではないはずです。