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■ はじめに
初対面の場で、
「お仕事は何をされているんですか?」
「どのあたりにお住まいですか?」
「どこの大学なんですか?」
といった質問を、“無難な会話”として口にする人は少なくありません。
もちろん、ビジネスの目的や会話の文脈によっては
職業や経歴といった外形情報が必要になる場面もあります。
問題となるのは、“いまその場の文脈と関係のない外形情報” を、
関係構築の初期段階で急いで尋ねてしまう場合です。
悪気はない行為でも、こうした質問は
相手との距離を縮めるどころか、逆に敬遠されることがあります。
■ なぜ敬遠されることがあるのか(結論)
外形情報を急ぐと“敬遠される可能性がある”。
なぜなら、それは 個性の外縁部を中心に据えて人を理解しようとする行為 と解釈されてしまうからです。
その結果、相手は、
「この人とは深い対話が成立しにくい」
と判断します。
すると、こちらがどれだけ誠実に向き合おうとしても、
関係の深まりはそこで頭打ちになります。
以下では、なぜそんなことが起こるのかを整理していきます。
■ 1. 職業・住所・出身校は“その人の外側”の情報にすぎない
まず前提として理解したいのは、
職業・住所・出身校は、その人の人格や価値観そのものではない
という点です。
職業:環境・選択・偶然の積み重ねによる“結果”
出身校:家庭環境・学習環境・志向性の“反映”
住所:生活上の選択の“現れ”
いずれも“人生のごく一部”にすぎません。
本当にその人を形づくっているのは、
何を大切にしているか(価値観)
どのように物事を判断するか(思考のクセ)
他者にどう接するか(態度)
世界をどう捉えているか(認知のフレーム)
といった“内側”の情報です。
職業や住所は、
こうした内側の動きが長い時間をかけて積み上がった結果として
外側に貼られているタグにすぎません。
■ 2. にもかかわらず、多くの人は“外側”を“核心”として扱ってしまう
ところが現実には、多くの人がこうした短絡的な推論をします。
「医師だから頭がいい」
「東大卒だから優秀だ」
「港区だからセンスがいい」
これは因果が逆です。
本来は、
内側(能力・価値観) → 外側(職業・学歴・住所)
であるにもかかわらず、
外側 → 内側
と短絡して相手を理解しようとする。
初対面で職業などを急いで聞く行為は、
この認知の“雑さ”を相手に強く印象づけます。
そのため、相手は瞬時にこう判断します。
「この人は、人を外形で判断するタイプなのだな」
そしてその判断の延長線上に「敬遠」という行動が生まれます。
これは嫌悪ほど強くはなく、
“この先の対話は深まりにくい”という静かな距離の確保です。
■ 3. 初対面で外形情報に飛びつくと、あなた自身の印象が浅くなる
若いビジネスパーソンが特に気をつけるべき点はここです。
外形情報を急ぐ質問は、あなた自身の観察力・理解力の浅さを露呈してしまう。
人を見る力のある人ほど、
発言内容
言葉の選び方
判断の仕方
他者への態度
価値観の優先順位
といった“内側”を手がかりに相手を理解します。
逆に、
「お仕事は?」
「どこの大学?」
「どこ住んでるの?」
と外形情報に飛びつくと、
「自分の観察や思考では相手を理解できない人」
と思われてしまいます。
その結果、
「この人との対話は深まらない」
→ 「敬遠しておこう」
という静かな距離が生まれます。
■ 4. 深い対話ができる人ほど、“外側”を急がない
人間理解の質が高い人は、必ず次の順序を守ります。
① 内側(価値観・態度・言葉) → ② 外側(職業・学歴・住所)
外側は“確認情報”に過ぎず、
最初の判断基準には使いません。
だから聞き方も自然とこうなります。
「さっきのお話、とても興味深かったです。どんなお仕事を?」
「その視点、いいですね。どういう背景からその考え方に?」
これは、
内側の理解をベースにして、外形情報で補足説明を得る
という姿勢です。
こうした態度は、
相手に対して敬意を感じさせ、信頼を生みます。
■ 5. 若いビジネスパーソンが身につけるべき「人間理解の作法」
以下は、対人コミュニケーションの質を上げるための具体的作法です。
● (1) 外形情報で人を判断しない
外側は外側。
本質は内側。
この原則を崩さないこと。
● (2) 初対面では“内側”に触れる質問をしてみる
価値観や興味に触れる質問は、自然な距離を作る。
例:
「どんなことに興味がありますか?」
「今日こちらに来られたご縁は?」
● (3) 外形情報は、相手が自発的に話し始めたときだけ拾えばいい
急ぐ必要はないし、急ぐとむしろ対話の質が下がる。
● (4) 質問の質はあなたの知性を映す
“外形依存の質問”は浅く見え、
“内側を扱う質問”は信頼を生む。
● (5) 外形判断の人には、深い対話を求めない
外形情報で人を判断する人は、
あなたと対話の深さが合わない相手です。
丁寧に距離を保てばよい。
■ おわりに
初対面で職業や住所、出身校を尋ねる行為は、
単なる世間話だと思われがちです。
しかしその裏では、
「この人は人間理解の基準をどこに置いているか」
が鋭く見抜かれています。
外側のラベルで理解しようとするのか
内側の価値観から理解しようとするのか
この違いは、
あなたがどんな相手と深く関われるか、
どんな人から信頼されるかを決定づけます。
若いビジネスパーソンにはぜひ、
“外形ではなく内側から人を見る”という作法
を身につけてほしいと思います。
