税理士との付き合い方には、大きく分けて2つの種類があります。
1つは、すでに起きた取引を帳簿や申告に整理する事後処理の税務。
もう1つは、これからの経営判断が税務上どのような影響を持つかを検討する事前判断の税務です。
前者は、売上や経費、資産取得などの取引を税法に沿って整理し、「いつの、だれの、どんな税金なのか」を確定する仕事です。比較的手順が決まっているため、顧問契約などの形で継続的に依頼されることが多いといえます。
一方、後者は、携帯電話を法人契約にするか個人契約にするか、社用車は購入かリースかといった経営判断が税務にどう影響するかを検討する仕事です。こちらは複数の選択肢を比較する非定型の業務であり、いわば税務コンサルティングに近い性質を持っています。
この違いを理解すると、税理士との付き合い方も1つではないことが見えてきます。本記事では、税務の時間軸――事後処理の税務と事前判断の税務という視点から、税理士との合理的な付き合い方を整理してみます。
Contents
税務とは「いつの、だれの、どんな税か」を確定する仕事
税務の仕事を一言で表すなら、
「いつの、だれの、どんな税金なのか」を確定する仕事
といえるでしょう。
税金は、
・いつ発生したのか
・誰が納税義務者なのか
・どの種類の税金なのか
によって内容が決まります。
売上、給与、資産取得、資産売却など、どの経済事象も最終的には
「いつの、だれの、どんな税か」
という形で整理されます。
税務とは、本質的にはこの整理を行う仕事だと考えることができます。
過去の税務は「整理」、未来の税務は「比較」
しかし税務には、2つの時間軸があります。
1つは、すでに起きた過去の取引です。
売上や経費、契約主体、資産の取得時期など、すべての事実がすでに確定しています。
そのため、あとは税法に従って整理し、申告を行えばよいことになります。
つまり過去の税務は、
確定した事実を整理する仕事
といえるでしょう。
一方、未来の経営判断では事情が大きく変わります。
例えば、
・携帯電話を法人契約にするか個人契約にするか
・社用車を購入するかリースにするか
・設備投資を今年行うか来年に回すか
といった問題では、複数の選択肢が存在します。
それぞれの選択肢について、
・いつ実行するのか
・誰が主体になるのか
・どの税目が発生するのか
といった条件を整理し、税務上の影響を比較する必要があります。
未来の税務では、
「いつ・だれの・どんな税か」という全体像を、選択肢ごとに把握すること自体が一つの作業
になります。
同じ「いつの、だれの、どんな税」を扱うのですが、
過去の税務は
整理の仕事
未来の税務は
比較と判断の仕事
という性質の違いが生まれます。
この違いが、税務という仕事の性格を大きく分けていると考えられます。
税理士の仕事も2つの性質に分かれる
この違いは、そのまま税理士の仕事にも当てはまります。
1つは、
・記帳
・決算
・申告
・税額計算
といった事後処理の税務です。
これは制度に従って処理を進める業務であり、比較的定型化しやすい分野です。
そのため税理士事務所では、
・顧問料
・決算料
・申告料
といった形で、定額に近い料金体系で提供されることが多いといえます。
一方、
・法人化のタイミング
・設備投資の判断
・資産売却の時期
・事業拡大
などの問題は、事前判断の税務です。
ここでは制度の読み解きや選択肢の比較、リスクの検討などが必要になります。
この仕事は単なる申告代行ではなく、
税務コンサルティング
に近い性質を持つ場合が少なくありません。
税理士を分ける付き合い方も合理的
この構造を理解すると、1つの合理的な付き合い方が見えてきます。
それは、
税理士を目的別に使い分ける
という方法です。
例えば、
税理士A
・記帳
・決算
・申告
といった事後処理の税務を担当する。
税理士B
・法人化
・投資判断
・資産売却
といった事前判断の税務を担当する。
このようにすると、
・それぞれが得意な業務に集中できる
・報酬構造が明確になる
・相談の質が上がる
といったメリットが期待できます。
定型業務を受任している税理士は、営業上、簡単な税務相談には応じてくれることが多いものです。
しかし、複雑な判断を伴う相談まで顧問契約の範囲で対応するのは難しい場合もあります。
そのため、
定型業務の税理士とコンサル業務の税理士を分ける
という付き合い方にも、実務上の合理性があるといえます。
まずは既存の税理士に相談する
もっとも、いきなり別の税理士を探す必要はありません。
まずは現在付き合いのある税理士に、
・コンサルティング業務の対応が可能か
・選択肢比較の相談に乗れるか
を確認してみるのが自然です。
税理士によっては、
「その業務も対応可能だが、顧問契約とは別の報酬になる」
という形で受任してくれる場合もあります。
定型業務と非定型業務では仕事の性質が大きく異なるため、対応の可否は報酬とのバランスで決まることも少なくありません。
大事なのは、その税理士にとってその業務が
「やりたい仕事」なのかどうか
という点です。
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1人の税理士が両方を担う場合もある
もちろん、必ず税理士を分けなければならないわけではありません。
1つの事務所、あるいは1人の税理士が、
・事後処理の税務
・事前判断の税務
の双方について経験と関心を持ち、その仕事をやりたいと考えているのであれば、その人に両方を依頼しても問題はありません。
提示される報酬体系が業務内容と時間に見合っており、依頼者として合理的だと判断できるのであれば、同じ税理士に両方を任せるのも自然な選択です。
税理士を分けるという発想は、あくまで
業務の性質の違いから生まれる1つの合理的な付き合い方
といえるでしょう。
専門家の意見は自分の疑問として尋ねる
税理士を複数使う場合、もう1つ注意しておきたい点があります。
それは、他の専門家の意見をそのまま持ち込むのではなく、
自分の疑問として整理して質問する
という姿勢です。
例えば、
「別の先生はこう言っていましたがどう思いますか」
という聞き方は、あまり建設的ではありません。
税理士はそれぞれ、自分が受任した業務の範囲で仕事をしています。
他の専門家の意見を評価することは、通常は業務の範囲外です。
しかし、
クライアント自身が抱いている疑問
には、専門家は真摯に向き合います。
したがって質問する際は、
他人の意見をそのまま運ぶのではなく、
自分の疑問として咀嚼して尋ねる
方がよいでしょう。
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最終判断の責任は依頼者にある
複数の税理士に目的別に業務を依頼する状況では、多くの場合、それなりの規模の経済事象が背景にあります。
事業拡大、投資判断、資産取引など、税務判断の影響は決して小さくありません。
だからこそ、
専門家だけに考えさせるのではなく、依頼者自身も真剣に問題に向き合う必要があります。
税理士は助言者ではありますが、最終判断者ではありません。
最終的な経営判断の責任を引き受けるのは、常に依頼者自身です。
そして専門家を使う意味は、そこにあります。
専門家を使うとは、よりよい判断材料を手に入れるという事です。
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