第1章 はじめに ― 速さと操る歓びのあいだで
GRヤリスは、ラリーで培われた技術を市販車へ持ち込んだスポーツカーとして登場した。
そして2024年、8速AT「GR-DAT」を搭載した進化型GRヤリスが登場した。
私は2020年式6速MT(以下、壱号機)と、2024年式GR-DAT(以下、弐号機)の2台を所有している。
両車にはトランスミッションだけでなく、エンジン出力、車体、シャシー、4WD制御などにも世代差がある。
本記事では、この2台を実際に所有し、同じ人間が走らせて感じた違いを比較する。
壱号機では、自分の手足で操作を組み立てていく。
弐号機では、変速をクルマに任せることで、ブレーキング、荷重移動、ライン取りへより多くの意識を向けられる。
2台を乗り比べているうちに、それぞれが異なる方向からドライビングを深めてくれる存在だと感じるようになった。
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第2章 弐号機(GR-DAT)――進化した車体と変速制御が生む速さ
年明け、3日連続でワインディングを走った。
Day1とDay2は弐号機、Day3は壱号機。
同じ道を同じ人間が走っても、クルマが変わると運転中に意識を向ける場所が大きく変わる。
弐号機の第一印象は、ひとことで言えば「圧倒的に速い」である。
2024年式では最高出力が304PS、最大トルクが400N・mへ引き上げられ、車体剛性やシャシーにも手が加えられている。
そこへGR-DATが組み合わされる。
GR-DATは、アクセルやブレーキの操作、車両の状態から必要なギアを先読みし、素早く変速する。
コーナーが連続する場面でも適切なギアを使いやすく、加速へ移ると駆動力が滑らかにつながっていく。
理屈コネ太郎のようなヘッポコでも、それなりの速度で走れてしまう。
私にとって興味深かったのは、その速さの中で自分の操作が以前より見えやすくなったことだった。
クラッチ、シフト、回転合わせという仕事が減ると、ブレーキをどこまで残すか、どこでステアリングを入れるか、いつアクセルを開けるかという部分へ意識を向けやすい。
ステアリングを切りすぎた場所。
ブレーキを抜くのが遅れた場所。
もう少し早くクルマの向きを変えられた場所。
変速操作という大きな変数がクルマ側へ移ることで、残った自分の操作が浮かび上がってくる。
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第3章 壱号機(6MT)――操作を組み立てる歓び
壱号機では、クラッチ、シフト、ブレーキ、ステアリング、アクセルを自分でつないでいく。
2020年式の6MTには、変速時のエンジン回転合わせを支援するiMTも備わる。
それでも私が6MTで面白いと感じるのは、ヒール&トゥを含め、一連の操作を自分の手足で組み立てていく時間である。
減速しながらブレーキを踏み、クラッチを切り、ギアを選び、エンジン回転を合わせる。
その操作がきれいにつながれば、クラッチをつないでも姿勢を乱さず、そのまま旋回へ入っていける。
ブレーキングによって前輪へ荷重を与え、ステアリングを入れ、旋回から加速へ移る。
そこへ変速操作まで自然に組み込めた瞬間、ドライバーとクルマが一つのシステムになったような感覚が生まれる。
昨日より滑らかにできた。
以前より余裕を持って操作できた。
そうした小さな変化を自分自身で感じ取れることが、壱号機を走らせる楽しさである。
私にとって壱号機は、自分の操作技術を磨き続けるためのトレーニング装置でもある。
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第4章 2020年式6MTと2024年式GR-DATを比較
まず、私が所有する2台には次のような違いがある。
| 項目 | 2020年式6MT(壱号機) | 2024年式GR-DAT(弐号機) |
|---|---|---|
| 最高出力 | 272PS | 304PS |
| 最大トルク | 370N・m | 400N・m |
| 車両重量 | 約1,280kg | 約1,300kg |
| トランスミッション | 6MT(iMT) | 8速GR-DAT |
| 世代 | 前期型 | 進化型 |
そのうえで、実際に運転したときの違いを整理すると次のようになる。
| 項目 | 2020年式6MT(壱号機) | 2024年式GR-DAT(弐号機) |
|---|---|---|
| 変速 | クラッチとシフトを自分で操作する | 車両側へ任せられる |
| 駆動のつながり | シフト時にクラッチを切る | 変速時の駆動力低下を体感しにくい |
| 運転中の意識 | 変速を含めて一連の操作を組み立てる | 制動・旋回・ラインへ意識を向けやすい |
| 加速感 | 操作と駆動のつながりを感じやすい | 素早い変速で加速をつなぎやすい |
| 街乗り | クラッチ操作を常に伴う | 低速や渋滞での操作負担が小さい |
| 技術的な面白さ | 操作そのものを磨いていく | 車体挙動を見る余裕を作りやすい |
この2台を比べると、ペダルが3本か2本かという違い以上に、ドライバーが何へ意識を使うかが変わる。
壱号機では、変速を含む操作全体を一つにつなげることが課題になる。
弐号機では、その一部を機械へ任せられるぶん、クルマそのものの動きを観察する余裕が生まれる。
第5章 2台を往復して気づいた上達のかたち
弐号機で2日間走った翌日、壱号機へ乗り換えた。
そこで、自分の運転に少し変化が生じていることに気づいた。
弐号機では、コーナー進入から旋回、立ち上がりまで、荷重がどのように移っていくかを以前より明瞭に感じ取ることができた。
その感覚を、今度は壱号機の操作の中で再現しようとしていた。
クラッチやシフトだけを見るのではなく、クルマ全体の動きの中へ変速操作を組み込もうとしている自分がいた。
弐号機で感じたクルマの動きが、壱号機を走らせるときの一つの基準になったのである。
私にとって弐号機は、自分の技術を写し出す鏡になった。
弐号機でクルマの動きを観察し、壱号機でそれを自分の手足によって組み立てる。
そして再び弐号機へ乗る。
2台を往復することで、ドライビングについて考える範囲そのものが広がった。
それは定年後の私にとって、一つの「学び直し」にもなっている。
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第6章 結論 ― ドライビング道楽の第二段階へ
2台を所有するようになってから、私にとってドライビングの楽しみ方そのものが少し変わった。
以前は、操作をうまく行うことへの関心が大きかった。
今はそれに加えて、クルマがどのように荷重を移し、どのように旋回し、どのように加速へ移っていくのかを見ることが面白い。
少年時代、クラッチをつないでクルマが動き始めた瞬間をドライビング道楽の第一段階とするなら、今は第二段階に入ったのだと思う。
機械が進化し、一部の操作を肩代わりするようになったことで、それまで十分に見えていなかったものへ意識を向けられるようになった。
そして、そこで得た感覚をもう一度6MTへ持ち帰る。
速さを知ることで操作の見え方が変わり、操作を磨くことで速さの意味も変わる。
今日も、切れ長の目をした二台の姉妹――壱号機と弐号機がガレージに並んでいる。
今日はどちらに乗ろうか。
そう考える時間まで含めて、人生後半のドライビング道楽なのである。
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