サーキット走行に興味はあるものの、
「危険ではないか」「何から始めればよいのか」「シニアでも大丈夫なのか」
と不安を感じている方も多いと思います。
本記事では、還暦を迎えた筆者の実体験をもとに、
初心者シニアが怪我や損害を避けながらサーキット走行を始めるための考え方と注意点を整理します。
サーキット走行は公道ではありません。私有地での運転です。
だからこそ、道交法の束縛から自由になれます。
しかし同時に、
サーキットで起きた怪我や損害は、各種保険の適用外になることが多く、治療も賠償も基本は自費になります。
「自由」と引き換えに、「自己責任」の密度が一気に上がる場所。それがサーキットです。
だから、最初に伝えておきます。
まずは怪我と損害を出さない
そのために、ローカルルールを最優先する
競わない(公式競技でない限り)
- 殆どのサーキットでヘルメットと長袖、長ズボン、手袋着用、スニーカーが義務
この前提を守れるなら、サーキット走行はシニアの趣味として相性が良いです。
危険を避けるための決まり事は多いですが、その面倒くささを補ってあまりある悦びと、技術向上をサーキット走行で体験できます。
Contents
サーキット走行の基本思想:「自由」には値札が付いている
サーキットは「好きに走っていい場所」ではありません。
正しくは、“ルールを守る人だけが自由を許される場所” です。
そして、ルールを守る理由は単純です。
自分が怪我をしないため
他人に怪我をさせないため
車とサーキット設備を壊さないため
もし壊したら、基本的に自費になるため
ここを曖昧にしたまま走ると、サーキットは急に危険な遊びになります。
逆に言えば、ここを腹に落とせば、サーキットは怖くありません。
第一歩:各サーキットのルールは「最優先」と思って守る
サーキットには、それぞれ独自のルールがあります。
コースの予約の取り方に始まり、信号の場所、ピットロードの速度、追い越しルール、走行枠の区分け、走行中の合図……全部違うこともあります。
初心者がまずやるべきことは、こうしたルールを徹底的に知悉する事です。
サーキットのルールはそこで走行する全員のためにあります。
ルールを軽視すると、周囲から一瞬で危険人物扱いされて、自分が不利益を被ります。
譲り合いの精神:サーキット走行は“練習”であり、“競技”ではない
公式競技でない枠では、サーキットでの走行の目的は勝敗ではありません。
それは練習であり、体験であり、上達のため試行錯誤の時間です。
公式競技以外では、事故の責任も損害も個人に帰属するため、競争はリスクだけを増やします。
だから、作法はこうなります。
自分より速いドライバーには、即座に道を譲る
譲る事は「負け」ではありません。
サーキットで走行するドライバーはみな、もっと上手くなりたい、速くなりたいと願い、練習をしています。
ですから、自分より速いクルマに追いつかれるのは若干癪に障りますが、そこは静かに道を譲って「もっと上手くなってやる」という闘志に変換しましょう。
そのためにも、適度にバックミラーをみる習慣をつけるのも、サーキット走行の練習のひとつです。
自分より遅い車両は、許可区間で速やかに抜く
ここで大事なのは「安全とスムーズ」です。
追い越し禁止区間では我慢する
追い越し許可区間では、迷いなく短時間で抜き切る
抜く側が焦って無理をすると、事故の芽になります
- 遅い車がコースの真ん中を占有して走行し、安全に抜く事ができなさそうなときは、我慢して追従しましょう。管制室から何等かの信号が出て追い抜かせてくれるまで、煽ったりしてはいけません。
競わない(公式競技でない限り)
サーキットに来ると、どうしても「比べたくなる」ものです。
でも初心者がいちばん事故りやすい瞬間は、だいたいこの心理です。
前の車に追いつきたい
後ろの車に抜かれたくない
タイムが縮んだから、さらに攻めたい
全部、事故の入口です。
サーキット走行は“上達の遊び”であって、“勝ち負けの遊び”ではありません(少なくとも最初は)。
「きちんと整備された車両」で走る
サーキットは、急加速、急減速、高速での旋回と、クルマには力学的なストレスが大きくかかります。
公道では表面化しない弱点が、顕在化する事もすくなくありません。
だから、最低限ここは守ります。
タイヤの状態(溝、亀裂、空気圧)
ブレーキの状態(パッド残量、フルードの鮮度)
適正なオイル量、あるいはオイル漏れがない事
- 水温や油温が常に適正範囲である事
「走れたらOK」ではなく、“走れて止まれて曲がれて冷やせる” ことが前提です。
コースに習熟するまで、限界に挑まない
サーキットのルールを守る事の次に初心者がやるべきことは、コースを覚えることです。
サーキットは、公道よりも起伏があります。平面図でコースを覚えても、現実のコースにはアップダウンがあり、ストレートエンドやエイペックス付近の下りは、荷重が抜けるために繊細な操作が必要です。
またサーキットは、設計意図、あるいは建設用地の都合から、公道では考えられないアップダウンがあり、コースの先が見通せない事も少なくありません。そうした区間では、まずどこのサーキットも追い抜き禁止区間に設定されています。こうした区間でそのルールを無視して追い抜きを仕掛けると、スタッフも肝を冷やしますから、絶対にやめておきましょう。
コースに習熟するとは、理屈コネ太郎の私見ですが、気持ちよく安全に走行できる…という実感を持てるまで周回する事です。この実感がつかめてから、じょじょにブレーキポイントを奥にする、ストレートでアクセルをべた踏みする。そうした事を試し始めます。
サーキットは「限界を試す場」に見えますが、初心者にとっては「限界を試すための基礎訓練」が大切です。
限界を試す前に、コースに習熟して路面の細かい凸凹や勾配も体で覚えて下さい。
それでもサーキットが面白い理由:公道ではできない“限界への漸近”を安全に体感できる
ここまで読むと、「決まり事や考える事が多くて面倒だ」と感じたかもしれません。
その通りです。面倒です。
でも、サーキット走行には、その面倒を補って余りある価値があります。
ストレートでのアクセルべた踏み(ただし段階的に)
急制動(ABSの介入、制動距離の感覚)
荷重移動(前後左右の“重さの移動”)
旋回運動(曲がるとは何か)
そして「視線」と「ライン取り」が、車の挙動を変える体感
公道では、危険すぎて試せない領域があります。
サーキットでは、それを“決まり事”の中で、比較的安全に体験できます。
つまりサーキット走行とは、速度の遊びではなく、車の基礎を身体で理解する学習です。
これが一度でも腹落ちすると、運転が変わります。
スタッフへの敬意:サーキットは「場所」ではなく「運営」されている
サーキットの運営は、決して楽なビジネスではないだろうと私は推察しています。
設備維持、保安、救護、路面管理、走行枠の調整……全部コストです。
だから私は、サーキットを「使わせてもらっている」という感覚を持ちたいと思っています。
ブリーフィングを真面目に聞く
指示に従う
ルール違反をしない
困ったらスタッフに相談する
そして最後に「ありがとうございました」と言う
気持ちよく走れる空間は、勝手に存在しているわけではありません。
運営してくれる人がいるから成り立っています。
まとめ:サーキットは“面倒”だが、その先に悦びと上達がある
サーキット走行は、自由です。
しかし、その自由は「自己負担」という現実と背中合わせです。
だからこそ、最初に守るべきことは明確です。
ルールを守る
譲り合う
整備された車で走る
コースに慣れるまで限界に挑まない
速い人には譲る
遅い車は許可区間で安全に抜く
競わない(公式競技でない限り)
スタッフに敬意を払う
この“面倒”を引き受けた人だけが、
公道では得られない悦びと技術向上を体験できます。
シニアの趣味として、私はサーキット走行を推薦します。
ただし、推薦するのは「速さ」ではありません。
安全に、思考錯誤しながら、上達する悦びです。
