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はじめに|2月某日、富士を走る
今日、東京を出て、富士スピードウェイ走行会に前のりする。
翌日は、
壱号機か弐号機か――
おそらく弐号機でコースを走る予定だ。
今回の走行会は、
私がよく走りに行くローカル&マイナーサーキットの有志たちが企画したものだ。
そこに便乗させてもらう、という表現がいちばん近い。
ただし、
私にとって富士スピードウェイは、
単なる「少し大きなサーキット」ではない。
今回の遠征の目的について
今回の富士スピードウェイ遠征は、
たしかに武者修行ではある。
知らないコースを走り、
自分の運転を見直し、
いつもと違う環境で経験値を積む。
それ自体は、間違いなく目的のひとつだ。
だが正直に言えば、
それ以上に大きな意味がある。
それは、
かつて叶えられなかった夢を、
いまの自分が回収しに行く
ということだ。
1977年|行けなかった富士スピードウェイ
1977年。
私はまだ少年だった。
漫画『紅いペガサス』を読み、
世界のトップレーサーたちの名前を覚え、
雑誌の写真を何度も眺めながら、
「富士スピードウェイに行けば、
あの美しいロータス78というメカニズムの塊を見られるらしい。
大事故から復帰したニキ・ラウダに会えるかもしれない。
タイレルP34という異形のマシンの本物が見られるらしい」
と、今思えばあまりにも無謀な企みを立てていた。
だが当然、その画策は親に見破られた。
結果として私は、
大事故から復帰したニキ・ラウダが乗るフェラーリ
異形のタイレル6輪車
マリオ・アンドレッティが駆る、当時としては画期的だったグラウンドエフェクトマシン
そして富士スピードウェイそのもの
そのどれもを、
この目で見ることができなかった。
あのときの私は、
自分で移動手段を持たず、
決定権もなく、
ただ憧れるしかなかった。
時は流れ、2026年2月某日
それから約半世紀。
私はF1ドライバーにもなっていなければ、
レーシングカーに乗っているわけでもない。
それでも、
「よく走りに行くローカルサーキットの有志たちが、
富士で走行会をやる」
という話を聞き、
とりあえず便乗することにした。
少年時代の夢を叶える――
などという大仰な話ではない。
ただ、
行けなかった場所に、今なら行って、
あの時の積み残しを回収するのだ。
連れていくのは壱号機か、弐号機か
当初は、
タイヤやブレーキパッドの残り具合を考えて
壱号機で行くつもりだった。
だが、別記事でも述べたように、
遠くのサーキットに遠征する場合、
往復の疲労度は無視できない。
走行そのものよりも、
「そこに行って帰る」負荷のほうが大きくなることもある。
そう考えると、
ATの弐号機は、やはり楽ちんだ。
なので今回は、
ギリギリまで迷ったうえで、
おそらく弐号機で行くことになるだろう。
富士での想定タイムという、どうでもいい話
ちなみに、
私がローカル&マイナーコースで出しているベストタイムを、
コース全長、コーナー数、アップダウンなどを考慮して
AIに換算してもらうと、
だいたい 2分03秒〜2分09秒 くらいになるらしい。
もちろん、
1977年当時と今とでは、
コースの性質そのものが違う。
マシンも違えば、
安全思想も、路面も、何もかも違う。
当時のF1マシンは、
決勝ラップで 1分21秒前後。
この数字は、
彼らの眼前で景色がどれほどの速度で後方へ流れ去っていたかを想像するための、
ひとつの手がかりとして頭の中に置いている。
あの時のドライバーたちが観た景色に近づくため
私が富士で近づいてみたいのは、
ラップタイムそのものではない。
1977年当時、
F1ドライバーたちが富士で観ていた景色――
その雰囲気を、頭の中で再構築してみたいのだ。
だから私は、
彼らのラップタイムを気にしている。
タイム的に近づこうとしているわけでは全くない。
自分がその速さで走れるはずもない。
そうではなく、
彼らのタイムを知ることで、
彼らの眼前の景色がどれほどの速度で後方に流れ去っていたのかを想像したい。
どのくらいの視野で視界が更新され、
どんな緊張感でブレーキングポイントが迫り、
世界がどれほどの勢いで押し流されていったのか。
その感覚の輪郭を、
今の自分の感性と、
今の自分のマシンで、
ほんの一部でもなぞってみたい。
同じ場所に立つことはできない。
同じ景色が見えるはずもない。
それでも、
想像によって近づくことはできる。
だから私は、
彼らのタイムを参照しながら、
富士を走ってみようと思っている。
おわりに|あの時に行けなかった場所へ
1977年、
行くことができなかった富士スピードウェイ。
2026年、
自分で運転して、
自分のクルマで、
自分の意思で、そこを走る。
武者修行であると同時に、
過去の自分の積み残しを回収する遠征。
明日は、
少年の続きを、静かにやってこようと思う。
と、思っていたら、なんと天気の影響で走行会は中止になってしまいました。
