初心者向けLSDの種類と選び方 ☆ 機械式・トルセン・ビスカスの違い

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機械式・トルセン・ビスカスという主要3方式の違いを整理する解説記事。

はじめに

LSD(Limited Slip Differential)について調べると、「機械式は効きが強い」「トルセンは自然」「ビスカスは穏やか」といった表現を目にします。

実際の挙動には、作動原理に加えて、内部設定、装着位置、車両特性、タイヤ、サスペンション、運転入力などが関係します。

そこで本記事では、LSDを何を利用して差動を制限するのかという物理原理から整理します。

主要な方式は、

  • クラッチ式
  • トルク感応型ギア式
  • ビスカス式
  • 電子制御式

に分けて考えると理解しやすくなります。

以下では、それぞれの一般的な作動原理と特性、選び方を見ていきます。


第1章|LSDとは何をする装置なのか

通常のオープンデフは、左右輪の回転差を許容しながら、左右へほぼ同じトルクを伝えます。

この性質によって、旋回時には内輪と外輪がそれぞれ必要な速度で回転できます。

一方、片輪のグリップが大きく低下すると、その車輪が路面へ伝えられるトルクも小さくなります。オープンデフでは反対側へ伝えられるトルクもそれに応じて制約されるため、グリップの残っている車輪の能力を十分に使えない状況が生じます。

LSDは、差動機能を保ちながら左右出力間にトルク差を成立させ、グリップの残っている側へより大きな駆動力を伝えやすくする機構です。

四輪駆動車のセンターデフでは、同じ考え方を前輪側と後輪側の間に利用します。

各方式の違いは、どの物理現象を利用して差動を制限するかにあります。


第2章|クルマ好き界隈で使われるLSDの呼び方

日本のチューニング分野では、LSDを

  1. 機械式LSD
  2. トルセンLSD
  3. ビスカスLSD

と呼び分けることがあります。

この場合の「機械式LSD」は、多板クラッチを使用するクラッチ式LSDを指す市場慣用語として使われています。

技術的には、トルセンを含むギア式LSDも機械機構によって作動します。

本記事では構造を明確にするため、以下では「クラッチ式LSD」という名称を使用します。

作動原理から見ると、主要な方式は次のように整理できます。

  • クラッチ式:入力トルク、クラッチ摩擦、予圧
  • トルク感応型ギア式:入力トルクによって生じるギア内部の力と摩擦
  • ビスカス式:左右輪の回転速度差による粘性抵抗
  • 電子制御式:センサー情報とアクチュエータによる能動制御

この違いが、それぞれの応答特性につながります。


第3章|クラッチ式LSD

3-1|作動原理

クラッチ式LSDでは、多板クラッチの摩擦力によって左右輪の差動を制限します。

一般的な構造では、入力トルクが増加すると内部のカム機構がプレッシャーリングを押し、クラッチ板を圧着します。

入力トルクが大きくなるほどクラッチの摩擦力が増え、左右輪の結合も強くなります。

さらにクラッチ板へあらかじめ予圧を与えることで、入力トルクが小さい領域にも一定の拘束力を持たせることができます。


3-2|イニシャルトルクとは何か

クラッチ板に与えた予圧によって生じる初期の拘束トルクを、一般にイニシャルトルクと呼びます。

イニシャルトルクは、

  • 低負荷時の左右輪の結合
  • 旋回初期の応答
  • アクセルオン・オフ時の姿勢変化
  • LSDが効き始める感触

などに影響します。

同じクラッチ式LSDでも、イニシャルトルクの設定によって運転時の印象は大きく変わります。


3-3|イニシャルトルクを高くした場合の傾向

イニシャルトルクを高めると、低い入力トルクでも左右輪の結合が強くなります。

代表的には、

  • 低速旋回でタイヤの引きずり感が出やすくなる
  • チャタリングが発生しやすくなる
  • アクセル操作に対する反応が明瞭になる
  • アクセルオフ時にも左右輪の結合が残りやすくなる

といった傾向があります。

装着位置によっても体感は変化します。

フロントLSDでは、操舵抵抗や旋回初期のプッシュ感として現れることがあります。

リアLSDでは、進入から立ち上がりにかけての車体姿勢や、アクセル操作によるヨーの変化に影響します。

クラッチ式LSDでは、どの負荷領域から左右輪を結合させるかが重要な設定要素になります。


3-4|1way・1.5way・2way

クラッチ式LSDでは、カム形状によって加速側と減速側の作動特性を変えることができます。

一般的な分類が、1way、1.5way、2wayです。

1way

加速側ではカムによってクラッチ圧力を高めます。

減速側は主としてイニシャルトルクによる拘束となるため、コーナー進入では比較的大きな差動自由度を確保しやすい性格になります。

1.5way

加速側では強く作動し、減速側にも比較的弱いカム作用を持たせます。

進入時にも一定の拘束を利用しながら、加速側に重点を置いた設定です。

2way

加速側と減速側の双方で強いカム作用を持たせます。

エンジンブレーキなどによる逆入力が加わる場面でも左右輪の結合が強まり、コーナー進入からLSDを車両姿勢の一部として利用できます。


3-5|way数をどう選ぶか

1way、1.5way、2wayを考えるときに重要なのは、進入から加速までのどの局面で左右輪を結合したいかです。

コーナー進入では差動自由度を多く使い、旋回後のアクセルオンからLSDを積極的に使う走り方では1wayの特性が活きます。

減速から進入にかけても左右輪の結合を利用して車体姿勢を作る走り方では、2wayの特性を利用できます。

1.5wayはその中間に位置します。

実際の挙動には、

  • 装着する駆動軸
  • 車両の重量配分
  • イニシャルトルク
  • カム角
  • サスペンション
  • ブレーキリリース
  • アクセルを入れ始めるタイミング

なども関係します。

way数は、クラッチ式LSD全体のセッティングを構成する一要素です。


第4章|トルク感応型ギア式LSD

4-1|基本原理

トルク感応型ギア式LSDでは、ヘリカルギアや交差軸ギアなどへ入力トルクが加わった際に生じる力と内部摩擦を利用して、左右出力間にトルク差を作ります。

クラッチ板を圧着する方式と比べ、ギア機構そのものの力学特性によって連続的にトルクバイアスを発生させることが特徴です。

市場には複数の構造や製品系統があります。

その代表例の一つがTorsenです。


4-2|Torsenとは何か

Torsenは「Torque Sensing」に由来する名称で、JTEKTグループが展開する登録商標です。

Torsenはトルク感応型ギア式LSDの一系列であり、その内部構造によって複数のタイプがあります。

また、市場にはTorsen以外にも、平行軸ヘリカルギアなどを利用したトルクバイアス型LSDが存在します。

英語圏では、こうした方式を helical LSD、gear-type LSD、torque-biasing differential などと表現することがあります。


4-3|Torsen Type A・B・C

Type A|交差軸ヘリカル/ウォーム系

交差軸に配置したギアの噛み合いと内部摩擦を利用してトルクバイアスを発生させます。

大きなトルクバイアスを設定しやすく、初期のTorsenを代表する構造です。

Type B|平行軸ヘリカルギア型

平行軸上に配置されたヘリカルギア群を利用します。

コンパクトな構造を作りやすく、アクスルLSDとして量産車にも広く採用されています。

各社のヘリカル式トルクバイアスLSDにも、同じ上位概念に属する製品があります。

Type C|遊星ギア型

遊星歯車機構を利用する方式です。

前後輪へ異なる基準トルク配分を持たせることができ、主に四輪駆動車のセンターデフ用途で使用されます。


4-4|トルクバイアス比(TBR)

トルク感応型ギア式LSDの性格を示す代表的な指標が、Torque Bias Ratio=TBRです。

TBRは、二つの出力間にどの程度のトルク差を成立させられるかを示します。

例えばTBRが3:1の場合、低グリップ側が100N·mまで路面へトルクを伝えられる状況であれば、高グリップ側には理論上最大約300N·mまで伝達できる可能性があります。

ここで基準になるのが、低グリップ側に存在する反力です。

片輪が浮き上がるなどして低グリップ側が伝えられるトルクが極めて小さくなると、高グリップ側へ伝えられるトルクも小さくなります。

ブレーキ制御などによって空転側へ反力を加える車両では、その反力を利用して再びトルクバイアスを発生させることができます。


4-5|アクスル用途とセンターデフ用途

トルク感応型ギア式LSDは、左右輪間にも前後輪間にも利用できます。

アクスル用途では、左右タイヤのグリップ差に応じてトルク配分を変化させ、駆動輪のトラクションを活用します。

センターデフ用途では、前輪側と後輪側の間に生じる回転差とトルク差を扱います。

旋回時には前後輪が異なる軌跡を通り、タイヤの有効転がり半径にも差が生じるため、センターデフには連続的な差動能力が求められます。

トルク感応型ギア式は、この用途にも適した構造を作ることができます。


4-6|特徴

トルク感応型ギア式LSDには、

  • 作動が連続的で滑らか
  • 入力トルクに応じてトルクバイアスが立ち上がる
  • 摩耗するクラッチプレートを持たない
  • ユーザーによる調整項目が比較的少ない

といった特徴があります。

実際の性格は、ギア構成、内部摩擦、TBRなどの設計によって変化します。


第5章|ビスカスLSD

5-1|作動原理

ビスカスLSDでは、内部に複数のプレートと高粘度のシリコン系流体が封入されています。

左右輪に回転速度差が生じると、プレート間の流体がせん断されて粘性抵抗が発生します。

回転速度差が大きくなるほど抵抗も増え、左右輪の差動を抑える方向へ作用します。

そのため、ビスカスLSDは速度差感応型LSDとして理解すると分かりやすい方式です。


5-2|特徴

ビスカスLSDには、

  • 作動が穏やか
  • トルクの立ち上がりが滑らか
  • 構造が比較的単純
  • 日常走行で扱いやすい

といった特徴があります。

拘束力は左右輪の速度差から生じるため、入力トルクに応じて作動するクラッチ式やトルク感応型ギア式とは異なる応答になります。

連続して大きな速度差が生じる環境では内部温度が上昇し、粘性特性も変化します。

長期間の使用では、内部状態の変化に伴って拘束特性も変化します。


第6章|電子制御による差動制限

現代の車両では、センサー情報とアクチュエータを利用した差動制御も広く使われています。

代表的なものが、ブレーキ制御による疑似LSDと電子制御式eLSDです。


6-1|ブレーキ制御による疑似LSD

片輪が空転した際、その車輪へブレーキを掛けることで反力を作り、デファレンシャルを介して反対側へ駆動トルクを伝えます。

ABSやESCで使用されるブレーキ機構を利用できるため、多くの量産車で採用しやすい方式です。

連続作動時には、ブレーキへ熱負荷が加わります。


6-2|電子制御式eLSD

eLSDでは、多板クラッチなどの結合力を油圧または電動アクチュエータで制御します。

車輪速、アクセル開度、舵角、ヨーレート、車両加速度などの情報を利用し、走行状態に応じて拘束力を変化させます。

その結果、

  • 発進時のトラクション確保
  • コーナー立ち上がりの駆動力配分
  • 車体姿勢の制御
  • 高速走行時の安定性

などを一つのシステムで扱うことができます。

電子制御式LSDは、機械機構、センサー、アクチュエータ、制御ソフトウェアを組み合わせたシステムとして成立しています。


第7章|主要なLSD方式を比較する

方式主な作動要因特徴
クラッチ式入力トルク+クラッチ摩擦+予圧セッティング自由度が高い
トルク感応型ギア式入力トルク+ギア内部の力と摩擦連続的で滑らかなトルクバイアス
ビスカス式左右輪の回転速度差穏やかに拘束力が立ち上がる
電子制御式eLSDセンサー情報+アクチュエータ状況に応じて拘束力を能動制御
ブレーキ式疑似LSD車輪速差+ブレーキ制御ブレーキ反力を利用して駆動力を補う

こうして並べると、同じ目的を持つ仕組みでも、作動するきっかけがそれぞれ異なることが分かります。


第8章|LSDの選び方

LSDを選ぶときは、方式名から考えるより、使用条件から順番に整理すると分かりやすくなります。

8-1|どこに使うか

最初に確認するのは装着位置です。

FF車のフロントLSD、FR車のリアLSD、四輪駆動車の前後LSD、センターデフでは、それぞれ求められる役割が変わります。

フロントLSDでは操舵特性との関係が大きく、リアLSDではアクセル操作と車体姿勢との関係が大きくなります。


8-2|どの場面で効果を求めるか

次に、LSDを働かせたい場面を考えます。

例えば、

  • コーナー立ち上がりで内輪の空転を抑えたい
  • コーナー進入から車体姿勢を作りたい
  • 雨天や低μ路でトラクションを確保したい
  • 片輪の接地荷重が大きく減る場面で駆動力を残したい
  • 日常走行で滑らかな応答を求めたい

といった目的があります。

必要な場面を明確にすると、適した作動原理も選びやすくなります。


8-3|どのような応答を求めるか

クラッチ式は、イニシャルトルク、カム角、way数などによって性格を細かく作ることができます。

トルク感応型ギア式は、入力トルクに応じて連続的にトルクバイアスを発生させます。

ビスカス式は、左右輪の速度差に応じて穏やかに拘束力が立ち上がります。

eLSDは、車両側の制御ロジックによって必要な場面で必要な拘束力を作ります。

この応答特性と、自分の運転スタイルや使用環境を照合します。


8-4|メンテナンスも含めて考える

クラッチ式LSDでは、LSDオイル、クラッチプレートの摩耗、イニシャルトルクの変化などを管理します。

トルク感応型ギア式はクラッチプレートを持たず、比較的管理項目を少なくできます。

ビスカス式は密閉ユニットとして使用される例が多く、特性変化が大きくなった場合にはユニット単位で扱われることがあります。

使用頻度と維持管理まで含めて方式を選ぶことが大切です。


8-5|最後は製品仕様を見る

同じ方式に分類されるLSDでも、内部設計によって性格は変わります。

クラッチ式なら、

  • イニシャルトルク
  • カム角
  • 1way・1.5way・2way
  • プレート構成

などを確認します。

トルク感応型ギア式なら、

  • TBR
  • 内部構造
  • 装着軸
  • 車両との適合

などが重要になります。

方式名は製品選択の入口であり、最終的には各製品の仕様と用途を照合して判断します。


まとめ|LSDは「いつ、どの程度、左右輪を結び付けるか」で考える

LSDを理解するときは、何を利用して差動を制限しているのかを見ると整理しやすくなります。

クラッチ式は摩擦板と入力トルク、トルク感応型ギア式はギア機構に生じる力と摩擦、ビスカス式は左右輪の速度差、eLSDは電子制御によって拘束力を作ります。

LSD選びで重要なのは、自分が必要とする走行局面で、左右輪をどの程度結び付けたいかを考えることです。

装着位置、作動原理、内部設定、車両特性、そして運転スタイルを組み合わせて考えることで、自分の用途に合ったLSDを選びやすくなります。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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