※本稿は2026年7月11日時点の公開情報に基づいています。Azimut|Benettiは非上場企業であり、上場会社のような詳細な連結決算は一般公開されていません。また、2025年8月期の売上高、増収率、受注残については、会社発表と少数株主Tamburi Investment Partnersの資料で集計基準や基準日が一部異なるため、それぞれを区別して記載しています。
Contents
二つのブランドを一つの工業基盤で支えるヨットグループ
Azimut|Benetti Group(アジムット|ベネッティ・グループ)は、イタリアを代表するヨットメーカーの一つです。
ただし、Azimut|Benettiという名称のヨットが販売されているわけではありません。比較的幅広いサイズのラグジュアリーモーターヨットを手掛けるAzimut Yachtsと、大型スーパーヨット、メガヨットを中心とするBenettiを中核に、リフィット事業のLusben、インテリアやアートアドバイザリーを担うYachtiqueなどを束ねた企業グループです。
同グループの特徴は、AzimutとBenettiのブランドを表向きには明確に分けながら、研究開発、生産設備、船体技術、サービス、顧客支援といった後方機能をグループとして統合してきた点にあります。
『BOAT International』のGlobal Order Book 2026では、24メートルを超える建造中・受注済みヨットの合計全長でAzimut-Benettiが首位となりました。集計対象は163隻、合計5,924メートルで、前年の5,905メートルからほぼ横ばいです。Azimutは99隻・2,955メートル、Benettiは64隻・2,969メートルとなっており、隻数ではAzimutが多い一方、Benettiは1隻あたりの平均船長が大きくなっています。
このランキングは、あくまで24メートル超のヨットについて、建造中または受注済みの合計全長を比較したものです。品質、利益、企業価値を直接比較した順位ではなく、十分な数値提供が得られないメーカーがビルダー別表から除外される場合もあります。それでも、Azimut|Benettiが世界最大級の建造規模を持つことを示す有力な指標です。
発祥――1873年のBenetti、1969年のAzimut、1985年の統合
Azimut|Benettiの歴史には、三つの起点があります。
一つ目は、Benettiが創業した1873年です。Lorenzo Benettiがイタリア・トスカーナ州のヴィアレッジョで造船所を開きました。Benettiは木造船の建造から出発し、その後、富裕層向け大型ヨットへと領域を広げていきます。
1961年には22メートルの「Gabbiano」、1979年には当時最大級だった86メートルの「Nabila」を進水させました。Nabilaは後に映画にも登場し、Benettiを国際的な大型ヨットブランドへ押し上げる象徴的な一艇となりました。
二つ目の起点は1969年です。当時大学生だったPaolo VitelliがAzimut Srlを設立しました。
Azimutは最初から造船会社だったわけではありません。創業時の事業はセーリングヨットのチャーターで、その後、海外艇のイタリア国内販売を手掛けるディストリビューターへと発展しました。市場で顧客の需要を把握しながら、販売会社からメーカーへ移行したことがAzimutの特徴です。
1975年には、Azimutブランド初のFRPモデルとなる「AZ 43 Bali」を発表しました。1982年には30メートルのFRP艇「Falaika」を建造し、当時としては非常に大型の複合材ヨットを短期間で完成させる生産能力を示しました。
三つ目の起点が1985年です。
Paolo VitelliがBenettiを取得し、現在のAzimut|Benetti Groupにつながる企業体が誕生しました。一般に「AzimutとBenettiの統合」と表現されますが、法的・資本的には対等合併ではなく、Azimutの創業者によるBenettiの買収です。
買収後もBenettiという名称は消されませんでした。Azimutは比較的広いサイズ帯のシリーズ生産艇を担当し、Benettiは大型のスーパーヨットやメガヨットを担当するという、異なる市場ポジションが維持されました。
1998年にはBenettiがClassic、Vision、Traditionの各シリーズを導入し、合計100隻以上を販売しました。これは、Benettiが大型の完全注文建造艇だけでなく、共通の船体・技術プラットフォームを利用しながら内外装を個別化する、現在のセミカスタム型事業を拡大する契機になりました。
その後も、2009年にはAzimutがクロスオーバー型のMagellano 74を投入し、2021年にはBenettiが船尾空間を海面近くまで開放するOasis Deckを発表しました。両ブランドは一つのデザインに統一されるのではなく、異なる顧客層と使い方を開拓しながら拡大してきました。
Azimutの特徴――幅広いシリーズと共通技術の横展開
2026年時点のAzimutは、Seadeck、Fly、S、Magellano、Verve、Atlantis、Grandeという七つのシリーズを展開しています。
サイズは全長12.90メートルのVerve 42から、全長43.6メートルのGrande 44Mまでです。小型のデイクルーザーに近い艇から、乗員区画を備えた大型スーパーヨットまで、非常に広い範囲を一つのブランドでカバーしています。
Verveは船外機を使った高速オープン艇、Atlantisはスポーティーなクーペ型クルーザー、Flyはフライブリッジを持つ主力クルーザーです。Sシリーズは高速性能と流線的な外観を重視し、Magellanoは低速から中高速まで対応する長距離航海型、Grandeは26メートル以上を中心とする上位シリーズです。
Seadeckは、電動化、船内エネルギー管理、軽量化、海面に近い船尾空間を組み合わせたシリーズです。シリーズごとに用途を明確に分けつつ、船体設計、カーボン積層、電源管理、推進装置などの研究開発成果を横断的に利用することが、Azimutの商品戦略となっています。
Magellano――速度域を広げたクロスオーバー艇
Magellanoシリーズでは、Azimutが「Dual Mode Hull」と呼ぶセミプレーニング船型が採用されています。
一般的な滑走型船体よりも低速航行への適応範囲を広げつつ、必要に応じて20ノット前後の速度も出せる設計です。Magellano 66について、メーカーは同じ重量・サイズの一般的なハードチャイン船体との比較で、中速域の燃料消費量とCO₂排出量を最大20%削減できると説明しています。
また、上部構造を中心にカーボン積層を使用し、対象部品を最大30%軽量化することで、重心上昇を抑えながら船内容積を確保しています。これらはメーカーによる設計上の比較値であり、すべての運航条件で一律に得られる数値ではありません。
Grande――シリーズ生産とセミカスタムの中間
Grandeは、Azimutの上位レンジです。
共通の船体、機関、主要構造を使用しながら、内装、素材、レイアウトなどをオーナーの要望に合わせるセミカスタム方式を採っています。大型化しても完全な一品生産に移行せず、実績のある技術基盤を繰り返し利用することで、納期、品質、個別性を両立させる設計です。
Grande 32Mでは、低速から滑走域までをカバーするD2P船型とカーボン積層を組み合わせています。メーカーは、同等重量・サイズの従来型船体との比較で、燃料消費量とCO₂排出量を20~30%削減できると説明しています。上部の積層部品は最大30%軽量化され、自然横揺れモーメントも最大15%抑えられるとしています。
Seadeck――船内電力まで含めた低排出化
Seadeckでは、推進効率だけでなく、停泊中の発電機使用を減らすことも重視されています。
Seadeck 7には80kWhのリチウムイオンバッテリーとエンジン接続型の追加オルタネーターを組み合わせた「Mild Hybrid Zero Emission Hotel Mode」が採用されています。気象条件や電力使用量によりますが、メーカー公表値では発電機を停止した状態で昼間最大4時間、夜間最大8時間の船内電力を供給できます。
Azimutは、航行と停泊を合わせた年間平均利用を前提に、従来艇との比較でCO₂排出量を最大40%削減できると説明しています。この数値も特定の利用モデルを前提としたメーカー公表値ですが、Seadeckの設計対象がエンジンだけでなく、空調、安定装置、照明、発電機の運転時間まで及んでいることを示しています。
Benettiの特徴――大型艇をプラットフォーム化しながら個別化する
Benettiは、Azimutよりも大型の艇を担当しています。
現在の製品構成は、Custom、B.Loft、B.Now、B.Yond、Oasis、Motopanfilo、Class、B.Neosの各ファミリーです。複合材を使った40メートル前後の艇から、鋼製船体を持つ100メートル超の完全注文建造艇までをカバーしています。
Benettiというと、オーナーごとにゼロから設計するフルカスタム造船所という印象があります。しかし、現在の事業の中心には、実績のある船体・機関・配管・電装プラットフォームを利用しながら、外観、内装、配置、装備を個別化する方式もあります。
この方式により、完全な新規設計よりも技術的な不確実性を抑え、同じ基本設計を複数の艇に利用しながら、オーナーごとの違いを作ることができます。
Oasis――船尾を海上のテラスに変えたシリーズ
Oasisシリーズは、Benettiの新しいデザイン思想を象徴するファミリーです。
現行モデルは34.36メートルと42.5メートルで、中心となるのがOasis Deckです。船尾両側のウイングを開くことでデッキ面積を広げ、中央にインフィニティプールを配置し、後方約270度の視界を確保します。
従来の大型ヨットでは、船尾は階段、格納庫、乗降設備として扱われることが少なくありませんでした。Oasisでは船尾を、海面に近いラウンジ、プール、社交空間として再構成しています。
B.Now――実績のある鋼製プラットフォーム
B.Nowは、全長約51.5~72メートルのシリーズです。
鋼製船体とアルミニウム製上部構造を採用し、Benettiが実績を重ねた技術プラットフォームを基礎としています。共通の船体や主要構造を使用しながら、インテリアや装備を個別化するため、大型艇でありながら一定の納期予測と品質管理が可能です。
Oasis Deckを組み込めるほか、通常のディーゼル推進に加え、電動機を組み合わせたE-Modeハイブリッドやディーゼル・エレクトリック方式にも対応します。
B.Yond――長距離航海を想定したボイジャー
B.Yondは、39.9メートルと57メートルで構成される長距離航海型シリーズです。
外観はエクスプローラーヨットに近く、四つのデッキを機能別に分けることで、ゲスト、乗員、サービス、レジャー設備の動線を整理しています。長期滞在に必要な収納量や船内容積を確保しながら、Benettiらしい仕上げを組み合わせたモデルです。
E-Modeハイブリッド、停泊中にエンジンや発電機の使用を減らすホテルモード、NOx排出を抑えるSCRシステムなども用意されています。
Custom――50メートルから100メートル超まで
Customは、全長50メートルから100メートル超を対象とする鋼製ヨットです。
船主の要望に合わせた一品建造が中心ですが、Benettiが蓄積した船体構造、機関配置、技術システム、建造ノウハウを基礎として設計されます。何もない状態からすべてを作り直すというより、既存の工学的知見を活用しながら一艇ごとの外観と機能を構築する方式です。
統合化の推移――ブランドは分け、生産とサービスを束ねる
Azimut|Benettiの統合は、すべてを一度に一つの会社へまとめたものではありません。資本、生産、技術、サービスという順に、段階的に進みました。
第1段階――1985年の資本統合
最初の段階は、1985年のBenetti買収です。
Azimutの販売網、商品企画、FRP艇のシリーズ生産能力と、Benettiの大型艇建造技術、ヴィアレッジョの造船文化が一つの資本の下に入りました。
ただし、両ブランドは統一されませんでした。Azimutは比較的広い顧客層とサイズ帯を担当し、Benettiは大型スーパーヨットを担当するという区分が維持されました。
第2段階――Benettiへのシリーズ生産思想の導入
次の段階は、1990年代後半からのBenetti製品のプラットフォーム化です。
Classic、Vision、Traditionなどのシリーズは、大型艇でも共通設計を複数の顧客に展開できることを示しました。これによりBenettiは、少数の完全注文建造艇だけに依存せず、セミカスタム艇を一定数連続して建造する事業構造を築きました。
現在のB.Now、Oasis、B.Yondなども、基本となる技術プラットフォームとオーナーごとの個別仕様を組み合わせています。Azimutのシリーズ生産とBenettiの一品建造の間に、複数の生産方式が用意されていることがグループ全体の特徴です。
第3段階――造船所の機能分担
現在のグループは、合計約52万6,000平方メートル、うち約15万平方メートルが屋内となる生産設備を持っています。
アヴィリアーナは主に23メートル前後までのFRP艇、ファーノはAzimutのMagellanoとSシリーズ、ヴィアレッジョは24メートル超のAzimutとBenetti、リヴォルノは最大100メートル級のBenettiを担当しています。サヴォーナにはAzimutの艤装・納艇・サービス拠点が置かれています。
この配置は、ブランド別に工場を完全分離するのではなく、船体材料、サイズ、建造方法、艤装内容に応じて拠点を専門化するものです。
グループは2024~2027年を対象に、総額1億1,500万ユーロのインフラ投資計画を進めています。アヴィリアーナで建造可能な艇を28メートルまで大型化するほか、45メートル未満の鋼製艇を扱うLight Steel Hub、FRPとカーボンを扱うComposite Hubの整備を進めています。
第4段階――納艇後のサービスまで統合
造船以外の統合も進んでいます。
リフィット・修理を担当するLusbenは2000年にグループへ入り、2008年にはインテリア、家具、アート、船内装飾を扱うYachtiqueが設立されました。2025年12月には、両事業やマリーナ、外部パートナーを束ねるAzimut|Benetti Group Service Divisionが発表されています。
新部門は、予防保守や保証を通じた艇の資産価値保護、乗員の採用・訓練・運営、オーナー向けコンシェルジュ、インテリアやアートの継続的な提案などを対象としています。
これにより、グループの事業領域は「ヨットを建造して引き渡す」段階から、保有期間全体を支援する方向へ広がっています。
なお、グループの一部の沿革ページにはLusbenの参加年を2010年とする記載が残っています。しかし、Lusben自身の公式沿革と2025年のService Division発表はいずれも2000年としているため、本稿では2000年を採用しています。
こうした推移を整理すると、Azimut|Benettiは「表側ではブランドを分離し、後方では工業基盤とサービスを統合する」構造です。AzimutとBenettiを同じ商品に近づけるのではなく、両者の違いを維持したまま、研究開発、生産能力、資本、アフターサービスを共用しています。
資本関係――Vitelli家が支配株主、PIFとTIPが少数株主
Azimut|Benetti S.p.A.は、証券取引所に上場していない非公開会社です。
公開資料によると、イタリアの投資会社Tamburi Investment Partners(TIP)は2015年、主に増資を通じてAzimut|Benettiの株式12%を取得しました。
2023年には、サウジアラビアの政府系ファンドであるPublic Investment Fund(PIF)が33%を取得しました。この取引に伴い、TIPの持分は12%から約8%へ低下し、Vitelli家は約59%を維持しました。
最新の確認可能な公開資料を組み合わせると、資本構成は次のように整理できます。
PIFが33%、TIPが8.09%、残る約58.91%がVitelli家です。TIPの2026年4月資料では8.1%と丸めて表示されています。PIFの監査済み2024年連結財務諸表でも、Azimut-Benettiへの持分は33%で、支配子会社ではなく持分法適用の関連会社として分類されています。
したがって、PIFは大口の戦略的少数株主ですが、Azimut|Benettiを支配する親会社ではありません。議決権の過半数は引き続きVitelli家が持っていると判断できます。
経営面では、創業者Paolo Vitelliの娘であるGiovanna Vitelliが2023年3月から会長を務めています。グループCEOは、2020年9月からMarco Valleです。創業家が資本と長期戦略を担い、長年グループで経験を積んだ専門経営者が執行を担当する体制となっています。
現在の経営状況――売上15億ユーロ超、EBITDAマージン15.7%
2026年7月時点で確認できる最新の通期業績は、2025年8月31日に終了した2024/2025年度です。
TIPが2026年4月に公表した投資家向け資料によると、Azimut|Benettiの売上高は15億6,100万ユーロで、前年から10.0%増加しました。調整後EBITDAマージンは15.7%、Cash/Debt欄はプラス5億1,800万ユーロです。
売上高に15.7%を掛けると、調整後EBITDAは約2億4,500万ユーロとなります。TIP資料の別ページにも、調整後EBITDAとして2億4,500万ユーロが記載されています。
Cash/Debtがプラス5億1,800万ユーロであることから、同資料上では借入超過ではなく、実質的に現金超過側の財務状態にあります。
会社発表と株主資料で増収率が異なる
Azimut|Benetti自身は2025年9月、同年度の売上高見込みを15億ユーロ、前年比15%増と発表しました。その後の2025年12月の発表でも、8月末に終了した年度の売上高を15億ユーロとしています。
一方、後から公表されたTIP資料では15億6,100万ユーロ、前年比10.0%増です。
売上高の総額はおおむね整合していますが、増収率には差があります。丸め方、比較対象、連結または管理会計上の集計範囲などの違いが考えられますが、公開資料には両者を調整する説明がありません。そのため、確定的な数値としては、より後に公表されたTIP資料の15億6,100万ユーロを採用し、会社発表の15%増は発表時点の見込み値として扱うのが適切です。
受注残にも二つの数字がある
受注残についても、資料によって数字が異なります。
2025年9月の会社発表では、受注残は25億ユーロで、納期は2029年まで及ぶとされました。
一方、TIPが2026年4月に公表した資料では、「2025年末」の受注残が16億ユーロと記載されています。
両資料では基準日と受注残の定義が十分に説明されていません。契約済み受注、手付金受領済み受注、売上計上前残高など、どこまでを含めるかによって数字は変わります。また、建造の進行と引き渡しに伴って受注残が売上へ振り替えられます。
したがって、25億ユーロから16億ユーロへの単純な減少として解釈することはできません。確実に確認できるのは、会社側が2029年までの受注を持つと発表していることと、TIP資料でも16億ユーロの受注残が示されていることです。
市場が減速するなかで建造規模を維持
世界の24メートル超ヨット市場では、建造中・受注済みプロジェクト数が2025年の1,138隻から2026年には1,093隻へ減少しました。2023年のピーク1,203隻と比べると、約9%少ない水準です。
そのなかでAzimut-Benettiの合計建造全長は、前年の5,905メートルから5,924メートルへわずかに増加しています。
市場全体の件数が減少する一方で、グループの建造規模はほぼ維持されています。これは、比較的小型のAzimutから大型のBenettiまで製品レンジが広く、特定のサイズ帯だけに依存していないことに加え、1隻あたりの金額が大きい大型艇の構成比が高いことを反映しています。
生産能力への投資を継続
グループは、市場が急拡大していた時期から正常化する局面に移ったとの認識を示していますが、生産設備への投資は続けています。
2024~2027年には、イタリア国内の各拠点を対象とする1億1,500万ユーロのインフラ投資を進めています。さらにトスカーナ州では、直近3年間に投じた7,700万ユーロに続き、2026~2028年に追加で1億ユーロを投資する計画を発表しました。目的は、生産能力、安全性、エンジニアリング、複合材加工、鋼材加工の強化です。
この1億1,500万ユーロと1億ユーロは、対象期間と地域が一部重なっているため、単純に合計して2億1,500万ユーロの追加投資とみなすべきではありません。前者はグループ全体の2024~2027年計画、後者はトスカーナ州を対象とする2026~2028年の新しい投資サイクルです。
新しいLight Steel HubやComposite Hubを整備し、外部に委託していた一部の鋼材加工や複合材工程を内部化する方針も示されています。これは単純な生産量拡大だけでなく、大型化する艇の品質、納期、設計変更への対応力を自社内に保持するための投資です。
現在の経営状態をどう評価できるか
公開されている数字から見ると、Azimut|Benettiの現在の経営状態は堅調です。
売上高は15億ユーロを超え、調整後EBITDAマージンは15.7%です。TIP資料では5億ユーロを超える現金超過側の財務状態が示され、受注も2029年まで存在します。市場全体の建造件数が減るなかでも、24メートル超の合計建造全長は前年並みを維持しています。
加えて、造船設備、複合材加工、鋼材加工、リフィット、オーナーサービスへの投資を継続しています。現在の公開情報に、資金繰りの逼迫、大規模な生産停止、債務再編などを示す材料はありません。
一方で、同社は非上場企業です。完全な監査済み連結貸借対照表、キャッシュフロー計算書、ブランド別利益、契約キャンセル率などは一般公開されていません。受注残についても25億ユーロと16億ユーロという異なる開示が存在します。
したがって、現在の状態は「公開情報の範囲では、高い収益性と流動性を維持しながら、設備とサービスへの投資を続けている」と表現するのが正確です。
総評
Azimut|Benetti Groupは、単純に二つのヨットメーカーを一社へまとめた企業ではありません。
1873年創業のBenettiが持つ大型艇建造の経験と、1969年創業のAzimutが築いた販売力、シリーズ生産、商品開発力を、1985年の買収によって一つの資本の下へ置きました。その後、Benettiにもプラットフォーム型のセミカスタム方式を導入し、生産拠点を材料とサイズに応じて専門化し、リフィット、インテリア、乗員管理、オーナーサービスへ統合範囲を広げてきました。
艇の性格は明確に分かれています。
Azimutは、スポーツ艇、フライブリッジ艇、長距離型クロスオーバー、低排出型ハイブリッド艇、大型セミカスタム艇までを幅広く展開します。Benettiは、Oasisのような海面とのつながりを重視する艇、B.Nowのような鋼製プラットフォーム艇、B.Yondのような長距離ボイジャー、100メートルを超える完全注文建造艇を担当します。
資本面では、Vitelli家が約59%を持つ支配株主であり、PIFが33%、TIPが約8.1%を保有しています。外国政府系ファンドが大口株主として参加していますが、経営支配権は引き続き創業家側にあります。
現在のAzimut|Benettiは、売上高15億6,100万ユーロ、調整後EBITDA約2億4,500万ユーロ、同マージン15.7%という規模に達しています。世界のヨット市場がピーク時から減速するなかでも建造量を維持し、生産設備と納艇後サービスへの投資を続けています。
同グループの競争力は、AzimutとBenettiを似たブランドにすることではなく、両者の違いを残したまま、一つの工業・技術・資本・サービス基盤で支えていることにあります。
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