元医者が考えるファイナンスの有用性のハナシ ――社会人のキャッシュフロー判断に効く実務思考

住宅模型、コイン、紙幣、時計、グラフを配置した写真風のアイキャッチ。社会人のキャッシュフロー判断をファイナンス的に考える記事のイメージ
住宅ローンや投資など、社会人の日常にあるキャッシュフロー判断を、金利・時間・確率の視点から捉え直す。

Contents

はじめに

わたし理屈コネ太郎は、当時四十代半ばで臨床医としての経験もあり、それなりに自分なりの世界観を構築してきたつもりでいた。
しかし、社会人大学院でファイナンスを本気で学んだことで、それまでとは異なる世界が見えるようになった。そのおかげで、それ以降の人生で不良金商品に引っかからなかったし、納得できない船やクルマを買う事もなかった。ファイナンスは、医学と同じくらい、私の人生を守る知恵である。

それは、投資が上手くなったとか、お金を増やせるようになったという話ではない。
社会人として日々下しているキャッシュフローにまつわる判断を、どう組み立て、どう引き受けるか──その考え方や整理方法が、根底から違っていたのである。

金利、時間、確率、手数料、税。
これまで直感的に処理してきた要素を、明示的な変数として扱い、起き得る事象をシナリオとして並べる。
そのプロセスを知ったことで、自分の判断がどれほど雰囲気や直感、あるいは固定した未来という認知資源節約型の想定に依存していたかを、はっきりと自覚することになった。

本記事では、こうした経験を踏まえ、
ファイナンスという学問が、社会人の日常的なキャッシュフロー判断において、どのように実務的な根拠を与えてくれるのかを整理していきたい。それを示す事で、若い読者が科目履修等でファイナンスを受講する事を推奨する次第である。


第1章 本記事で扱う「ファイナンス」とは何か

本記事で扱うファイナンスは、以下の内容を含まない。

  • 投資手法の解説

  • 資産形成のノウハウ

  • 成功例の紹介

ここで扱うファイナンスとは、
社会人がキャッシュフローと結果責任を引き受けるための、実務的な意思決定技術である。

判断を「当たる/外れる」という結果論から切り離し、
どのような前提とシナリオのもとで判断したのかを、説明可能な形に整える。
それがファイナンスの役割だと考えている。


第2章 EBMとファイナンス――実務の性質の違い

臨床医学、特に Evidence Based Medicine(EBM)が医療界に実装されて以降、
診療プロセスはガイドラインに準拠することが標準となった。

ガイドラインとは、膨大な研究成果を多くの専門家がレビューして作成された、その時点における診断・治療についての最善知である。
臨床医は、それに沿って診断と治療を行えば、医師としての責任はほぼ全うできる。
この一連の過程において、臨床医が確率論的に複数のシナリオを展開して判断する場面は、まずない。

一方、ファイナンスの実務はまったく異なる。

住宅ローン、資金借入、投資判断といったキャッシュフロー判断において、
「これに従えば責任を果たせる」というガイドラインは存在しない。

金利、手数料、時間、税といったパラメーターを自ら探し出し、
起き得る事象を確率論的にシナリオ化し、
どの選択がどのような期待値をもたらすかを分析したうえで、どの選択肢を採択するかを判断する。

この分析と判断の全過程を、当事者自身が引き受ける。
ここに、EBMとファイナンスの決定的な違いがある。


第3章 ファイナンスは予測の学問である

ファイナンスは、予測の学問である。
ただし、ここで言う予測とは、未来を言い当てることではない。

推定とは、一定の根拠に基づいて将来を推計し、その結果を確率変数として扱う行為を指す。

将来の収入、金利、キャッシュフローは、諸条件の変化によって変わり得る未確定値である。
それらを確定値として扱えば、住宅ローンであれ投資であれ、判断は必ず歪む。

ファイナンスでは、
どの事象が、どの順序で、どの程度の確率で起こり得るかを複数のシナリオとして描き出し、
その期待値を並べて比較する。


第4章 社会人の判断は、すべてキャッシュフロー判断である

社会人が日常的に下している重要な判断の多くは、
形を変えたキャッシュフロー判断である。

  • 住宅ローンを組むか

  • 借入をするか

  • 投資をするか

  • 大きな支出を引き受けるか

これらはいずれも、
金利、時間、手数料、税の変化リスクを内包している。

にもかかわらず、
これらを一本線の将来像で判断してしまう場面は少なくない。


第5章 シナリオを並べ、比較することが判断の根拠になる

ファイナンスでは、

  • 金利が上昇した場合

  • 返済期間が延びた場合

  • 手数料が増えた場合

  • 税率が変わった場合

といった事態を、すべて別々のシナリオとして展開する。

それらを並べた上で、
引き受けられるリスクと、期待できるリターンを比較し、判断を下す。

この営みそのものが、
社会人のキャッシュフロー判断における実務的な根拠になる。


おわりに

ファイナンスの有用性とは、
起き得る事象を確率論的に展開し、
その結果を確率変数として扱うという作法によって、
直感やあてずっぽうに基づく判断よりも、
推定が当たる蓋然性を高められる点にある。

この考え方は、
投資の場面だけでなく、
社会人が日々直面するキャッシュフロー判断のすべてにおいて有効である。

ファイナンスは正解を与えてくれない。
しかし、判断を組み立てるための補助線を引いてくれる。

その補助線があるだけで、
判断の見え方は変わり、
誤りにくい選択が可能になる。

それが、
元医者である私がファイナンスを学んで感じた、
最も大きな価値である。


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