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はじめに
サーキットなどでのスポーツドライビングの解説では、
「ブレーキを踏んで曲げる」
という表現がある一方で、
「ブレーキを踏むと曲がらない」
という説明にも出会います。
同じブレーキ操作なのに、
あるときは曲がり、
あるときは曲がらない。
その違いはなぜ起きるのでしょうか。
その答えを整理する概念が摩擦円です。
摩擦円とは、
タイヤが滑り出す直前に生じている摩擦を半径とした円
であり、その内側がその瞬間に使用可能な摩擦の範囲を示します。
本記事では、縦方向と横方向の摩擦だけで整理します。
※縦方向とは進行方向、横方向とは進行方向に直角な方向を指します。
1. 摩擦は2方向の合成で考える
タイヤは路面との接触によって摩擦を生じます。
その摩擦は、
縦方向の摩擦(加速・減速)
横方向の摩擦(旋回)
この2方向の摩擦の合成として考えます。
縦方向の摩擦と横方向の摩擦の合成が摩擦円の半径を超えると、タイヤは滑ります。
2. ブレーキは摩擦円を拡大する操作である
ストレートエンドで強くブレーキを踏むと、前方へ荷重が移動します。
前輪にかかる荷重が増えることで、前輪の摩擦円は急拡大します。
これが、
「ブレーキを踏んで曲げる」
という言葉の根拠です。
ブレーキは前輪の摩擦円を大きくする操作です。
3. しかしブレーキは摩擦を縦方向に消費する操作でもある
同時に、走行中に強くブレーキを踏むと、タイヤは減速のために縦方向の摩擦を多く生じます。
つまりブレーキは、
摩擦円を拡大する
と同時に、縦方向の摩擦で摩擦円を消費する
という二面性を持ちます。
急制動では、縦方向の摩擦だけで摩擦円をほぼ使い切ることもあります。
その状態では横方向に使える余裕はありません。
その結果、
「ブレーキを踏むと曲がらない」
という現象が起きます。
4. 結果を決めるのは余力である
同じブレーキ操作でも、
荷重増加によって拡大した摩擦円
縦方向に消費した摩擦
その差分が横方向に残る余力になります。
もし、
摩擦円の拡大 > 縦方向の消費
であれば、横方向の摩擦を増やせます。
逆に、
縦方向の消費 ≥ 摩擦円の拡大
であれば、横方向の余裕はありません。
この差が、
「踏んで曲げる」か
「踏むと曲がらない」か
を分けます。
5. 進入で起きていること
ストレートからコーナー進入では、次のことが起きています。
① フルブレーキ
→ 摩擦円の急拡大
→ 最大縦方向摩擦
② 旋回開始直前にブレーキ踏み量を減じる
→ 摩擦円は緩徐に縮小
→ 縦方向の摩擦が減る
→ 横方向の余裕が生まれる
進入の本質は、
縮小しつつある摩擦円の内側で、
縦方向と横方向の摩擦の合成を最大に保つこと
です。
最大縦方向摩擦から、
縮小しつつある摩擦円の最大を狙った縦横合成へ移行する。
これはかなり複雑な操作です。
6. クルマには4本それぞれの摩擦円がある
クルマ全体で1つの摩擦円があるのではありません。
4本それぞれのタイヤに摩擦円があります。
そしてその大きさは、荷重移動によって変化します。
前後荷重移動、左右荷重移動によって、各タイヤの摩擦円は常に変動しています。
7. 挙動はどの摩擦円が先に半径を超えたかで決まる
最終的に挙動を決めるのは、
どのタイヤの摩擦円が先に半径を超えたか
です。
前輪の摩擦円が先に半径を超えればアンダーステア。
後輪の摩擦円が先に半径を超えればオーバーステア、場合によってはスピン。
すべては摩擦円の管理の結果です。
まとめ
摩擦円とは、滑り出す直前に生じている摩擦を半径とした円です。
ブレーキは、
摩擦円を拡大する操作であり
摩擦円を縦方向に消費する操作でもある
ストレートエンドの急減速からコーナー進入では、
摩擦円の急拡大と緩徐な縮小が起きています。
そして、
縮小しつつある摩擦円の内側で、
縦方向と横方向の摩擦の合成を最大に保つ。
これがサーキット走行の核心です。
減速・旋回・加速は別々の動作ではありません。
すべては、摩擦円の中での配分問題です。
