摩擦円とは? ☆ 減速・旋回・加速の関係をサーキット走行的に解説

サーキットでコーナー進入中のスポーツカーの白黒油絵調画像に、ブレーキング・コーナリング・合成ベクトルを示す摩擦円の図を重ねたイメージ。
コーナー進入時の摩擦円の概念図。ブレーキによる荷重増加と、縦横の摩擦の合成が摩擦円の内側に収まる様子を示している。

はじめに

サーキットなどでのスポーツドライビングの解説では、

「ブレーキを踏んで曲げる」

という表現があります。

一方で、

「強くブレーキを踏んでいると曲がりにくい」

という現象もあります。

同じブレーキ操作が、クルマを旋回へ導くこともあれば、旋回に使えるタイヤの能力を小さくすることもあります。

この関係を整理するために役立つのが摩擦円です。

摩擦円とは、タイヤが発生できる縦方向と横方向の力について、その合成の限界を円として表したモデルです。

この記事では、

  • 縦方向の力=加速・減速に使う力
  • 横方向の力=旋回に使う力

として考えます。

実際のタイヤが発生する力は、タイヤの滑り方、垂直荷重、路面状態、タイヤ温度などによって変化します。限界の形も楕円に近い形として扱われることがあります。

ここでは、減速・旋回・加速の関係を理解しやすくするため、摩擦円という単純なモデルを使います。


1. 摩擦円とは、タイヤの能力をどの方向へ使うかを表すモデル

タイヤが路面へ伝えられる力には限界があります。

その能力を、

  • ブレーキや加速では縦方向
  • 旋回では横方向

へ使います。

摩擦円の内側が、そのタイヤが発生できる力の範囲です。

円の中心に近いほどタイヤには余裕があり、円のふちに近づくほどグリップの限界に近づきます。

強いブレーキングでタイヤの能力を縦方向へ大きく使えば、旋回に使える横方向の余裕は小さくなります。

強く旋回して横方向へ大きな力を使えば、加速や減速に使える縦方向の余裕は小さくなります。

つまり、

減速・旋回・加速は、同じタイヤの能力をどの方向へ使うかという配分の問題

として考えることができます。

これが摩擦円の基本です。


2. 荷重移動によって摩擦円の大きさも変わる

摩擦円の大きさは、走行中も変化します。

ストレートエンドで強くブレーキを踏むと、前方への荷重移動が起こります。

すると、

  • 前輪の垂直荷重が増える
  • 後輪の垂直荷重が減る

という変化が生じます。

その結果、前輪が発生できるタイヤ力の上限は増える側へ、後輪では減る側へ動きます。

旋回すれば左右方向にも荷重が移動し、外側タイヤと内側タイヤが発生できる力の上限も変化します。

タイヤには荷重感度があり、垂直荷重の増加量と、発生できるタイヤ力の増加量は単純な比例関係にはなりません。

したがって荷重移動は、

4本のタイヤが持つ能力を前後左右へ再配分する現象

として考えることができます。

摩擦円では、円の中でどの方向へ力を使うかだけでなく、円そのものの大きさも走行中に変わっていることが重要です。


3. 「ブレーキを踏んで曲げる」と「強く踏むと曲がりにくい」はなぜ両立するのか

ここで冒頭の疑問に戻ります。

ブレーキングによって前方へ荷重が移ると、前後タイヤが発生できる力のバランスが変わります。

ブレーキを適度に残した状態から旋回へ移ることで、前方への荷重移動をある程度保ちながら、クルマを旋回へ導くことができます。

これが、

「ブレーキを踏んで曲げる」

という操作につながります。

同時に、ブレーキを踏んでいるタイヤは、減速のために縦方向の力を使っています。

制動力が大きいほど、旋回に使える横方向の余裕は小さくなります。

つまりブレーキングには、

荷重移動によって前後タイヤの能力バランスを変える作用

と、

タイヤの能力を減速方向へ使う作用

が同時にあります。

適度にブレーキを残せば、荷重移動を利用しながら旋回へつなげられます。

強くブレーキを残せば、タイヤの能力を減速方向へ多く使うため、旋回に使える余裕が小さくなります。

この二つを合わせて考えると、

「ブレーキを踏んで曲げる」

ことと、

「強くブレーキを踏んでいると曲がりにくい」

ことを、同じ摩擦円の考え方で理解できます。


4. コーナー進入では、減速から旋回へ連続的につなぐ

ストレートエンドでは、タイヤの能力を大きく減速方向へ使います。

そこからターンインに入ると、ブレーキを徐々に緩めます。

減速に使っていた縦方向の力が減るにつれて、旋回に使う横方向の力を増やせるようになります。

同時に荷重移動も変化するため、摩擦円そのものの大きさも変わっていきます。

つまりコーナー進入では、

円の大きさも変わりながら、減速に使っていたタイヤの能力を旋回へつないでいく

と考えることができます。

タイヤグリップを大きく使うサーキット走行では、タイヤが発生する力を限界付近に保ちながら、その向きを減速方向から旋回方向へ滑らかに変えていくことが重要になります。

これが、摩擦円から見たトレイルブレーキングの基本構造です。

最大制動から最大旋回までを、一続きの操作としてつなぐ。

摩擦円を理解すると、コーナー進入で行っていることがこのように見えてきます。


5. 4本のタイヤの使われ方が車両挙動を決める

クルマには4本のタイヤがあり、それぞれ異なる接地状態を持っています。

ブレーキングしながら旋回すれば、

  • 前後方向の荷重移動
  • 左右方向の荷重移動
  • 各タイヤが担当する制動力
  • 各タイヤが担当する横方向の力

が同時に変化します。

そのため4本それぞれについて、

どれだけの力を発生できるのか

と、

その能力を縦方向と横方向へどのように使っているのか

が刻々と変化します。

限界付近のコーナリングでは、前輪側が後輪側より先に横方向の限界へ近づけば、アンダーステア方向の挙動が強くなります。

後輪側が先に限界へ近づけば、オーバーステア方向の挙動が強くなります。

ブレーキやアクセルによる荷重移動も、この前後バランスに影響します。

したがって、

  • ブレーキ
  • ステアリング
  • アクセル

という三つの操作を、

4本のタイヤが、どの方向へどれだけの力を発生しているのか

という共通の視点から考えることができます。


6. コーナー出口では、旋回から加速へつなぐ

コーナー出口では、進入時とは反対方向の移行が起こります。

旋回中は、タイヤの能力を主として横方向へ使っています。

車両の向きが出口方向へ整い、ステアリングを戻していくと、必要な横方向の力が減っていきます。

そこで駆動輪では、旋回に使っていた能力を徐々に加速方向へ振り向けることができます。

つまり、

舵角を減らしながらアクセルを増やしていく

という操作です。

駆動輪が大きな横方向の力を必要としている間は、加速に使える縦方向の力も限られます。

車両の向きが整い、横方向へ必要な力が減るほど、大きな駆動力を使えるようになります。

このとき各タイヤの役割は、駆動方式によって変わります。

FFでは前輪が旋回と駆動を担当します。

FRでは前輪が主として旋回を担当し、後輪が旋回しながら駆動力も発生します。

4WDでは前後輪へ駆動力を分配できます。

そのためコーナー出口では、

早くアクセルを開けること

と、

早く大きなアクセル開度を使えること

を分けて考える必要があります。

車両の向きを早く整え、横方向へ必要なタイヤ力を減らすことが、大きな加速へ移行するための条件になります。


まとめ

摩擦円とは、タイヤが発生できる縦方向と横方向の力について、その合成限界を分かりやすく表したモデルです。

この記事で最も重要なのは、

減速・旋回・加速は、同じタイヤの能力をどの方向へ使うかという一つの連続した問題である

という点です。

さらに、その能力の上限自体も、前後・左右の荷重移動などによって走行中に変化します。

ストレートエンドでは減速方向へ大きな力を使います。

ターンインでは、減速に使う力を減らしながら旋回方向へ移行します。

コーナー出口では、旋回に使う力を減らしながら駆動輪で加速方向の力を増やしていきます。

つまりサーキット走行では、

刻々と変化する4本それぞれのタイヤの能力限界の中で、減速・旋回・加速に必要な力を連続的に配分している

と考えることができます。

摩擦円を理解すると、ブレーキ、ステアリング、アクセルという三つの操作が、

減速 → 旋回 → 加速

という一続きのコーナリング操作として見えてきます。

摩擦円が理解できたら、コーナリングについて考える次の記事は➡摩擦円の半径を大きくしてブレーキと旋回を両立|最速コーナリングの操作法


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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