HANSの通常型とハイブリッド型の価格差の意味|今後のクルマ選択の自由度

HANS は Head And Neck Supportの略称で、クラッシュ時に起きやすい頭部の急激な前方移動による頸椎・頚髄損傷を防ぐための安全装置です。現在HANSには通常型とハイブリッド型が発売されていて、両者には大きな価格差があります。本稿ではこの価格差の由来と、それがもたらすドライバーのクルマ選択自由度をまとめます。

Contents

第1章|価格差に目が行く理由

HANSデバイスを検討し始めると、多くの人がまず、通常型HANSとハイブリッド型との価格差に驚きます。
数万円で手に入る通常型と、数十万円するハイブリッド型が、同じ「HANS」と呼ばれているからです。

なぜそれほど価格差があるのか…、それだけの意味があるのか…、と理屈コネ太郎のようなサーキット初心者には疑問が湧いてきて、ほんの一瞬、思考停止に陥ります。

次章以降で、通常型とハイブリッド型のメカニズムの違い、そしてそのメカニズムの違いがドライバーにもたらす自由度について説明します。


第2章|通常型HANSのメカニズム

通常型HANSは、4点式以上のシートベルトと組み合わせて初めて正しく機能する安全装備です。

仕組みをシンプルに言うと、
クラッシュ時に頭だけが前に飛び出そうとするのを、肩にかかったシートベルトを支点として止める装置です。

通常型HANSは、ヘルメットとストラップでつながった本体を、
シートベルトによって肩から胸に押し付けることで固定されます。
走行中は特別な動きをしませんが、強い減速が起きた瞬間、
頭が前に動こうとすると、ストラップが張り、HANS本体が肩で受け止めます。

その結果、

  • 頭と体の距離が一定以上離れない

  • 首だけが強く引き伸ばされる動きが抑えられる

という状態が作られ、頸椎の過伸展や重い首のケガを防ぐ仕組みです。

この仕組みが正しく働くためには、

  • シートの形状やリクライニング角

  • ドライバーの頭と背中の位置関係

  • 肩から胸にかけてのシートベルトの角度

といった条件がきちんと噛み合っている必要があります。

これらが合っていない場合、
装着しにくかったり、違和感が強かったり、
本来の安全性能を十分に発揮できないことがあります。


第3章|ハイブリッド型HANSのメカニズム

ハイブリッド型HANSは、
首を守るための主要な働きを、シートベルトではなく装備そのものが担うように設計されたHANSです。

まず前提として、
ハイブリッド型であっても シートベルトは必須 です。
3点式であっても4点式であっても、
上体がシートに対してある程度しっかり保持されていることが安全性の前提条件になります。

ただし、
「首がどこまで前に引き伸ばされるか」を制御する役割の多くを、装備側が直接引き受けている
という点が、通常型HANSとの決定的な違いです。

ハイブリッド型では、

  • ヘルメット

  • HANS本体

がストラップによって 体幹(胸や背中)と直接つながれています

そのため、クラッシュ時に強い減速が起きて、

  • 上体がシートベルトに引かれて前に倒れ

  • それに遅れて頭が前に動こうとした場合でも

体幹と頭の距離そのものが、装備によって一定以上広がらない構造になっています。

結果として、

  • 首だけが大きく引き伸ばされる動きが起きにくい

  • 頸部の過伸展が許容範囲内に抑えられる

という安全性が確保されます。

ところで、ハイブリッド型HANSの「ハイブリッド」とは、
「シートベルトによる上体保持」と
「装備そのものによる首の伸び制御」を組み合わせている点を指します。

通常型HANSでは、首を守る仕組みの多くをシートベルトに依存しますが、
ハイブリッド型では、ヘルメットと体幹を装備で直接つなぐことで、
首の過伸展を抑える役割の一部を装備側が引き受けます。

つまりハイブリッド型HANSは、
「シートベルト前提」でありながら、
首の保護を装備とベルトの両方で分担する構造
なのです。


第4章|価格差の由来

通常型HANSは、
首の過伸展を防ぐための成立条件の多くを
四点式以上のシートベルトとシート形状に依存しています。
装備自体は比較的シンプルで、その代わりに車両側へ厳しい前提条件を要求します。

一方、ハイブリッド型HANSは、
首の伸びを制御する役割を装備側で積極的に引き受ける構造になっています。
ヘルメットと体幹を直接連結し、
シートベルト条件への依存を意図的に減らすことで、
三点式ベルト環境でも安全性が成立するよう設計されています。

この差は決定的です。
通常型が「車両環境を整えることで成立する安全装備」だとすれば、
ハイブリッド型は「装備そのものが成立条件を内包する安全装備」です。

価格差とは、
安全成立条件を装備側に肩代わりさせるための構造・部材・設計コストが、
そのまま金額として表面化したものに他なりません。


第5章|将来の選択肢をどこまで見積もるか

通常型を選んだ場合、成立条件は車両側条件やドライバーの体型に依存します。
四点式ベルトの有無だけでなく、シートレイバック、ヘルメットと用品の位置関係、肩から胸にかけてのフィッティングなどが影響します。

実用的には、出来上がった車両に合わせて通常型HANSを購入する、という順序になります。
シートを変更したり、体型が変わった場合には、通常型HANSを買い替えた方が良いケースもあるでしょう。

一方、ハイブリッド型では、成立条件を装備側にかなり寄せています。
その結果、将来どのような車両でサーキット走行を行うかという自由度が保たれます。

ハイブリッド型であれば、サーキットで頸部伸展の安全性を確保したまま、様々なクルマを走らせることができます。


第6章|価格差と汎用性のトレードオフとしての整理

通常型は、初期費用を抑えつつ、成立条件を車両側で満たす選択です。
特定の車両が前提条件として定まっている場合や、
条件が揃っている車両を前提にするのであれば、
その車両に合わせた通常型HANSは合理的な選択になります。

ハイブリッド型は、初期費用を支払うことで、成立条件を装備側にかなり集約できます。。
価格差と汎用性のトレードオフとして理解できます。


第7章|理屈コネ太郎の判断

私は、ハイブリッド型HANSを購入しました。
将来、どのような車両でサーキット走行を行うかを、今後も自由に決めたいためです。

初期費用は増えますが、判断の前提条件を増やさずに済みます。
その点を合理的であると判断しました。

現在、2台のGRヤリスをもち、両方に四点式シートベルトを導入するだけでも、相応の費用がかかります。
車体にアンカーボルトを打たず、後部シートに隠れているチャイルドシート用フックを用いたとしても、ベルト代だけで相当な金額になるでしょう。
また、壱号機はフルバケットシートが入っているため、通常型HANSは壱号機と弐号機で共有できない可能性が高いと考えました。

そうした点を総合的に考え、ハイブリッド型HANSを購入しました。


第8章|副次的な効果

通常型かハイブリッド型かを問わず、HANSを使用しているドライバーは運営側を安心させ、信頼もされます。
その結果、運営側に対して様々な相談や依頼がしやすくなる場面もあります。

サーキット運営にとって事故は日常的に起こり得るものですが、
生命に関わる事故や、身体に大きな障害が残る事故は、彼らにとっても避けたい事態であるはずです。

愉しく遊ぶ場所なのに、取返しのつかない怪我をおう。全く楽しくありません。

自分自身の身体へのダメージ軽減という視点だけでなく、
周囲の不安を減らすという視点で見ても、HANS着用には意味があると考えています。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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