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本記事の位置づけ
本記事は、「持ち家 vs 賃貸」論争に関する四部作の第二部です。
前記事(第一部)では、「総支出額の比較」による議論が、なぜ多くの人に腑に落ちないのか、その構造的な理由を整理しました。
本記事ではその続きとして、
感情や価値観をいったん脇に置き、ファイナンスの視点から住まいを捉え直すことで、
一定程度に合理的な結論を導きます。
ここで提示する結論は、
「どちらが正しいか」ではありません。
どちらが合理的かです。
第0章|はじめに
持ち家か賃貸かという議論は、
合理性の話と、価値観・感情の話が混在しやすいテーマです。
「安心できる」
「自分の城が欲しい」
「老後が不安だ」
これらは人生観として尊重されるべきものですが、
ファイナンス上の合理性とは別の次元にあります。
本記事では住宅を、
人生全体のお金の流れ
資産の残り方
リスク配分の問題
として捉え、ファイナンスの言語で整理します。
第1章|なぜこの議論は噛み合わないのか
巷間の「持ち家 vs 賃貸」論争が噛み合わない最大の理由は、
感情・価値観の話と、ファイナンスの話が混在していることです。
だから、議論は埒があかず、腑に落ちません。
本記事では、第一部で示した
「支払い総額比較による検討」の解像度を高めるために、
ファイナンス視点を導入して議論を進めます。
これにより、
支出総額に関する議論を一定程度完成させ、
合理的な結論に到達できると考えています。
第2章|ファイナンス視点とは
ファイナンス視点とは、
将来のキャッシュフローを確率変数として捉え、
考えられるさまざまな未来を並べて比較・選択する考え方です。
キャッシュフローを確率的に扱う点が、
単純な支払い額の積算による比較と大きく異なります。
住宅費は、
持ち家であれ賃貸であれ、
数十年にわたって影響を及ぼす支出です。
キャッシュ一括での住宅購入であっても、
購入後のキャッシュ使途に与える影響は、数十年に及ぶことがあります。
したがって、その合理性は人生条件と不可分です。
考慮すべき変数には、次のようなものがあります。
結婚するか、しないか
子どもはいるか
教育費をどこまで想定するか
仕事の流動性は高いか
老後に労働収入を期待できるか
金利動向
インフレ・デフレ・景気循環
これらはすべて、住宅費支払いに影響する変数です。
持ち家でも賃貸でも、合理性は容易に変化します。
第3章|まず住宅コストを確率変数として捉える
大原則として、次のように定義します。
住むために支払う金額は、すべて住宅コストである。
そしてそれは時間とともに様々な事情で変化します。
持ち家の住宅コスト
住宅ローン返済(金融政策・財政政策の影響を受ける)
固定資産税(制度変更リスクあり)
修繕・更新費(比較的高頻度で発生)
管理費・修繕積立金(固定費的性格が強い)
火災保険・地震保険(固定費的性格が強い)
賃貸の住宅コスト
家賃(法的制約あり。住み替えで調整可能)
管理費(固定費的だが住み替え可能)
敷金・礼金(預け入れ期間中は流動性を失う)
更新料
引越し費用(選択肢が多い)
ローン返済も家賃も、
いずれも居住サービスへの対価です。
ただし、この段階ではまだ結論は出ません。
ここで見ているのは、キャッシュフローだけだからです。
第4章|住宅コストの比較検討だけでは不十分な理由
住宅の合理性を考えるうえで重要なのは、
キャッシュフローに加えて次の二点です。
バランスシート(最終的に何が残るか)
流動性(どれだけ身軽に動けるか)
多くの住宅は、時間とともに資産価値が下がります。
また、不動産は即時に現金化できません。
売却には、引っ越しの数倍以上のコストがかかります。
持ち家は、支出を固定化する代わりに、
流動性を犠牲にする選択です。
条件の悪い持ち家では、
ローン完済時に資産価値がほとんど残らない、
あるいは資産価値が枯渇した状態でローン返済を続ける、
という状況も起こりえます。
第5章|住宅ローンと投資を同じ言語で考える
住宅ローンの繰り上げ返済について、
ファイナンス的な見解を整理します。
繰り上げ返済の是非は、
住宅ローン控除とのコスト比較で検討すべきです。
加えて、
繰り上げ返済手数料
手元資金の流動性低下
といった隠れたコストも考慮する必要があります。
住宅ローン控除の縮小、手数料、流動性低下という
マイナス面を伴うのが繰り上げ返済です。
繰り上げ返済に回す資金があるなら、
控除の恩恵を最大限に受け、
余計な手数料を回避し、
その資金を米国インデックス投資に積み立てる方が
ファイナンス的には合理的です。
得られる期待値は、
繰り上げ返済で減らせる利息額を
大きく上回るのが一般的です。
極めて平易に言えば、
「お得」です。
第6章|住宅ローン控除という「金利補助」
住宅ローン控除は、
「税金が戻る制度」ではなく、
金利補助と捉える方が本質的です。
控除期間中の繰り上げ返済は、
その補助を自ら放棄する行為になります。
第7章|住宅ローンは本来「不動産担保」だけで十分なはずなのに…
仮に、一億円の家を購入し、
五千万円の頭金を支払い、
残り五千万円をローンで賄ったとします。
返済不能になれば、
物件を売却し、残債を返済すればよいはずです。
しかし現実には、
頭金に加えて**団体信用生命保険(団信)**が必須です。
これは、
不動産価値だけでは回収リスクを負いたくない
という貸し手側の意思表示です。
第8章|団信という貸し手有利の構造
団信は、
借り手の家族を守る保険ではなく、
貸し手が債権を確実に回収するための保険です。
二重担保であるにもかかわらず、
保険料は借り手が負担します。
第9章|地価が下がらない物件でも団信はほぼ必須
これは、
住宅ローンという仕組みが
徹頭徹尾、貸し手有利に設計されていることを示しています。
第10章|それでも持ち家が有利になりうる例外条件
ファイナンス的に持ち家が有利となりうるのは、
次の条件を同時に満たす場合に限られます。
30年以上住み続ける可能性が極めて高い
都心・駅近など、将来需要が高い物件
高インフレが長期に続く(私見では年5%以上)
これらを事前に見抜くのは極めて困難です。
換言すると、
持ち家が有利になるケースは稀です。
終章|ファイナンスの視点からの結論
以上を踏まえると、
平均的な条件にある多くの人にとって、
合理的な基準は賃貸です。
賃貸の最大の強みは、
修正可能性にあります。
一方、持ち家の不利は、
条件が長期かつ不可逆的に固定される点です。
ファイナンス的には、
持ち家は「普通の人の当たり前の選択」ではありません。
条件を見抜ける人だけが選ぶ、高難度の戦略です。
この視点に立てば、
ファイナンスの話としての結論は、ここで決着します。
しかし、合理性だけで人間の判断が形成されないのはよくしられた事実です、次の記事持ち家 vs 賃貸(3/4)|合理性では測れない「所有」の心理では、人の心や気持ちが持ち家に傾く理由を深堀します。
