標題の質問に回答すると、「日本一周は法律的には全く可能です」。小型船舶、特に動力で動くボートを所有すると必ず向き合うのが「限定沿海」という言葉ですが、この言葉がちょっとややこしい。今回は「限定沿海」と、それに似た「沿岸5海里」を整理して、なぜプレジャーボートで日本一周が可能なのか…について理屈コネ太郎の管見での私見を纏めます。もし日本一周を本気で考えている読者がいらっしゃったら、もう一度ご自身で法的根拠の確認をしてください。
Contents
1. はじめに
色々な場面で使用される「限定沿海」という言葉に首をかしげた方も多いでしょう。
それもそのはず、同じ「限定沿海」という言葉が、文脈によって違う意味で使用されるからです。そして難解さに拍車をかけるのが「沿岸小型船舶(沿岸5海里)」という言葉です。まず、限定沿海には二つの意味があるところから説明します。
1. 陸からの距離としての限定沿海
一つ目の「限定沿海」の意味は、陸(岸)からの距離で定義される海域を指します。
「沿海区域(日本沿岸からおおむね20海里以内で、沿岸以上、遠洋未満)」をさらに分割し、
陸から5海里以内
陸から10海里以内
陸から20海里以内
といった形で区切ったものが「限定沿海」です。
これはあくまで岸からの距離が〇〇海里以内までの沿海という地理的な意味です。
2. 船舶検査証に記載される限定沿海
もう一つの「限定沿海」の意味は、個々の船に許される航行区域を意味します。
船舶検査証には「航行区域:限定沿海」と記されますが、これは単なるラベルではなく、
船の性能(最高速力・耐航性・装備)
定係港(普段係留している場所)
を基準に決まります。
👉 具体的には、その船の定係地から最大速力で片道2時間以内に到達できる「沿海」のすべての海域が、船舶検査証上の当該船舶の航行区域としての「限定沿海」です。
言い換えれば、「緊急時に片道2時間以内で陸(岸)や避難港へ逃げ込める沿海の範囲」こそが、証書上の限定沿海です。つまり、沿海と呼ばれる海域のうち、その船の性能や定係地の位置によって航行が許された沿海という意味での限定沿海なのです。
3. 沿岸小型船舶(沿岸5海里)
船検証上の航行区域としての「限定沿海」とは別枠で、沿岸小型船舶(沿岸5海里)という制度というか概念があります。
これは 本州・北海道・四国・九州とその付属島の陸(沿岸)から5海里以内を航行可能な船舶のこと。国交省の告示で全国的に定められ、日本列島をぐるりと取り囲む帯のように連続する沿岸5海里以内の海域を航行できます。
4. 日本一周が可能となる理由
限定沿海(証書上の航行区域)だけでは、定係地から片道2時間を超える海域を航行できないため、日本一周はできません。
しかし、航行可能区域が限定沿海の船は、殆どの場合に沿岸小型船舶の要件を満たす事と、沿岸小型船舶の航行可能区域は日本列島をぐるりと取り囲む帯として告示されているため、航行可能区域に沿岸を追加すれば沿岸から5海里以内の海域をのみを航行すれば、航行可能区域が限定沿海の船であれば日本一周は法的に可能です。
ややこしいですね。
要するに、日本をグルリと取り囲むように沿岸5海里の海域があり、その海域を定係地とは無関係に航行できるのが沿岸小型船舶です。そして、船検証上で航行区域「限定沿海」と記された船舶は沿岸小型船舶の要件を満たすので、航行区域に沿岸を追加後に日本をグルリと取り囲む沿岸5海里以内の航行を続ける事で、片道二時間以内の束縛から解放され、寄港地で燃料などを補給すれば、日本一周が法的には可能になる…と言う事です。
ただし、実際に日本一周を計画するときには、ご自分で法律を確認のうえ実行してください。またここでの話題はあくまで法的に可能かどうかについてなので、海況などについては一切考慮していません。
まとめ
「限定沿海」には二つの意味がある。
陸からの距離で定義されたカテゴリー(地理的な概念としての限定沿海)
船舶検査証に記載される、その船が定係地から片道2時間以内に到達できる沿海の範囲(当該船の航行区域としての限定沿海)
船舶検査証上の限定沿海の船は沿岸小型船舶の条件を満たしている。
だから、沿岸小型船舶(=陸の岸から5海里以内)の区域は日本をぐるりと取り囲んでいるため、これを航行すれば航行可能区域が限定沿海の船舶で日本一周が法的に可能となる。