2024年6月、私の愛艇Merry Fisher 895 SportにSeakeeper Rideを装着してから、すでに16カ月が経った。
当初は“電子制御トリムタブ”の新しさに惹かれたが、いまではこの装置が艇の一部として自然に馴染み、航行中に特別意識することも少なくなった。
だが、SUP-FOILや釣りのために海上でエンジンを切り、遊んだあとに再発進した際に「なんか揺れるな」と感じてふと見るとSeakeeper Rideのスイッチの入れ忘れに気づくと、その“静かな効果”を改めて実感する。
下記にこれまでのSeakeepeer Rideの関連記事を一覧にしておきます。
Seakeeper Rideとは?導入準備とその魅力
Seakeeper Ride 初乗りレビュー|乗り味・効果・装着後の変化
航行中の揺れが確実に減少 Seakeeper Ride
Seakeeper Rideを2カ月使って分かったメリットと気になる点
Contents
技術が日常に溶け込むまで
Seakeeper Rideを導入して一年を超える頃には、その存在は“特別な装備”から“当たり前の装備”へと変わっていた。
導入直後のような鮮烈な感動は薄れたが、航行全体の穏やかさや操船時の安心感は確実に積み重なっていった。
もはや効果を感じるというより、効いていないときに違和感を覚える──それが現在の正直な実感である。
再発進で気づくRideの存在
SUP-FOILや釣りでは、海上でエンジンとメインスイッチを切る事も少なくない。
再発進後に「今日はなんか揺れるな」と感じてスイッチを見ると、Seakeeper Rideを起動しわすれていたことに気づく。
ONにした瞬間、船体の受ける波の力が柔らかく変わり、細かいバタつきがスッと消えていく。
この「再起動時の変化」こそ、Rideが働いていたことを最も実感する瞬間である。
おそらく施工業者に依頼すれば、GPSの起動と同時にSeakeeper Rideも起動するよう連動設定にすることも可能だったと思う。
だが私はあえて、GPSとSeakeeper Rideを別系統に構成した。
その理由は単純で、航行準備時の電源投入を最小限にしたかったからだ。
SUP-FOILや釣りの最中にはRideを作動させる必要がない時間も多く、必要な時だけ電力を使う構成を選んだ。
その選択が結果的に、再起動を忘れて「揺れ」を感じ、Rideのありがたみを再確認するという経験を生んでいる。
愛艇の特性とRideの効き方
Seakeeper Rideの効果を説明するYouTube上の動画では、多くがバウの質量が小さいセンターコンソール艇を使用している。
そうした軽量艇では、Seakeeper RideのONとOFFでピッチング挙動が劇的に変化する。
一方、私の愛艇Merry Fisher 895 Sportはバウが重く、全体重量も大きいため、動画のような派手な差は目視では現れにくい。
それでも、私は装着前の一年半をSeakeeper Rideなしで運用してきた。
だからこそ、“叩きの鋭さがやわらいだ”という違いを確かに体感できた。
それが、装着二カ月後の記事に記した内容である。
そしていま、16カ月が経った現在では、もはやRideがONの状態が自分の“標準”になっている。
ONが自然で、OFFにすると揺れに違和感を覚える。
つまり、体がSeakeeper Rideの補正を前提にした感覚へと順応しているのだ。
この「慣れ」は、効果が薄れたからではなく、安定が日常に溶け込んだ証拠である。
“効いていることを忘れる”静かな技術
Seakeeper Rideは派手な動作音もなければ、スイッチONの瞬間に劇的な変化を感じるわけでもない。
トリムタブ相当部が毎秒数十回単位でわずかに動き、艇の挙動を調整している。
この制御はきわめて静かで、ほとんどの乗員は作動していることすら意識しない。
Rideは作動してていることを感じさせないが、その実効はこうした機会に再確認できるほど有効な装置である。
一方でOFFの状態で再発進すると、わずかに船体が落ち着かず、ローリングの収束に時間がかかる。
その「不安定さ」を体感した瞬間、Rideの存在を思い出す。
この感覚は、車のサスペンションや電子制御スタビリティの介入を“感じない”現代車のそれに近い。
結論 ― 波の上に“平穏”をもたらす装置
16カ月使い続けた今も、Seakeeper Rideにトラブルは一度もない。
構造的な劣化も見られず、装着直後と同じ安定効果を維持している。
最高速がわずかに落ちても、海上で過ごす時間の質がそれ以上に向上した。
波がある海域で釣りやSUPを楽しむ人にとって、Seakeeper Rideは**「なくても困らないが、あるともう戻れない」**装備だと断言できる。
航行中に“効いている”と感じることはほとんどない。
だが、エンジンを切って遊び、再び走り出したときに「なんか揺れるな」と思って入れ忘れに気づきスイッチを入れる──
そしてそのあとに、艇体と海水との関係の激しさがずいぶんと和らぐことを体で感じるのだ。