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はじめに|なぜ効用関数から始めるのか
効用関数は、もともとミクロ経済学の基礎概念です。
どの選択肢を好むか、という順序を整理するために用いられます。
一方でこの考え方は、
政権の経済政策をメタ的に理解するうえでも、非常に有効な思考ツールになります。
税制、給付金、社会保障、財政運営。
これらの政策は、それぞれが独立して存在しているように見えますが、
実際には「何を重視し、何を犠牲にするか」という判断の積み重ねです。
効用関数という枠組みを知っていると、
こうした判断を感想や印象ではなく、構造として捉えることができます。
本記事では、効用関数を数式として厳密に扱うことはしません。
代わりに、
効用関数とは何か
何を表し、何を表さないのか
経済政策をめぐるディスカッションで、どのように使えるのか
といった点について整理します。
経済政策について、
立場論や好悪ではなく、
もう一段深いところで考えたい人に向けた内容です。
効用関数とは何か
まず、効用関数の基本的な意味を確認します。
効用関数とは、
ある経済主体が、どの選択肢を好むかという順序を表現するための道具です。
ここでいう経済主体とは、
個人や家計だけでなく、
分析の目的に応じて一つにまとめられた政府や政権を含みます。
重要なのは、
効用関数は「幸福の大きさ」や「満足度の量」を測っているわけではない、
という点です。
効用関数が表しているのは、あくまで、
A と B のどちらを好むか
その判断が一貫しているか
という順序関係です。
数値そのものに意味はありません。
順序が保たれていれば、それで十分です。
効用関数は何を表し、何を表さないのか
効用関数が表しているのは、
価値判断の置きどころです。
一方で、次のようなものを直接表しているわけではありません。
実際の感情
道徳的な正しさ
社会全体の幸福度
効用関数は、
現実そのものを写し取る装置ではありません。
意思決定を考えるために、現実を簡略化するための道具です。
この割り切りを受け入れることが、
効用関数を正しく使うための前提になります。
なぜ経済政策の議論に役立つのか
経済政策は、必ずトレードオフを伴います。
成長を優先すれば、分配が後回しになることがあります
財政規律を重視すれば、短期的な景気刺激は弱くなります
現役世代を厚くすれば、将来世代の負担は増えます
どの政策も、
「何かを良くし、何かを諦める」選択です。
効用関数の考え方を使うと、
この選択を次の問いに整理できます。
この政策は、何を重く見ているのか
逆に、何については重みを下げているのか
これはそのまま、
どのような価値判断を前提にしているか
という問いになります。
ディスカッションでの使い方
実際の議論の場では、
効用関数を数式として書く必要はありません。
重要なのは、
複数の政策を、一つの価値基準で説明できるかを見ることです。
たとえば、税制、給付、財政運営を並べて見たときに、
これまでの政策を総合すると、
この政権は成長と財政規律を強く重視し、
所得分配や将来世代の効用には、
比較的軽い重みを置いているように見えます。
と整理できるのであれば、
その政権の経済運営の特徴を、
かなり簡潔に共有できます。
この表現は、
賛成か反対か
好きか嫌いか
とは別の次元で、
政策の性格を説明しています。
議論は自然に、
その重み付けは妥当か
別の重み付けはあり得ないか
そのトレードオフを受け入れるのか
という、検討可能な論点に移ります。
効用関数は「答え」を出す道具ではありません
最後に、重要な点を確認しておきます。
効用関数は、
「この政策が正しい」「この政権が間違っている」
といった答えを自動的に出す道具ではありません。
効用関数は、
何を重視しているのか
どこに価値判断が置かれているのか
を見える形にするための思考ツールです。
この視点を持っているだけで、
経済政策をめぐる議論の解像度は大きく変わります。
おわりに
効用関数は、
経済学の専門用語の一つに見えるかもしれません。
しかし実際には、
経済政策を読むときに、思考の軸を整えるための道具です。
この考え方に慣れると、
今後登場するさまざまな「〇〇関数」も、
同じ種類の道具として落ち着いて受け止められるようになります。
次の記事では、
こうした関数がなぜ数多く登場するのか、
そしてそれらとどう付き合えばよいのかを整理する予定です。
