車高調という名称をそのまま読むと、それは「車高を調整するパーツ」に見える。
しかしサーキットを走行したGRヤリスの挙動を観察すると、その理解では足りない。
車高を1cm下げるという行為は、アライメントとロールセンター位置を動かし、荷重移動特性を変化させる。
減衰を1段変更するという行為は、ジオメトリーの中でのサスペンション運動速度を変える。
本記事は、今後20型GRヤリス6MTに履かせたクスコSports TN-Sで色々と遊ぶ記事投稿を予定しているので、それらの記事内で車高調の説明を省略する目的で、車高調という装置が実際に何を変更しているのかを構造から整理する。
Contents
1|純正サスペンションという前提
自動車メーカーは純正サスペンションにおいて、車高、バネ特性、減衰特性、サスペンションジオメトリーを一体で設計する。
メーカーは各値を独立に決めているのではない。
メーカーは車両重量、重心位置、タイヤ特性、使用目的を前提に、各値を相互依存関係の中で決定する。
純正状態では、車高、バネ、減衰、ジオメトリーは一体の設計値として固定されている。
2|車高調という構成部品
車高調とは、ユーザーがその設計要素の一部を変更可能にする構成部品である。
車高調が変更可能にする主要要素は車高および減衰である。
多くの製品はスプリングと共に販売される。
スプリング特性は購入時の選択によって決まり、装着後は実質的に固定される。
車高調はバネレートを連続的に調整する装置ではない。
車高調は、車高と減衰を変更可能にしたサスペンション構成である。
3|車高を変更するということ
車高を変更すると、サスペンションアーム角度が変化する。
サスペンションアーム角度の変化は、サスペンションジオメトリーを変化させる。
サスペンションジオメトリーが変化すると、以下の値が変化する。
キャンバー角
トー角
ロールセンター位置
アライメント値およびロールセンター位置の変化は、荷重移動特性とタイヤ接地条件を変化させる。
したがって、車高変更は外観変更にとどまらない。
車高変更は、サスペンションの構造特性を変更する行為である。
4|減衰を変更するということ
減衰とは、ダンパーがサスペンションの運動速度に応じて発生させる抵抗力である。
減衰を変更すると、サスペンションの動く速さが変わる。
減衰変更は以下の挙動に影響する。
ピッチング速度
ロール速度
路面追従速度
減衰変更はジオメトリーそのものを変更しない。
減衰変更は、既存ジオメトリーの中での運動の仕方を変更する。
5|なぜ「車高調」と呼ばれるのか
調整式サスペンションは本来、車高および減衰を変更可能にする構成部品である。
しかし市場は視覚的変化を主たる価値として消費した。
ローダウン文化は車高変更を装置の主目的として認識させた。
その結果、「車高調整式」という名称が流通し、「車高調」という略称が定着した。
名称は機能の全体を代表していない。
名称は購買動機の一部を代表している。
まとめ
車高調は単なるローダウンパーツではない。
車高変更はジオメトリーを変化させ、アライメントとロールセンター位置を変え、荷重移動特性を変化させる。
減衰変更はジオメトリーの中での運動速度を制御する。
車高調とは、純正で固定されていたサスペンション設計の一部を、ユーザーが再設計できるようにする構成部品である。
その構造を理解したとき、車高調は「見た目を変える装置」ではなく、「挙動を設計し直す装置」であると理解できる。
