当記事は、当サイトに珍しく、初心者を卒業した中級上位者を目指すための記事です。そのためやや難解ですが、読み進める価値は菅らずありますので、最後までよんで臭い。
次のコーナー進入の仕込みは、主制動のためにブレーキを踏む前から始まっています。全開区間で車両の位置、向き、ヨー運動を整え、どの方向を向いて主制動に入るかを決めます。
主制動時の車体は、次のコーナーへ都合のよい方向を向けられます。車体の向きと実際の進行方向を一致させ、その方向への直進状態を作れば、コースに対して斜めでも強く減速できます。
短い接続区間や連続コーナーでは、多少の横力を残して主制動へ入るラインが、その後に必要となる方向変化を減らし、区間全体のタイムを短縮する場合もあります。
本記事でいうフルブレーキとは、その時点の車両姿勢、タイヤ、路面条件に応じて、安定して使える制動力の上限付近を使う主制動です。
Contents
フルブレーキ前に整える三つの要素
タイトルの「ストレート」には、コース図上の直線に加え、主制動直前までアクセル全開を維持しながら、次のコーナーへ向けて位置と向きを整えられる緩い接続区間も含めます。
以下では、これらを「全開区間」と呼びます。
全開区間で整えるのは、主に次の三つです。
・コース上の位置
・車体の向きと実際の進行方向
・ヨー運動
ヨー運動とは、クルマを上から見たときに、車体が左右へ向きを変える回転運動です。その回転の速さをヨーレートと呼びます。
主制動を始める時点で、クルマがコース上のどこにいて、どちらを向き、どの程度のヨー運動を残しているか。
これらが、主制動後の走行ラインを大きく左右します。
主制動時の車体はコースと平行でなくてもよい
右コーナーへの進入を考えます。
クルマはコース左側のアウトに位置しています。
アウト側というコース上の位置と、車体の向きは別々に設計できます。フルブレーキ前の全開区間で、アウト側に位置したまま車体を少し右へ向けることもできます。
その後、車体の回転を落ち着かせ、次の状態を作ります。
・車体の向きと実際の進行方向をほぼ一致させる
・ヨーレートを十分に小さくする
・横加速度を十分に小さくする
・ステアリングをほぼ中立に戻す
この状態では、クルマは右斜め方向へほぼ直進しています。
コースに対しては斜めですが、車両運動としては右斜め方向への直進です。走行ラインを維持するために必要な横力も小さくなります。
そのため、その斜め方向へ強い主制動を行えます。
主制動前では、車体の向きと実際の進行方向の一致、ヨーレート、横加速度を整えます。安定した状態を作ることで、タイヤの能力を主として制動へ使えます。
アウト・イン・アウトの「アウト」は、主としてコース上の位置を示します。車体の向きには、次のコーナーへ都合のよい方向を選べます。
斜めの直進制動と、曲がりながらの制動
ここでは、二つの状態を区別します。
一つ目は、車体がコースに対して斜めを向きながら、その方向へ直進している状態です。
この場合、ヨーレートと横加速度は小さく、タイヤが使う横力も小さいため、通常の直進時に近い強さで主制動できます。
二つ目は、車体がまだ向きを変えており、曲線を描きながら主制動へ入る状態です。
この場合、タイヤは旋回のための横力を発生しています。タイヤの能力の一部を横方向へ使うため、制動に使える縦力は減ります。
ただし、小さな横力に対する制動力の減少は、横力と同じ割合では進みません。
その関係は、摩擦円とピタゴラスの定理で表せます。
摩擦円とピタゴラスの定理
単純化した摩擦円では、タイヤが発生する力を次の三つに分けて考えます。
・制動や加速に使う縦力
・旋回に使う横力
・縦力と横力を合わせた合力
縦力と横力は直角に交わります。
縦力と横力を直角三角形の二辺、二つを合わせた合力を斜辺と考えれば、その大きさはピタゴラスの定理で求められます。
関係を式で表すと、次のようになります。
制動力² + 横力² ≦ タイヤが発揮できる最大合力²
縦力と横力を合わせた長さが、摩擦円の半径である最大合力の範囲内に収まる間、タイヤは制動と旋回を同時に行えます。
横力が決まっているとき、使用できる最大制動力は次の式で求められます。
最大制動力 = √(最大合力² − 横力²)
タイヤが発揮できる最大合力を100とし、横方向へ20の力を使っている場合は、次のようになります。
最大制動力 = √(100² − 20²)
= √9600
≒ 98
横力20と制動力約98を直角方向に組み合わせると、その合力の長さが、摩擦円の半径である100になります。
横方向へ50の力を使っている場合は、次のようになります。
最大制動力 = √(100² − 50²)
= √7500
≒ 87
単純化した摩擦円上では、横力を限界の20%使っていても、制動方向には約98%の力が残ります。横力が50%の場合も、約87%の制動力を使えます。
小さな横力に対する制動力の減少は、比較的緩やかです。
実際のタイヤでは、縦力と横力の限界は、円や楕円、さらに複雑な形として現れます。スリップアングル、スリップ率、タイヤにかかる荷重、温度、路面状態なども、発揮できる力を変化させます。
そのため、98や87は、一本のタイヤを完全な摩擦円として扱った場合の概念値です。実車全体の減速度を直接予測する数字ではありません。
この数式は、小さな横力に対する制動力の減少が緩やかであることを示しています。
舵角ゼロは横力を減らすための手段
フルブレーキでは、ステアリングをほぼ中立にするのが原則です。
舵角を小さくする目的は、タイヤに要求する横力を減らし、制動へ使える余力を増やすことにあります。
舵角は、前輪が車体に対してどちらを向いているかを示します。
一方、スリップアングルは、タイヤが向いている方向と、そのタイヤが実際に進んでいる方向との差です。タイヤはこの角度差によって横力を発生させます。
舵角が少し残っていても、スリップアングルと横力要求が小さければ、強い制動と両立しやすくなります。
ステアリングを中立へ戻した後も、ヨー運動や車体の横滑りが残れば、タイヤは横力を発生します。
強い主制動で使える制動力は、舵角、横力要求、ヨーレート、横加速度、荷重移動を含む、その時点の車両状態によって決まります。
制動力を少し譲り、向きを作る
主制動だけを比較すると、横力を使わない直進制動が最も大きな減速度を得やすくなります。
サーキットでは、前のコーナー出口から次のコーナー出口までの区間タイムを競います。
区間の形状によっては、車体をいったんコースと平行に戻して主制動を行い、その後に次のコーナー方向へ向きを変えると、余分な方向変更が生じます。
フルブレーキ前の全開区間で車体を次のコーナー方向へ向け、その方向のまま主制動へ入ることで、主制動後に必要となる方向変化を減らせる場合があります。
その結果、次のような利益が得られます。
・ターンイン後に必要な舵角を小さくできる
・急激な方向変化を避けられる
・走行ラインの曲率変化を穏やかにできる
・主制動から旋回へ滑らかに移りやすくなる
完全な直進制動に比べて制動距離が少し伸びても、あらかじめ車体を次のコーナー方向へ向けておく利益が上回れば、区間全体のタイムは短くなります。
向き作りの量には適切な範囲があります。
向き作りを早めすぎると、アウト側の位置と主制動に使える距離を失い、クリッピングポイントも早まります。
最適な向き作りは、主制動後に得られる利益が、主制動前に生じる損失を上回る範囲にあります。
この考え方が有効になりやすい区間
この考え方は、次のような区間で特に重要になります。
・前のコーナーから次のコーナーまでが短い
・全開区間が緩く蛇行している
・高速コーナーの直後に強い減速が必要になる
・左右のコーナーが連続している
・前のコーナー出口ですでに次のコーナー方向へ車体が向いている
こうした区間では、前のコーナー、接続区間、次のコーナーを一つの連続区間として扱います。
前のコーナーを単独で最も速く抜けるラインよりも、次のコーナーへ向けて位置と向きを整えやすいラインの方が、連続区間全体では速い場合があります。
長い直線の先で大幅な減速が必要な場合は、ヨー運動と横力を十分に小さくし、タイヤの能力を制動へ集中させる走りが合理的です。
適用時の判断軸は、次の二つです。
・横力を残すことで失う制動力
・車体を先に次のコーナーへ向けておくことで得られる利益
この二つを区間全体で比較します。
主制動時の状態から全開区間を逆算する
ラインは、次のコーナーから前へ逆算して組み立てます。
まず、次のコーナーに対して、次の状態を考えます。
・どの位置から主制動へ入るか
・どの方向を向いて主制動へ入るか
・どの程度の横力を残して主制動へ入るか
次に、その状態へ到達できるよう、フルブレーキ前の全開区間のラインを決めます。
距離に余裕があれば、次のコーナー方向へ車体を向けた後、ヨー運動と横加速度を十分に小さくし、その方向への直進状態を作ってから主制動へ入ります。
距離が短い場合は、多少の横力を残したまま主制動へ入り、残っている横力に合わせて制動力を調整します。
本記事は、主制動後のトレイルブレーキや、クリッピングポイント以降のアクセル操作より一段前にある、
どの状態で主制動へ入るか
という問題を扱っています。
主制動後のブレーキ踏力と舵角、クリッピングポイント以降のアクセル操作については、別記事「アウト・イン・アウトは結果である|トレイルブレーキと舵角で考えるコーナリングの基本」で扱っています。
まとめ|コーナーの速さはフルブレーキ前に仕込まれる
主制動では、横力を小さくし、タイヤの能力を制動へ使う走りが基本です。
次のコーナー方向への直進状態を作れていれば、コースに対して斜めでも強く制動できます。
短い接続区間や連続コーナーでは、多少の横力を残して主制動へ入ることで、その後に必要となる方向変化を減らし、区間全体のタイムを短縮できる場合があります。
単純化した摩擦円では、最大合力を100、横力を20とすると、使用できる最大制動力は次のようになります。
最大制動力 = √(100² − 20²)≒98
小さな横力に対する制動力の減少は緩やかです。
判断軸は、横力を残すことで失う制動力と、あらかじめ車体を次のコーナーへ向けておくことで得られる利益の比較です。
評価単位を、前のコーナー出口から次のコーナー出口までの区間に置きます。
次のコーナー進入の仕込みは、主制動のためにブレーキを踏む前から始まっています。全開区間で車両の位置、向き、ヨー運動を整え、どの方向を向いて主制動に入るかを決めます。
コーナーの速さは、フルブレーキ前のストレートで仕込まれています。