高級ボートやヨットの世界には、「伝統を磨くメーカー」と「常識を変えるメーカー」があります。
イタリアの**Wally(ウォリー)**は、間違いなく後者です。
初めてWallyを見た人の多くは、
「これは軍艦なのか?」
「未来の乗り物では?」
という印象を受けます。
しかし、その独特なデザインは、奇抜さを狙ったものではありません。
「性能と機能を徹底的に追求した結果、この形になった。」
それがWallyというブランドです。
Contents
Wallyの歴史
Wallyは1994年、イタリア人実業家のLuca Bassaniによって創設されました。
Bassaniは当時の大型ヨットに疑問を抱いていました。
高級ヨットといえば、
- 木材を多用したクラシックな内装
- 多人数のクルーを必要とする操船
- 保守的なデザイン
- 最新技術の導入の遅れ
が当たり前だった時代です。
彼は、
「航空機やレーシングカーでは当たり前の技術が、なぜヨットには使われないのか。」
という疑問から、新しいヨットメーカーを立ち上げました。
以来Wallyは、
- カーボンファイバー
- コンピューター設計
- 電動・油圧によるセイル制御
- 少人数運航
- ミニマルデザイン
などを積極的に採用し、ヨット業界に新しい価値観を持ち込みました。
デザインではなく機能が形を決める
Wally最大の特徴は、
「デザインのためのデザインをしない」
ということです。
一般的な高級ヨットメーカーは、美しい外観を設計し、その中で性能を高めます。
一方Wallyは逆です。
まず、
- 軽い
- 速い
- 操船しやすい
- 視界が良い
- メンテナンスしやすい
という性能を追求します。
その結果として、
- 大胆に傾斜したウインドシールド
- フラッシュデッキ
- 装飾を極力排した外観
- 大きなガラス面
という現在のWallyらしいデザインが生まれました。
つまり、
形が機能を決めるのではなく、機能が形を決める。
これがWallyの設計思想です。
カーボンファイバーをいち早く採用
Wallyは、ヨット業界で最も早い段階からカーボンファイバーを積極的に採用したメーカーとして知られています。
カーボン化によって、
- 軽量化
- 高剛性
- 重心の低下
- 高速性能
- 操船性
を同時に向上させました。
現在では高級ヨットでカーボン構造は珍しくありませんが、その流れを作ったメーカーの一つがWallyです。
セーリングヨットにも革命を起こした
Wallyは現在モーターボートのイメージが強いブランドですが、本来はセーリングヨットから始まったメーカーです。
特徴は、
- 広大なフラッシュデッキ
- シート類を極力隠した設計
- カーボンマスト
- 自動化されたセイル制御
- 少人数で扱える大型艇
です。
大型ヨットでありながら、家族だけでも操船できることを目標に設計されているモデルも少なくありません。
WallyPowerという衝撃
Wallyを世界的ブランドへ押し上げたのが、
WallyPower 118
です。
2003年に発表されると、その姿は世界中に衝撃を与えました。
鋭い船首。
巨大な黒いガラス。
装飾を排したシルエット。
まるでステルス戦闘機のような外観は、今日でもWallyを象徴するデザインとなっています。
現在のWally
現在のWallyは、
- wallytenderシリーズ
- wallypowerシリーズ
- wallywhyシリーズ
- セーリングヨットシリーズ
を中心に展開しています。
代表的なモデルには、
- wallytender43
- wallytender48
- wallypower50X
- wallypower58
- wallywhy100
- wallywhy150
- wallywhy200
などがあります。
高速性能を重視するモデルから、長期滞在型のラグジュアリーヨットまで幅広くラインアップしています。
Ferretti Groupの一員となったWally
現在のWallyは、イタリアを代表する高級ヨットグループであるFerretti Groupのブランドです。
Ferretti Groupには、
- Ferretti Yachts
- Riva
- Pershing
- Itama
- Custom Line
- CRN
- Wally
などのブランドがあります。
それぞれ役割が異なり、
- Rivaは伝統的なラグジュアリー
- Pershingは高速スポーツヨット
- CRNは大型カスタムスーパーヨット
- Custom Lineは大型セミカスタムヨット
- Wallyは革新性と未来的デザイン
という位置付けになっています。
Ferretti Groupは2025年の新艇売上が約12.3億ユーロ、納艇数225隻を記録しており、世界有数のプレミアムヨットグループへと成長しています。
Wallyは、その中でも技術革新を象徴するブランドとして位置付けられています。
Beneteau GroupやBrunswickとの違い
ここで、世界の代表的なマリン企業と比較すると、Wallyの立ち位置がよく分かります。
| グループ | 特徴 |
|---|---|
| Ferretti Group | 高級モーターヨット・スーパーヨットに特化したプレミアムグループ |
| Beneteau Group | Beneteau、Jeanneau、Lagoon、Prestigeなどを擁する世界最大級の量産レジャーボートグループ |
| Brunswick | Mercury Marineを中心に、エンジン・艇体・部品まで手がける米国最大級の総合マリン企業 |
Beneteau Groupは世界中の幅広いユーザーを対象とした量産メーカーです。
Brunswickはボートだけでなく、船外機や電子機器、部品まで含めた巨大マリン産業グループです。
一方、Ferretti Groupは高級ヨット市場に特化しており、その中でもWallyは最も革新的で実験的なブランドという役割を担っています。
現在の販売状況
Wallyは決して大量生産を行うメーカーではありません。
新艇は受注生産・セミカスタムが中心で、生産隻数よりも一艇ごとの完成度や独創性を重視しています。
また、中古市場でも人気が高く、Wallyは公式のBrokerage部門を設け、自社ブランド艇の中古売買やオーナーサポートも行っています。
Ferretti Groupはグループ全体の販売実績を公表していますが、Wally単独の販売隻数は公表していません。
それでも、現在も新型モデルが継続的に投入されており、Ferretti Groupの世界的な販売網を通じて販売されることで、ブランドとしての存在感はむしろ強まっています。
Wallyがヨット業界に残したもの
Wallyは単なる高級ボートメーカーではありません。
ヨットという世界に、
- カーボン構造
- コンピューター設計
- 自動化された操船
- 少人数運航
- ミニマルデザイン
- 「機能が形を決める」という設計思想
を持ち込みました。
今日では当たり前となったこれらの考え方の多くは、Wallyが先駆的に取り入れ、業界全体へ広めてきたものです。
だからこそWallyは、「未来的なデザインのヨットメーカー」というだけではありません。
ヨットの未来を形にし、その後の業界全体に影響を与えてきたイノベーターとして、高く評価され続けています。