日本では殆どみかけませんが、アメリカの沿岸釣り文化では、非常に大きな存在感を持つ船型があります。
それが、センターコンソール艇です。
センターコンソール艇とは、操船席やステアリング、計器類を収めたコンソールを船体中央付近に置き、その周囲を人が歩いて回れるようにしたオープンデッキ型のボートです。特徴は、船の前後左右を広く使えることです。釣りをしているときに魚が船の周囲を走っても、人がコンソールを回り込んで追いかけられます。つまり、船全体を釣り場として使える構造です。

この船型は、日本ではそれほど一般的に見えないかもしれません。
しかし、アメリカではソルトウォーターフィッシング、特に沿岸から沖合へ出る釣りの世界で、非常に重要なジャンルになっています。
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センターコンソール艇の発祥
センターコンソール艇の発祥を厳密にひとつに決めるのは、少し難しいところがあります。
ただし、現在の意味での量産センターコンソール艇の起点として最もよく挙げられるのは、Boston WhalerのNausetです。
Boston Whalerの公式史では、1961年にNausetが同社初のセンターコンソールモデルとして登場したと説明されています。Nausetは、Boston Whalerの不沈構造と、中央に操船席を置くレイアウトを組み合わせた船でした。
この点は重要です。
センターコンソール艇は、豪華なキャビンや大きなサロンを持つ船として生まれたのではありません。
むしろ、余計なものを取り払い、船の上をできるだけ自由に動けるようにした、非常に実用的な船として広がりました。
1960年代半ばには、C&S Boats、後のAquaSportのようなメーカーも同系統のオープンなセンターコンソール型フィッシングボートを市場に出し、センターコンソール艇はアメリカの小型・中型フィッシングボートの一大ジャンルへ育っていきました。AquaSportは、1964年にC&S Boatsとして創業し、オープンな改良V船型のセンターコンソール艇を市場に出したブランドとして紹介されています。
つまり、センターコンソール艇は、1960年代のアメリカで、FRP船体、船外機、レジャーフィッシング文化が結びついて生まれた船型と見てよいでしょう。
どこで育った船型なのか
センターコンソール艇は、アメリカ全体で使われていますが、特に相性が良かったのは、フロリダ、カロライナ、メキシコ湾岸、バハマ周辺のような温暖な沿岸海域です。
理由は分かりやすいです。
これらの地域では、気候が比較的暖かく、日帰りで沿岸や沖合に出て釣りをする文化が強くあります。マーリン、マグロ、シイラ、キングフィッシュ、ターポン、スヌーク、レッドフィッシュなど、地域ごとに対象魚は違いますが、いずれにしても「船の上を自由に動けること」が大きな価値になります。
キャビンで休むことより、デッキで釣ること。
宿泊性より、釣り場としての使いやすさ。
優雅な内装より、ロッドホルダー、ライブウェル、魚倉、クーラー、タックル収納、洗いやすいデッキ。
この価値観が、センターコンソール艇を育てました。
その場所で有利だったこと
センターコンソール艇の最大の利点は、360度の釣りやすさです。
操船席が片側に寄っていると、人の動線はどうしても限定されます。キャビンが大きければ、前方や側面への移動も制限されます。しかしセンターコンソール艇では、船首から船尾まで、コンソールの周囲をぐるりと歩けます。大きな魚が船の周りを走っても、釣り人がラインを保ちながら移動しやすいのです。Discover Boatingも、センターコンソール艇の利点として、釣りのための360度アクセスを挙げています。
第二の利点は、見切りの良さです。
操船席が中央付近にあり、立って操船することが多いため、前方、側方、後方の視界を取りやすい構造です。浅瀬、ブイ、他船、浮遊物、鳥山、ナブラなどを見ながら走る釣りでは、この視界の広さが効きます。
第三の利点は、デッキの単純さです。
オープンデッキなので、釣具を置きやすく、汚れても洗いやすく、濡れても気になりにくい。魚を釣る、血が出る、エサを使う、海水を浴びる。そうした現実に対して、センターコンソール艇はかなり強い船型です。
第四の利点は、船外機との相性です。
多くのセンターコンソール艇は船外機仕様です。船外機は整備しやすく、浅い水域にも入りやすく、複数基掛けにすれば高速化や冗長性も確保しやすい。特に近年は、大馬力4ストローク船外機の発展によって、40フィート、50フィート級の大型センターコンソール艇も珍しくなくなりました。

この結果、センターコンソール艇は、単なる小型釣り船から、オフショアフィッシング、ファミリーボート、ダイビングボート、サンドバー遊び、さらには大型ヨットのテンダーにまで用途を広げました。
不利だったこと
一方で、センターコンソール艇には明確な弱点もあります。
最大の弱点は、天候への弱さです。
センターコンソール艇は、基本的にはオープンデッキの船です。Tトップやハードトップ、ウインドシールドを備えるモデルもありますが、キャビン艇やパイロットハウス艇ほど風雨を防げるわけではありません。寒い日、雨の日、強風の日、長時間の移動では、乗員がかなり環境に晒されます。センターコンソール艇の欠点として、開放的なデッキが天候保護を弱くする点は、多くの解説でも指摘されています。
第二の弱点は、宿泊性の低さです。
大型モデルではコンソール内や船首側にヘッド、小さなキャビン、簡易バースを持つものもあります。しかし、それでも本格的なキャビン艇やクルーザーとは違います。夜を過ごす船というより、基本は日帰りで強い船です。
第三の弱点は、家族全員が快適に過ごす船としては限界があることです。
最近の大型センターコンソール艇は、ソファ、サンパッド、冷蔵庫、ギャレー、オーディオ、電動日除けまで備えるようになっています。しかし、船型の中心はあくまでオープンデッキです。子どもや高齢者、船に慣れていない人にとっては、風を受ける、濡れる、日差しを浴びる、揺れるという要素が負担になることがあります。
第四の弱点は、日本の海との相性です。
日本では、夏は暑く、冬は寒く、梅雨もあり、海況も読みにくい日があります。また、釣りだけでなく、移動中の快適性、日除け、風除け、トイレ、荷物置き場、家族の居場所を重視するユーザーも多いでしょう。そのため、日本ではウォークアラウンド艇、キャビン付きフィッシングボート、和船型の釣り船、小型クルーザーの方が、一般的な用途には合いやすい場面があります。
センターコンソール艇は、万能ではありません。
釣りの自由度を上げるかわりに、居住性と全天候性をある程度犠牲にする船型です。
小型センターコンソール艇と大型センターコンソール艇
センターコンソール艇といっても、現在ではかなり幅があります。
小型艇では、17〜25フィート級のシンプルな釣り船としてのセンターコンソール艇があります。これは、湾内、湖、沿岸、ライトな沖釣りに向いた船です。構造は比較的単純で、船外機1基、オープンデッキ、ロッドホルダー、クーラー、簡易的なTトップという構成が典型です。
中型艇では、25〜35フィート級になり、沖合釣りへの対応力が高くなります。ツイン船外機、深いV船型、大型魚倉、ライブウェル、充実した電子機器、広いデッキが備わり、本格的なソルトウォーターフィッシング艇になります。
大型艇では、40フィートを超えるモデルもあります。これらは、もはや単なる釣り船ではなく、センターコンソール・ヨットと呼びたくなるような存在です。複数の大馬力船外機、広いラウンジシート、キャビン、ヘッド、空調、調理設備、ハードトップ、豪華な内装を備えるモデルもあります。
近年の大型センターコンソール艇は、「釣りができる高速デイヨット」に近づいています。
著名なビルダー
センターコンソール艇を語るなら、まずBoston Whalerは外せません。
Boston Whalerは、Nausetによって近代的センターコンソール艇の出発点として語られることが多いブランドです。不沈構造のイメージが強く、現在もDauntless、Montauk、Outrageなどのシリーズでセンターコンソール艇を展開しています。
Makoも重要です。
Makoは、17、19、22フィート級のセンターコンソール艇でブランドを確立しました。公式サイトでも、Mako 17は1969年から2009年まで生産された象徴的モデルとして紹介されています。Makoは、シンプルで実用的なソルトウォーターフィッシング艇として、センターコンソール文化を広げたブランドのひとつです。
Grady-Whiteは、より上質で家族向け要素も強いセンターコンソール艇の代表格です。
同社は1959年にノースカロライナ州グリーンビルで創業した老舗ビルダーで、現在はFisherman、Canyon、Coastal Explorerなどのセンターコンソール系モデルを展開しています。Grady-Whiteは、釣りだけでなく家族での快適性や上質感も重視するブランドです。
Regulator Marineは、本格的なオフショア・センターコンソール艇の有力ビルダーです。
Regulatorは1988年に創業し、ディープV船型、堅牢な構造、荒れた海での乗り味を重視するブランドとして知られています。同社は、フルハイトのグラスファイバー・グリッド構造や幅広いチャインなど、船体強度や走行性に関する工夫を説明しています。
Contenderは、トーナメント志向の強いセミカスタム・スポーツフィッシング艇の代表です。
公式サイトでは、40年以上にわたりセミカスタムのスポーツフィッシングボートを造ってきたと説明されています。速く、走り、釣るためのセンターコンソール艇という印象が強いブランドです。
Yellowfinは、現代的な高性能センターコンソール艇の象徴的ブランドです。
1998年にフロリダ州サラソタで設立され、プレミアムなオフショア向けセンターコンソール艇を展開しています。速さ、スタイル、釣り性能、カスタム性を重視するユーザーに支持されるブランドです。
SeaVeeは、フロリダらしい高性能センターコンソール艇のビルダーです。
SeaVeeは、27フィートから45フィート級の船外機仕様センターコンソール艇を、顧客仕様に合わせて造るブランドとして自社を位置づけています。ファクトリーダイレクト販売を掲げている点も特徴です。
Intrepid Powerboatsも、忘れてはいけないブランドです。
Intrepidはフロリダで1983年から高性能ボートを造ってきたブランドで、現在もプレミアムなセンターコンソール艇を展開しています。カスタム性、軽量高剛性構造、走行性能を重視するメーカーです。
Scout Boatsは、センターコンソール艇をラグジュアリー方向へ進化させた代表例のひとつです。
たとえばScout 530 LXFは、カーボンファイバーとE-glassを使ったエポキシインフュージョン構造を採用した大型モデルとして紹介されています。センターコンソール艇が、単なる釣り船から高級デイヨットへ広がったことを示す存在です。
Everglades Boatsも、Boston Whalerの流れを受ける重要なブランドです。
創業者Bob DoughertyはBoston Whalerと関係の深い人物で、Evergladesは不沈構造や高品質なオフショア・フィッシング艇を打ち出してきました。同社は現在もセンターコンソール艇を主要ラインとして展開しています。
さらに大型・高級方向では、HCB YachtsやValhalla Boatworksがあります。
HCBは、世界最大級のセンターコンソール・ヨットを造るブランドとして自社を打ち出しています。Valhalla Boatworksは、Viking Yacht Companyが船外機市場へ進出するために立ち上げた高級センターコンソールブランドです。
このあたりまで来ると、センターコンソール艇はもはや「簡素な釣り船」ではありません。
大型船外機を複数搭載した、高速で、豪華で、釣りもできるオープンスポーツヨットです。
日本でセンターコンソール艇が主流に見えにくい理由
センターコンソール艇は、合理的な船型です。
しかし、日本の一般的なプレジャーボート観とは少しズレがあります。
日本では、ボートを買うなら、風を避けられるキャビン、日差しを避ける屋根、トイレ、荷物置き場、家族が座れる場所、場合によっては仮眠できる空間を求める人が多いでしょう。
また、日本の沿岸では、釣りだけでなく、移動中の快適性もかなり重要です。夏の日差し、冬の寒さ、急な雨、風、波しぶき。こうした条件を考えると、完全に開放されたセンターコンソール艇より、キャビン付きのフィッシングボートやウォークアラウンド艇を選ぶ人が多くなるのは自然です。
さらに、日本では係留場所や船の保管、マリーナ事情、船検、使用頻度、家族の同乗なども購入判断に大きく影響します。
センターコンソール艇は、釣りに振り切るほど魅力が増す船型です。
逆にいえば、「釣りもするが、移動中の快適性も、家族の居場所も、雨風の保護も欲しい」という用途では、別の船型の方が合うことも多いのです。
センターコンソール艇は何が特別なのか
センターコンソール艇の特別さは、船の中心を「居住空間」ではなく「活動空間」にしていることです。
キャビン艇は、船内に守られた空間を作ります。
クルーザーは、海上の滞在性を高めます。
ウォークアラウンド艇は、キャビンと釣り動線の妥協点を探ります。
一方、センターコンソール艇は、船全体をデッキとして使います。
釣る。
投げる。
移動する。
魚を追う。
洗う。
積む。
降りる。
潜る。
遊ぶ。
このような行動を、できるだけ邪魔しない船型です。
だから、センターコンソール艇は、海上のリビングルームというより、海上の作業台であり、釣り場であり、遊び場です。
まとめ
センターコンソール艇は、1960年代のアメリカで、FRP船体、船外機、沿岸釣り文化の中から育った実用的なボートです。
その基本思想は、非常に明快です。
操船席を中央に置き、船の周囲を自由に歩けるようにする。
それによって、船全体を釣りのためのデッキとして使う。
この単純な発想が、アメリカのソルトウォーターフィッシング文化と見事に合いました。
温暖な気候、日帰りの沖釣り、船外機の発展、FRP量産艇の普及、スポーツフィッシング文化。これらが組み合わさり、センターコンソール艇はアメリカを代表するプレジャーボートの一大ジャンルになりました。
一方で、弱点もはっきりしています。
雨風に弱い。
寒さに弱い。
宿泊性は低い。
家族全員が快適に長時間過ごす船としては、キャビン艇に劣る。
だからこそ、センターコンソール艇は分かりやすい船です。
釣りとデッキ自由度を最優先するなら、これほど合理的な船型はなかなかありません。
しかし、快適な移動、雨風の保護、宿泊性、家族での滞在性を重視するなら、別の船型も検討した方がよいでしょう。
センターコンソール艇は、海上の万能リビングではありません。
海を広く使って、釣り、遊び、動くための船です。
その潔さこそが、センターコンソール艇の魅力なのです。