レジャーボートに見られる逆スラント・フロントガラスの利点と欠点

本記事では、プレジャーボートに見られるフロントガラス形状のうち、特に 逆スラント型フロントガラス について、若干の経験を交えながら私見を述べます。

プレジャーボートのフロントガラスには、一般的な自動車のように後方へ傾いたものもあれば、それとは反対に、上縁が前方へ張り出したものもあります。

ここでは説明を簡明にするため、フロントガラスの傾きを大きく次の二つに分けます。

ひとつは 通常スラント型
もうひとつは 逆スラント型 です。

ここでいう「前方」とは船首方向、「後方」とは船尾方向を指します。


Contents

通常スラント型とは

通常スラント型とは、自動車のフロントガラスと同じように、フロントガラスの上縁が下縁よりも後方にあるタイプです。

多くの乗り物で見慣れているのはこちらの形状だと思います。
スポーツボートや高速艇、流線形を意識したプレジャーボートでは、このタイプをよく見かけます。

自動車と同様に、ガラス上縁が下縁よりも後方にあるタイプ

逆スラント型とは

逆スラント型とは、通常スラント型とは反対に、フロントガラスの上縁が下縁よりも前方にあるタイプです。

陸上の乗り物ではあまり見かけない形状ですが、プレジャーボート、とくにパイロットハウス型の実用的な艇では採用例があります。
北欧系のボートや、カナダ・北米の実用艇に近い設計思想のボートでは、この逆スラント型のフロントガラスを見かけることがあります。

逆スラント型。フロントガラスの上縁が下縁よりも前方に出ています。

通常スラント型と逆スラント型の比較

言葉だけでは少し分かりにくいので、通常スラント型と逆スラント型を比較すると、違いは次のようになります。

左の逆スラント型は、見た目としてはやや無骨で、実用艇らしい印象を与えることがあります。
一方で、右の通常スラント型は、より流線形でスポーティーな印象になりやすいと思います。

ただし、ここで注目したいのは見た目だけではありません。
逆スラント型には、実際に使ってみると分かる実用上の利点があります。


逆スラント・フロントガラスの利点

プレジャーボートで逆スラント・フロントガラスが採用される理由はいくつかあると思います。

私が特に大きいと感じるのは、次の三点です。

第一に、日照下でのガラスへの室内造作物の映り込みが少なく、前方視界を確保しやすい場合があること。
第二に、直射日光を室内に取り込みにくく日光による室温上昇と紫外線による室内劣化を防ぎやすいこと。
第三に、操船席まわりの空間に余裕を感じやすいことです。

順に見ていきます。


利点1:窓への映り込みが少なく、視界を確保しやすい

逆スラント・フロントガラスの大きな利点のひとつは、日照下で窓への映り込みが少なく、前方視界を確保しやすい場合があることです。

通常スラント型では、ガラス面の角度によって、ダッシュボードや室内の明るい部分がフロントガラスに映り込むことがあります。
とくに日差しが強い場面では、ガラス面に室内の像が映り込み、前方が見えにくく感じることがあります。

一方、逆スラント型ではガラス面の向きが異なるため、条件によってはこの映り込みが抑えられます。
実際に逆スラント型の艇に乗っていると、視界がすっきり感じられる場面があります。

ボートでは、前方の波、浮遊物、他船、ブイ、漁具などを常に確認する必要があります。
その意味で、視界の確保は単なる快適性ではなく、安全性にも関わる大事な要素です。


利点2:直射日光を室内に取り込みにくい

逆スラント・フロントガラスには、直射日光を室内に取り込みにくいという利点もあります。おかげで、室内が落ち着いた感じになり、目に優しいです。

通常スラント型のフロントガラスは、太陽光を室内へ取り込みやすい。
特に日差しが強い季節や、太陽に向かって走る場面では、操船席まわりが暑くなったり、眩しさを感じたりすることがあります。

逆スラント型では、ガラスの上部が前方に出ているため、直射日光が入りにくく感じる場面があります。
もちろん、実際の日射量は太陽の位置、船の向き、ルーフの張り出し、ガラスの色やUVカット性能などにも左右されます。

それでも、構造上、逆スラント型は室内への日差しを抑えやすい傾向があります。

日光が入りにくければ、操船席まわりの温度上昇を抑えやすくなります。
また、長期的には、内装、計器類、シート、樹脂部品などの紫外線による劣化を抑える効果も期待できます。


利点3:操船席まわりに余裕を感じやすい

もうひとつの利点は、操船席まわりの空間に余裕を感じやすいことです。

通常スラント型では、フロントガラスの上側が後方へ倒れ込むため、操船席の前方や頭上に少し圧迫感が出ることがあります。
特に小型から中型のキャビン艇では、この差が意外と体感に影響します。

一方、逆スラント型では、フロントガラスの上縁が前方へ出ます。
そのため、操船席に座ったとき、前方や頭上に少し余裕を感じやすくなります。

これは数値上の広さだけでなく、心理的な開放感にも関係していると思います。

実際に逆スラント型の船に乗っていると、SARGOやNord Starのような北欧系ビルダー、あるいはDuckworthKingFisherのような北米系の実用艇ビルダーがこの方式を採用する理由は、かなり理解できます。

少なくとも実用的なパイロットハウス型のプレジャーボートでは、視界、日射、居住感の面で、逆スラント型には明確な利点があるように感じます。


逆スラント・フロントガラスの欠点

ただし、逆スラント・フロントガラスが万能というわけではありません。
当然ながら欠点もあります。

読者には、その欠点も理解したうえで、どちらの船を選ぶか考えてもらいたいと思います。

逆スラント型の船を運用している私が気になる欠点は、主に次の三点です。

第一に、風の影響を受けやすいこと。
第二に、ガラスに付着した水滴が走行風で流れにくい傾向があること。
第三に、ワイパーの拭き取り圧で不利になりやすいことです。


欠点1:風の影響を受けやすい可能性がある

逆スラント型は、通常スラント型よりも横風の影響を受けやすいと思います。特にマリーナ内などでの微速航行中のガスティーな風は保針にかなり影響が出ます。

陸上の乗り物、とくに高速で移動する乗り物の多くは、通常スラント型に近いフロントガラスを採用しています。
これは空気の流れを考えると、通常スラント型の方が有利になりやすいからだと考えられます。

ボートでも、フロントガラス回りの空気の流れという観点だけを見れば、一般に通常スラント型の方が有利と考えてよいと思います。

逆スラント型フロントガラスの艇は上部構造が大きくなりやすく、横や斜めの風に対する耐性には若干の不利があるように理屈コネ太郎は感じています。

特に強風時や横風を受ける場面では、キャビンの形状による風の受け方が操船感に影響します。
この点は、逆スラント型の欠点として知っておいた方がよいでしょう。


欠点2:水滴が流れにくい場合がある

ガラスに付着した水滴が走行風で飛ばされにくいことも、逆スラント型の欠点のひとつだと思います。

通常スラント型では、走行風によって、ガラス面の水滴が上方や側方へ押し流されます。
雨やスプレーを受けたあとでも、ある程度の速度が出ていれば、水滴が自然に飛んでいく場面があります。

一方、逆スラント型では、ガラス面に当たる風の向きや角度の関係で、水滴がガラス面に残りやすく感じます。
水滴がガラス面に留まりやすいと、視界確保のためにワイパーへ頼る場面が増えます。

もちろん、これも船速、風向き、雨の強さ、波しぶきの量、ガラスの撥水処理、ワイパー性能によって変わります。
ただ、経験上は、逆スラント型の方がフロントガラスに残る水滴を気にする場面があるように思います。


欠点3:ワイパーの拭き取り圧で不利になりやすい

理屈コネ太郎的に、逆スラント・フロントガラスの大きな弱点だと感じているのが、ワイパーの拭き取り圧です。

通常スラント型では、ガラス外面が上向きの成分を持つため、ワイパーブレードの自重がガラス面への押し付け圧に加わりやすいと考えられます。
つまり、ワイパーアームのバネによる力に加えて、ブレードそのものの重さも、ある程度はガラス面に押し付ける方向に働きます。

一方、逆スラント型では、ワイパーブレードの自重の一部が、ブレードをガラス面から離す方向に働きやすくなります。

同じワイパーアーム、同じブレード、同じバネ圧であれば、逆スラント型の方が拭き取り圧の観点では不利になりやすいと思います。

その結果、ガラスに付着した水滴や塩分を拭き取る場面では、通常スラント型の方が有利に感じられることがあります。

もちろん、実際の拭き取り性能はワイパーの設計次第でも大きく変わります。
アームのバネ圧、ブレード形状、取り付け位置、モーターの力、ウォッシャー液の出方、ガラスの撥水処理などによって、体感はかなり違ってくるはずです。

それでも、構造的な傾向としては、逆スラント型のワイパーには少し不利な条件があるように思います。


逆スラント型はどんな艇に向いているか

逆スラント・フロントガラスは、すべてのプレジャーボートに向いているわけではないと思います。

高速性、スポーティーな見た目、流線形のデザインを重視する艇では、通常スラント型の方が自然に見えることが多いです。
実際、スポーツクルーザーや高速艇では、通常スラント型の方が全体のデザインとよく合います。

一方で、実用的なパイロットハウス型の艇では、逆スラント型の合理性が出やすいと思います。

たとえば、次のような使い方をする艇です。

  • 長時間操船する艇
  • 釣りや移動など実用性を重視する艇
  • キャビン内で過ごす時間が長い艇
  • 視界や日射対策を重視する艇
  • 北方や寒冷地、急な豪雨の少ない地域で使用する艇

こうした用途では、逆スラント型の利点を感じやすいのではないかと思います。


結局、通常スラント型と逆スラント型のどちらが良いのか

では、通常スラント型と逆スラント型のどちらが良いのでしょうか。

これは、船の用途と試用する地域によると思います。

スポーティーな見た目を重視するなら、通常スラント型の方が分かりやすい魅力があります。
また、ワイパーの拭き取りや水滴の流れ方という点でも、通常スラント型の方が扱いやすい場面があるかもしれません。

一方で、実用的なパイロットハウス型のプレジャーボートでは、逆スラント型にもかなりの合理性があります。
前方視界、日射の入りにくさ、室内の開放感という点では、逆スラント型の利点は小さくありません。

とくに、長時間操船する船、予期せぬ豪雨の少ない地域、キャビン内で過ごす時間が長い船では、逆スラント型の良さを感じやすいと思います。

どちらが絶対に優れているという話ではありません。
船の用途、使う海域、操船時間、速度域、雨天時の航行に関する考え方、デザインの好みによって、どちらが適した形状かは変わります。


まとめ

逆スラント・フロントガラスは、見慣れない人には少し独特な形に見えるかもしれません。
しかし、実際に使用してみると、視界、日射、居住感の面で合理性のある形状だと思います。

一方で、横風影響の少なさ、水滴の流れ方、ワイパーの拭き取り圧といった点では、通常スラント型の方が有利に感じられる場面もあります。

逆スラント型にも欠点はありますが、実用的なプレジャーボート、とくにパイロットハウス型の艇においては、使ってみると納得できる利点があります。

少なくとも私にとっては、逆スラント・フロントガラスは、実用面で非常に有用な形状です。

プレジャーボートを選ぶ際には、エンジン、船体サイズ、レイアウト、艤装だけでなく、フロントガラスの角度にも少し注目してみると面白いと思います。

作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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