※本稿は、2026年7月12日時点で確認できる公開情報に基づいています。最新の監査済み通期業績は2025年12月期、最新の四半期業績は未監査の2026年1~3月期です。
Ferretti Groupが業績指標として重視しているのは、主にNet Revenue New Yachtsです。これは中古艇事業を除いた新造艇の売上指標で、2025年の12億3,170万ユーロという数値が該当します。一方、IFRS上の連結売上高には中古艇事業も含まれ、同年は12億8,060万ユーロでした。本稿では両者を区別して記載します。
Contents
7つのブランドを持つイタリアのラグジュアリーヨットグループ
Ferretti Group(フェレッティ・グループ)は、イタリアを代表するラグジュアリーヨット企業グループです。
現在の中核ブランドは、Ferretti Yachts、Riva、Pershing、Itama、CRN、Custom Line、Wallyの7つです。8メートル級のランナバウトやテンダーから、90メートルを超える完全注文建造のスーパーヨットまでを扱っています。
グループはイタリア国内で7つの造船所を運営し、欧州、米国、アジアに直接的な販売・サービス拠点を持っています。ディーラーネットワークを含めると、70カ国以上の顧客を対象とする体制です。
Ferretti GroupとFerretti Yachtsは同じものではありません。Ferretti Groupが上場企業として各ブランドを束ねる企業体であるのに対し、Ferretti Yachtsはその中の一ブランドです。
また、Ferretti Groupは2022年に香港証券取引所へ上場し、2023年にはEuronext Milanにも上場しました。アジアと欧州の二つの市場に上場する一方、最大株主は中国・山東省の政府系企業グループにつながっています。2026年にはチェコのKKCG Maritimeが大株主となり、資本構成と経営体制に大きな変化が生じました。
発祥は米国製ボートの販売会社
Ferrettiの歴史は、1968年にFerretti兄弟が米国のボートメーカー、Chris-Craftのイタリア代理店となったことから始まります。
当初の会社名はFerretti Nauticaで、自社でボートを建造する会社ではなく、米国製モーターボートをイタリアで販売するディストリビューターでした。
1971年には、帆とエンジンを備えた全長10メートルの木造モーターセーラーを初めて自社建造しました。1982年には帆を持たない本格的なモーターヨットを発表し、オープン艇、フライブリッジ艇、スポーツフィッシャーマンなどへ製品を広げていきます。
1989年には、新素材の研究やシリーズ艇の設計を担当するEngineering Departmentを設置しました。
同時期にはオフショアパワーボートレースにも参戦し、1994年から1997年にかけて欧州選手権やClass 1 World Offshore Championshipで勝利しました。レースで得た船体、推進、流体力学、軽量化の知見を市販艇へ移すことが、Ferrettiの技術開発モデルとなりました。
1993年にはFerretti of Americaを設立し、米国、カナダ、メキシコ、ベネズエラ、カリブ海地域への販売を本格化しています。
1990年代後半から始まったブランドの集約
現在のFerretti Groupにつながる大きな転換点は、1990年代後半に始まった買収戦略です。
Ferrettiは単一ブランドの製品を大型化するだけではなく、それぞれ異なる歴史、設計思想、顧客層を持つ造船所を取得し、ブランド・ポートフォリオを構築しました。
1996年には、大型FRP艇をオーナーごとに個別化するCustom Lineを立ち上げました。1998年には高速スポーツヨットのPershing、1999年には大型スーパーヨット造船所のCRN、2000年には歴史的ブランドのRivaを取得しました。
2001年にはMochi Craft、2004年にはオープンモーターヨットのItama、2008年には米国で新艇・中古艇販売、仲介、アフターサービスを行うAllied Marineを取得しています。
Mochi CraftはFerretti Groupの歴史上重要な買収ブランドですが、2026年時点でグループが公式に掲げる7つの中核ブランドには含まれていません。現在の主力構成は、Ferretti Yachts、Riva、Pershing、Itama、CRN、Custom Line、Wallyです。
2012年の資本再編とWeichai Groupの参加
2012年には、Ferretti Groupの所有構造が大きく変わりました。
中国の産業機械・自動車関連グループであるWeichai Groupが、Ferretti Groupの株式75%を取得しました。これにより、Ferretti Groupは中国系産業資本の支援を受けながら、製品開発、生産設備、大型艇事業への投資を再開しました。
ただし、2012年当時の75%という持分は現在の株主構成ではありません。その後の香港上場、ミラノ上場、株式売却、公開買付けなどを経て、Weichai系の持株会社であるFerretti International Holdingの保有比率は、2026年4月時点で約39.5%まで低下しています。
2016年には、警備、哨戒、捜索救難などを目的とした高速艇を開発するFerretti Security Divisionを設立しました。
2019年には、Luca Bassaniが創業したセーリングヨット・モーターヨットブランドのWallyを取得しました。当初、FerrettiはWallyの商標を所有するSea Lionの75%を取得し、2025年7月に残る25%も買い取っています。これにより、Wallyブランドに対するFerretti Groupの持分は100%となりました。
上場とサプライチェーンの内部化
2022年3月、Ferretti S.p.A.は香港証券取引所へ上場しました。2023年6月にはEuronext Milanにも上場し、アジアと欧州の両方に上場する企業となりました。
同時に、グループは造船に必要な高付加価値工程の内部化を進めています。
2022年には、船内家具や木工部品を製造するMasselloと、船内の可動機構や艤装部品を扱うFratelli Canalicchioの過半数持分を取得しました。Ferretti Groupは、外部サプライヤーへの依存を減らし、品質、納期、原価、設計変更への対応力を高めることを狙っています。
2025年4月にはIl Masselloの残る15%を取得し、100%子会社化しました。同社は同年末に木工・内装会社Zagoへ吸収合併され、会計・税務上は2026年1月1日から統合されています。
Ferretti Groupの統合戦略は、買収したブランドを一つの名称にまとめる方式ではありません。
Riva、Pershing、Itama、Wallyなどの名称とデザイン思想は維持しながら、Engineering Department、商品戦略、購買、造船所、部品供給、販売、アフターサービス、中古艇、チャーター、リフィットなどを共通の企業基盤で支える構造です。
表側ではブランドを分離し、後方では工業・技術・販売機能を統合することが、Ferretti Groupの基本モデルです。
Ferretti Yachts――居住性を重視するグループの中核ブランド
Ferretti Yachtsは、フライブリッジ型モーターヨットを中心とするグループの中核ブランドです。
高速性能を前面に出すPershingや、クラシックな造形を重視するRivaと比べると、Ferretti Yachtsは長時間の滞在、船内外の連続性、住宅に近い居住性を重視しています。
近年の象徴が、長距離航海型の要素を取り入れたINFYNITOシリーズです。
INFYNITO 90では、船首部分に屋根で保護された「All-Season Terrace」を配置し、航行中、停泊中、悪天候時にも利用しやすい空間としています。複数のメインデッキ、ロワーデッキ、内装仕様を用意し、オーナーごとの使い方に応じて変更できます。
INFYNITOには、リチウムイオンバッテリーによって停泊中の船内電力を供給するHotel Mode、太陽光発電、環境負荷を抑えた塗料、チーク、再生素材などが採用されています。
これらは主機を完全に置き換える電動ヨットという意味ではありません。停泊中の発電機使用、騒音、振動、局所排出を減らすことを含め、船全体のエネルギー使用を改善する設計です。
Riva――木造ランナバウトの伝統を54メートル級まで拡張
Rivaは1842年創業の歴史を持つブランドです。2000年にFerretti Groupへ加わりました。
磨き上げられたマホガニー、ステンレス部品、アクアマリンのアクセント、低く流れる船体ラインなどが、Rivaを識別する代表的な要素です。
現在の製品は、小型ランナバウト、オープン艇、SportFly、フライブリッジ艇から大型アルミニウム製スーパーヨットまで広がっています。
小型艇では、全長8.40メートルのEl-IseoがRiva初の完全電動モデルです。伝統的なマホガニーとステンレスの意匠を残しながら、推進装置を電動化しています。
大型艇では、2026年に発表されたRiva 54Metriが、建造されたRivaとして過去最大です。全長54.83メートル、アルミニウム製、500GT未満で、ランナバウト時代に確立された造形言語を大型スーパーヨットへ拡張しています。
Pershing――高速性能と居住空間を両立するスポーツヨット
Pershingは、高速スポーツヨットを担当するブランドです。Ferretti Groupには1998年に加わりました。
現在は、速度と低いシルエットを重視するX Generation、居住性と大型デッキを広げたGTXシリーズ、43メートル級のPershing 140を展開しています。
従来のPershingは、強力なエンジン、ウォータージェットや高性能推進装置、流線的な船体による速度性能を強く打ち出してきました。
一方、GTXシリーズでは「Sport Utility Yacht」という考え方を採用しています。高速性能を維持しながら、船尾のビーチエリア、屋外デッキ、室内空間を拡大し、滞在型クルーザーとしての性格を強めています。
例えばPershing GTX70は、全長21.76メートルの船体に3基のVolvo Penta IPSを搭載し、メーカー公表値では最高速度36ノット、巡航速度30ノットです。開閉式の船尾ウイングによって、同クラスとして大きなビーチエリアを作れる構成になっています。
2026年7月には、GTX116、GTX80、GTX70の間を埋めるPershing GTX90の第1号艇も進水しました。Pershingは、純粋な高速艇から、高速性能と居住性を組み合わせるブランドへ製品範囲を広げています。
Itama――地中海型オープンヨットの純粋な形
Itamaは、低い船体、長い船首、オープンコックピット、ラップアラウンド型ウインドスクリーンを特徴とするブランドです。Ferretti Groupは2004年にItamaを取得しました。
大型の上部構造やフライブリッジを設けるのではなく、海面との距離が近いオープン艇として設計されています。青または白を基調とした船体、細長いプロポーション、深いV型船体が、Itamaの伝統的な要素です。
代表的なItama 62RSは全長19.03メートルで、3キャビンを備えています。メーカー公表値では、最高速度40ノット、巡航速度37ノットです。深いV型船体によって、高速域での方向安定性と荒天時の乗り心地を確保する設計です。
Itamaは、Ferretti Groupの中では比較的狭い商品領域を担当しています。しかし、フライブリッジ、クロスオーバー、スーパーヨットへ安易に広げず、地中海型オープンヨットという明確な役割を維持しています。
Custom Line――共通プラットフォームを個別化する大型艇
Custom Lineは、1996年にFerretti Groupが立ち上げたメイド・トゥ・メジャー型のブランドです。
船体、推進装置、主要構造、技術システムには実績のあるモデル別プラットフォームを使用しながら、室内配置、素材、家具、照明、装飾、デッキの使い方などをオーナーごとに変更します。
製品は、高速滑走型のSaetta Line、居住性と航海時の快適性を重視するNavetta Line、アルミニウム製船体を使用する大型艇に分かれています。
Saettaは、スポーティーな外観、滑走型船体、速度性能を特徴とします。Saetta 128は全長39.80メートル、300GT未満の滑走型トライデッキで、大型ガラス面、複数のテラス、広い船内外空間を持っています。
Navettaはディスプレースメントまたはセミディスプレースメント型で、速力よりも船内容積、静粛性、長期滞在、航行時の快適性を重視します。
各艇の個別仕様は、社内の建築家やデザイナーで構成されるCustom Line Atelierが、外部デザイナー、プロジェクト管理、造船所、職人と連携して決定します。
CRN――白紙から設計する完全注文建造
CRNは、1963年に設立されたスーパーヨット造船所で、1999年にFerretti Groupへ加わりました。
Custom Lineとの違いは、既存モデルの個別化ではなく、オーナーの要望を起点に白紙から設計するpure custom方式を基本としていることです。
船体、外観、室内配置、技術仕様、素材、航続距離、テンダーやヘリコプターの搭載方法まで、オーナーごとの用途に合わせて構築します。
主に鋼製船体とアルミニウム製上部構造を使う大型ヨットを、Ancona Super Yacht Yardで建造しています。Ferretti GroupにとってCRNは、既存のシリーズや船体プラットフォームでは対応できない、最大級かつ最も個別性の高いプロジェクトを担当するブランドです。
Wally――カーボン、帆走、前衛的デザイン
Wallyは、Luca Bassaniが1994年に創業したブランドです。
セーリングヨットとモーターヨットの両方を手掛け、カーボンコンポジット、低い上部構造、フラッシュデッキ、機能を優先したミニマルな造形を特徴としています。
Wallyは、大型セーリングヨットにカーボン構造やボタン操作式のセールシステムを早期に導入しました。セール操作を船尾側へ集約し、ゲストエリアと操船エリアを分けることで、大型艇でも少人数で扱いやすい構成を追求しています。
代表的なwallywind110は、全長33.42メートルで、カーボンコンポジット製の船体と高弾性カーボン製リグを採用しています。広いゲスト用コックピットにはセール操作機器を置かず、操船装置を船尾側へ集中させることで、レース性能、クルージング性能、少人数での操作性を組み合わせています。
Ferretti Groupの中でWallyは、セーリングヨットと前衛的なモーターヨットを担当するだけでなく、カーボン構造、船上空間、推進効率、新しいデザインを試す技術先行型ブランドとして機能しています。
統合化の本質――商品を統一せず、技術と生産を統合
Ferretti Groupの統合は、すべての艇を同じ設計にすることではありません。
Rivaのマホガニーとクラシックな造形、Pershingの高速性能、Itamaのオープン構造、Wallyのカーボン技術、Custom Lineのセミカスタム、CRNの完全注文建造は、それぞれ明確に分けられています。
その一方で、各ブランドはグループのEngineering Department、Product Strategy、購買、生産設備、品質管理、販売、金融、アフターサービスなどを利用しています。
例えば、Riva 54Metri、Pershing 140、Custom Line 50、CRNの完全注文艇はブランドが異なりますが、大型金属船を扱うAnconaの生産・技術基盤を共有できます。RavennaではFRP船体の成形、塗装、組立を統合した生産システムが導入され、WallyのwallywhyシリーズやFerretti YachtsのINFYNITOなどが建造されています。
Ferretti Groupは、販売後の顧客接点も統合しています。新艇販売に加え、中古艇仲介、チャーター、艇の管理、アフターサービス、リフィット、Riva関連商品の販売、ラウンジなどのブランド拡張を行っています。
この体制によって、艇の販売時だけでなく、所有、運航、売却、次の艇への買い替えまで、顧客との関係を維持できる構造になっています。
資本関係――Weichai系が最大株主ですが、過半数は持っていません
Ferretti S.p.A.の発行済み株式数は3億3,848万2,654株です。すべて普通株式で、1株につき1議決権があります。複数議決権株式はありません。
2026年4月時点の主要な株主構成は、次のように整理できます。
最大株主のFerretti International Holding(FIH)は1億3,380万5,907株、39.531%を保有しています。
チェコのKKCG Maritimeが使用する法人Azúr a.s.は7,864万1,625株、23.2336%を保有しています。
クウェートの投資家Bader Nasser Al-Kharafiは1,692万5,293株、5.0003%を保有しています。
これらを単純に差し引くと、その他の株主は約32.24%です。ただし、これは各時点の大株主開示を基にした計算値であり、日々の厳密なフリーフロート比率を示すものではありません。
FIHはWeichai Holding Group Hong Kong Investmentの完全子会社で、その上にはWeichai Holding Group、Shandong Heavy Industry Groupがあります。
Shandong Heavy Industry Groupの所有構造は、山東省の国有資産監督管理委員会が70%、同委員会傘下のShandong Development & Investment Holdingが20%、山東省財政部門傘下のShandong Caixin Asset Managementが10%です。
したがって、FIHのFerretti株式は、最終的には中国・山東省の政府系資本につながっています。
ただし、FIHの保有比率は約39.5%であり、株式の過半数を持つ単独支配株主ではありません。現在のFerretti Groupを単純に「Weichaiの100%子会社」や「中国企業の完全子会社」と表現するのは正確ではありません。
KKCG Maritimeによる公開買付け
2026年1月、KKCG MaritimeはFerretti株式の最大15.4%を取得する条件付き部分公開買付けを発表しました。
当初の買付価格は1株3.50ユーロでしたが、後に3.90ユーロへ引き上げられました。2026年4月13日の受付終了までに応募されたのは2,961万1,598株で、発行済み株式の約8.748%でした。
KKCG Maritimeは応募された全株式を約1億1,549万ユーロで取得し、既存分と合わせた保有比率を23.2336%へ引き上げました。
Al-Kharafiは、KKCGが提出した取締役候補者名簿に自身を加え、2026年5月の株主総会でKKCG側の候補者に投票する意向を表明しました。
ただし、両者の合意文書は保有株式そのものを拘束する株主間契約ではなく、いずれかの当事者へFerrettiの支配権を与えるものではないと開示されています。
2026年5月の経営体制変更
2026年5月14日の株主総会では、FIHが提出した取締役候補者名簿が、投じられた票の過半数を獲得しました。
9人の取締役のうち8人がFIHの名簿から選任され、KKCG側からはKatarína Kohlmayerが1人選任されました。
会長にはTan Ningが就任しました。約12年間CEOを務めたAlberto Galassiは株主総会終了時に退任し、2026年5月15日付でStassi Anastassovが新CEOへ就任しています。
現在の取締役会は、Tan Ning会長とStassi Anastassov CEOの執行取締役2人、非執行取締役3人、独立非執行取締役4人で構成されています。
FIHとKKCG Maritimeの対立は、通常の大株主間の経営権争いに、資本配分と事業戦略の相違、中国の党国家体制に連なる国有資本への制度的警戒、イタリアの産業主権と経済安全保障上の問題が重なったガバナンス紛争です。
株主総会決議を巡る訴訟
2026年6月9日、KKCG MaritimeのAzúrは、5月14日の株主総会決議を巡ってFerrettiをボローニャ裁判所へ提訴しました。
対象は、新しい取締役会の選任、取締役数の決定、監査役会の選任などです。Azúrは決議の無効または取消しを求めるとともに、決議の効力を暫定的に停止する措置も申し立てています。
KKCG側は、FIHの議決権がイタリアのGolden Power制度との関係で停止されるべきだったと主張しています。また、一部の中国系株主がFIHと協調して行動した可能性や、株主関係の開示についても疑義を示しています。
イタリア政府も、中国系投資家によるFerretti株式の取得や届出が、Golden Power上の義務に抵触していないかを調べています。ただし、調査が行われていることと、違反が認定されたことは同じではありません。
Ferrettiは、自社の手続きの正当性を裁判で主張するとしています。また、取締役会と監査機関は引き続き職務を遂行しており、顧客対応、生産、販売、戦略プロジェクトに影響はないと説明しています。
2026年7月12日時点で、裁判所による本案判断または暫定措置の最終決定は確認できません。
したがって、現在の会長とCEO、取締役会は業務を継続していますが、株主総会決議と取締役会選任の法的有効性を巡る争いは未解決です。
現在の経営状況――2025年は増収増益
2025年12月期のIFRS上の連結売上高は、前年から3.2%増の12億8,060万ユーロでした。
中古艇事業を除くNet Revenue New Yachtsは、5.0%増の12億3,170万ユーロです。
調整後EBITDAは6.7%増の2億280万ユーロ、調整後EBITDAマージンは前年から0.3ポイント上昇して16.5%となりました。
純利益は2.2%増の9,010万ユーロです。2025年末の連結ネット・キャッシュは1億1,100万ユーロでした。
2025年の新造艇引き渡し数は225隻で、前年の224隻からほぼ横ばいでした。
隻数がほとんど増えていない一方で、新造艇売上と利益が増加したことは、より大型で価格の高い艇の構成比が上昇したことを示しています。
大型艇への製品構成の移行
2025年の新造艇売上を部門別に見ると、30メートル未満のComposite Yachtsは4億8,580万ユーロで、前年から11.4%減少しました。
一方、30~43メートルのMade-to-measure Yachtsは18.4%増の4億9,460万ユーロ、43メートル超の金属製Super Yachtsは28.1%増の1億9,030万ユーロでした。その他事業は3.7%増の6,100万ユーロです。
この数字からは、Ferretti Groupの成長の中心が、小型・中型のシリーズ艇から、Custom Line、Riva、Pershingなどの大型メイド・トゥ・メジャー艇と、CRNを含む金属製スーパーヨットへ移っていることが分かります。
Composite Yachtsは新造艇売上の39.4%、Made-to-measure Yachtsは40.2%、Super Yachtsは15.5%でした。2024年にはComposite Yachtsが46.7%を占めていたため、1年間で製品構成が明確に大型艇側へ移動しています。
地域別では、欧州の新造艇売上が8.9%減少した一方、中東・アフリカは38.2%増、北中南米は10.1%増となりました。アジア太平洋地域は約48%減少しています。
受注残は17億ユーロを超えています
2025年の受注額は11億3,660万ユーロで、前年とほぼ同じ水準でした。
ただし、内容には大きな違いがあります。Made-to-measure Yachtsの受注額は46.7%増の6億810万ユーロでしたが、Super Yachtsは前年の2億9,490万ユーロから6,610万ユーロへ減少しました。
大型スーパーヨットは1隻あたりの契約金額が大きく、契約時期によって年ごとの受注額が大きく変動します。2025年は2隻のブランド型スーパーヨットが受注されたのに対し、2024年には完全注文建造2隻とブランド型3隻が含まれていました。
2025年末のOrder Backlogは17億1,570万ユーロで、前年末から3.1%増加しました。
一方、すでに会計上認識した売上を差し引いたNet Backlogは8億2,860万ユーロです。Order BacklogとNet Backlogは定義が異なるため、両者を同じ受注残として比較することはできません。
Order Backlogのうち、Made-to-measure Yachtsは7億3,270万ユーロ、Super Yachtsは7億210万ユーロでした。両部門だけで全体の約84%を占めています。
受注残の構成も、売上と同様に大型艇中心へ移っています。
生産設備と新型艇への投資
2025年の設備投資額は8,920万ユーロでした。
このうち約3,080万ユーロが生産設備の維持と商品ポートフォリオの更新、約5,840万ユーロが事業拡張に使われました。投資額の半分以上は、新型艇開発、既存モデルの改良、研究開発に振り向けられ、一部はRavenna造船所の完成に使われています。
2026年に入ってからも、Riva 54Metri、Pershing GTX90などの新型艇が進水しています。AnconaではCRNの完全注文艇、Custom LineのNavetta、Saetta、アルミニウム製大型艇など複数のプロジェクトが進行しています。
2026年1~3月期――売上と受注は減少
2026年1~3月期のNet Revenue New Yachtsは3億210万ユーロで、前年同期から8.0%減少しました。
調整後EBITDAは7.2%減の4,870万ユーロ、純利益は12.1%減の2,100万ユーロです。
一方、調整後EBITDAマージンは前年同期の16.0%から16.1%へわずかに上昇しました。
売上高は減りましたが、Made-to-measureとSuper Yachtsの構成比、コスト管理によって利益率は維持されています。
部門別では、Composite Yachtsが13.4%減、Made-to-measure Yachtsが12.2%減となった一方、Super Yachtsは19.9%増加しました。
地域別では欧州が3.4%増、アジア太平洋が152.6%増となりましたが、中東・アフリカは16.4%減、北中南米は26.7%減少しました。アジア太平洋の増加率は大きいものの、売上額は1,440万ユーロであり、グループ全体に占める比率は4.8%です。
受注額とキャッシュの減少
2026年1~3月期の受注額は1億7,960万ユーロで、前年同期の2億7,060万ユーロから約33.6%減少しました。
会社は、中東の地政学的緊張によって、契約締結と艇の引き渡しが遅れたことを主な理由として挙げています。
2026年3月末のOrder Backlogは17億1,790万ユーロで、2025年末の17億1,570万ユーロとほぼ同じ水準でした。
一方、Net Backlogは8億2,860万ユーロから7億2,230万ユーロへ減少しました。このうち約4億7,000万ユーロが2026年中に売上へ転換する見込みとされています。
ネット・キャッシュは、2025年末の1億1,100万ユーロから、2026年3月末には1,840万ユーロへ減少しました。
会社は、受注減少に伴う前受金の減少、中東向け引き渡しの延期による最終代金回収の遅れ、欧州のボートシーズンに向けた生産増加、販売用Composite Yachtsの在庫積み増しなどを理由として説明しています。
ネット・キャッシュは大きく減少しましたが、2026年3月末時点でもネット・デットではなく、現金超過を維持しています。
2026年の業績目標
Ferretti Groupは2026年について、Net Revenue New Yachtsを12億5,000万~12億6,500万ユーロとする目標を示しています。
調整後EBITDAは2億300万~2億1,000万ユーロ、調整後EBITDAマージンは16.2~16.6%、設備投資額は7,000万~7,500万ユーロを想定しています。
目標の下限でも新造艇売上は2025年を上回りますが、増収率は1.5%程度です。2025年までのような高い成長よりも、利益率の維持、大型艇への構成転換、受注済み艇の確実な引き渡しを重視した計画といえます。
現在の経営状態をどう評価できるか
2025年の監査済み決算を見る限り、Ferretti Groupの財務状態は安定しています。
新造艇売上、調整後EBITDA、純利益が増加し、年末には1億1,100万ユーロのネット・キャッシュを確保していました。調整後EBITDAマージンも16.5%に上昇しています。
また、2025年末から2026年3月末にかけて、Order Backlogは約17億1,700万ユーロを維持しました。Made-to-measureとSuper Yachtsが受注残の大部分を占めているため、中期的な生産の見通しは一定程度確保されています。
一方、2026年1~3月期には、売上高、受注額、純利益、ネット・キャッシュが減少しました。特に受注額は前年同期から約3分の1減少しています。
ただし、調整後EBITDAマージンは維持され、Order Backlogも2025年末とほぼ同じです。現時点では、収益構造の急激な悪化や資金繰り危機を示す状況というより、契約と引き渡しの時期が後ろへずれ、運転資本負担が一時的に増えた状態と見るのが適切です。
経営上の不確実性としては、短期的な受注回復だけでなく、FIHとKKCG Maritimeの株主間対立、株主総会決議を巡る裁判、2026年5月に発足した新経営陣による戦略の継続性があります。
この対立は、経営陣や取締役の人選に限られません。余剰資金の配分、M&A、垂直統合、株主還元、Security Divisionの扱い、重要技術や顧客情報の管理、Golden Powerへの対応などに影響する可能性があります。
裁判によって現在の業務が停止しているわけではありませんが、取締役会の選任自体が争われているため、ガバナンス面では通常よりも不確実性が高い状態です。
総評
Ferretti Groupは、1968年に米国製ボートを販売する小規模な会社として始まりました。
1970年代から自社建造へ移り、1980年代にはモーターヨットメーカーとして成長しました。1990年代後半からはCustom Line、Pershing、CRN、Riva、Itamaなどを短期間に集約し、2019年にはWallyも加えました。
現在の競争力は、単一のブランドや船型に依存していないことにあります。
Ferretti Yachtsは居住型フライブリッジとINFYNITO、Rivaは伝統的なランナバウトから大型スーパーヨット、Pershingは高速スポーツヨット、Itamaは地中海型オープン艇、Custom Lineはプラットフォームを利用したメイド・トゥ・メジャー艇、CRNは完全注文建造、Wallyはカーボン製セーリングヨットと前衛的モーターヨットを担当しています。
これらのブランドを同じ商品へ統一するのではなく、共通のEngineering Department、商品戦略、生産設備、サプライチェーン、販売網、アフターサービスで支えることが、Ferretti Groupの統合モデルです。
資本面では、中国・山東省の政府系資本につながるFIHが約39.5%を持つ最大株主です。しかし、FIHは株式の過半数を保有していません。KKCG Maritimeが約23.2%、Al-Kharafiが約5.0%を保有し、残りを市場の株主などが持つ上場企業です。
2025年の業績は、売上と利益が伸び、ネット・キャッシュを維持した堅調な内容でした。2026年1~3月期には受注、売上、キャッシュが減少しましたが、利益率と総受注残は維持されています。
現在のFerretti Groupを最も正確に表現するなら、大型艇への製品構成転換によって収益性を維持している一方、短期的な受注の鈍化と、産業主権・経済安全保障上の要素を帯びた主要株主間のガバナンス紛争を抱えるラグジュアリーヨットグループです。
Reuters
Reuters
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