なぜ医者は話が通じないのか|患者と医師がズレる本当の理由

医者は何故いつもズレている?
医者は何故いつもズレている?

医者と話していると、どこか話が噛み合わないと感じたことはないでしょうか。

こちらは体調の不安や原因を説明しているのに、医者は検査や数値の話ばかりする。
「この医者、なんだかズレている」と感じた経験を持つ人は少なくありません。

しかし実は、これは医者個人の性格の問題ではありません。
患者と医師は、そもそも違う視点から医療を見ているのです。

さらにそこには、もう一つ重要な視点が存在します。
それが、日本の医療提供体制という第三の立場です。

本記事では、患者と医師がなぜ互いにズレて見えるのかを、医療社会学者
Eliot Freidson
が提示した「対立する視点(conflicting perspectives)」という概念を手がかりに整理してみます。


Contents

患者から見ると医者はなぜズレているのか

患者が医療機関を受診する理由は、多くの場合とても単純です。

体調が悪い。
心配な症状がある。
自分なりに原因を考えてみたが不安が残る。

つまり患者は、自分の体験や不安を中心に医療を見ています。

しかし医者が関心を持つのは、患者の体内で起きている生物学的な事象です。

症状の原因は何か。
どの臓器に問題があるのか。
どんな病態が起きているのか。

この視点の違いが、患者から見ると「医者はズレている」という感覚を生みます。


医者から見ると患者もズレている

このズレは、実は逆方向にも存在します。

医者の側から見ると、患者の話はしばしば医学的に重要ではない情報で満ちています。

「昨日から急に痛くなった」
「風邪を引いたと思う」
「ストレスが原因かもしれない」

患者にとっては重要な情報ですが、医学的には必ずしも診断の決め手にはなりません。

医者は症状・身体所見・検査結果から病態を推定します。
そのため患者の主観的な原因分析には強い関心を持たないことが多いのです。

つまり、医者の視点から見ても患者は少しズレているように見えます。


医療社会学が指摘した「対立する視点」

患者と医師が互いにズレて見える現象は、かなり以前から指摘されています。

医療社会学者
Eliot Freidson
は1970年前後に、この関係を

「対立する視点(conflicting perspectives)」

と表現しました。

二人の人間が出会い、何か共同作業を行えば、立場の違いから利害や関心がずれるのは当然です。

これは医療だけの話ではありません。

親友同士でも意見は衝突します。
夫婦間でも利害の衝突は起きます。

患者と医師の関係でも同じことが起きているのです。


患者と医師の間にある第三の立場

しかし患者と医師の関係をややこしくしているのは、もう一つ別の要因です。

それは第三の立場の存在です。

患者と医師は本来一対一の関係のように見えます。
しかし実際には、その背後にもう一つの主体が存在します。

それが医療提供体制です。


医療提供体制とは何か

医療提供体制とは、簡単に言えば

社会全体として医療を成立させる仕組み

のことです。

具体的には次のような要素が含まれます。

  • 医師や医療職を養成する教育制度

  • 臨床研修などの技能習得の仕組み

  • 医療機関という現場

  • 健康保険などの医療費の仕組み

医学部・歯学部・薬学部などの教育課程。
研修病院での臨床研修。
各医療機関での診療。
そして健康保険制度。

これらをまとめて医療提供体制と呼びます。


日本の医療制度は国家事業である

これらの制度は、基本的に国家レベルで設計されています。

医師数
病床数
診療報酬
健康保険料
窓口負担率

こうした重要な要素は、国やそれに近い機関が決定しています。

つまり医療は、かなり大きな意味で国家事業なのです。


日本の医療制度は比較的よくできている

世界を見回すと、日本の医療制度は比較的よくできている仕組みだと思います。

例えばアメリカでは、高収入の医師であっても、重い病気になれば治療費が非常に高額になり、支払いに苦しむことがあります。

しかし日本では、心臓弁膜症のような病気でも治療費が支払えずに治療を受けられないという事態はあまり起きません。

日本には

  • 公的健康保険

  • 生活保護制度

  • 高額療養費制度

といった仕組みがあるためです。

差額ベッド代などを除けば、多くの人が医療を受けられる制度になっています。


医療現場を縛る膨大なルール

しかしこの医療制度を維持するために、国は多くのルールを設けています。

医療法
医師法
診療報酬制度
療養担当規則

こうした医療関係のルールは非常に多く、しかも複雑です。

医療機関の設立条件から、使える薬の種類や量、検査の回数まで細かく決められています。

普通の人が直感的に理解できる内容ではありません。

感覚的には、労働法と税法を掛け合わせたような複雑さがあります。


ルールを守りながら診療する医療現場

現場の医療従事者は、この複雑なルールの中で診療を成立させています。

検査
処方
診療の進め方

これらすべてが制度のルールの中で行われています。

医者は患者だけを見ているのではありません。
同時に、医療制度のルールとも向き合っているのです。


患者と医師がズレて見える本当の理由

ここまでの話を整理すると、ズレの原因は三つあります。

  1. 患者と医師の視点の違い

  2. 医療社会学が指摘した「対立する視点」

  3. 医療制度という第三の立場の存在

二人の人間がもともと違う視点を持っています。
そこに医療制度という大きな枠組みが加わるのです。

ズレが生じるのは、ある意味で当然とも言えます。


医者を見るときの一つの視点

この関係をイメージしやすくする例があります。

実家の影響を強く受けている配偶者のようなものです。

あなたと配偶者は本来一対一の関係です。
しかし配偶者は実家の影響を受けています。

そのため、ときどき理解しにくい行動を取ることがあります。

医者と患者の関係も、少し似ています。

医者は患者と向き合っていますが、同時に医療制度という大きな枠組みの中で行動しています。

そのことを少し意識すると、医者の振る舞いが以前より理解しやすくなるかもしれません。


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