サーフィンとブローチングの違い ☆ 波の力を制御できるかどうか

プレジャーボート乗りやセイラーにとって、ブローチングは恐ろしい現象です。

一方、サーファーは自ら波を求め、その力を使って遊びます。

船乗りが恐れる波の力を、サーファーは楽しんでいる。

理屈コネ太郎は、かつてヘッポコサーファーだったので、ガチのプレジャーボート乗りになってからは、この2つはずいぶん似ていると思っていました。

ところが、両者はそれぞれ別の分野で語られています。

サーフィンはサーフィンとして研究され、教えられ、経験が蓄積されています。

ブローチングは船舶工学や操船の世界で研究され、船乗りが警戒すべき現象として扱われています。

それぞれの分野だけで知識が完結するため、2つを同じ座標軸に置いて考える機会は多くありません。

しかし、波、波長、波高、サーフボード、舟艇、波面上での加速、姿勢や方向の制御という要素に分解すると、サーフィンとブローチングには多くの共通した構造が見えてきます。

その共通した構造を理解すると、

プレジャーボート乗りがブローチングをどのように恐れればよいのか

も見えやすくなります。

ブローチングを、ただ漠然と怖い現象として覚えるのではなく、どのような条件が重なり、舟艇がどのような状態へ入り、どこでコントロールが破綻するのかを考える。

本記事では、サーフィンとの比較を通じて、そのための1つの考え方を整理してみます。

本記事の対象は、主としてプレジャーボートが追い波・斜め追い波でsurf-ridingし、そこからbroaching-toへ移行するケースです。broachingには帆走中の強い風などによって生じるものもありますが、サーフィンと構造比較するにはsurf-ridingからbroaching-toへ至るケースが最も分かりやすいからです。

また、ブローチングは転覆につながり得る危険な現象です。以下の数値は、危険を構成する条件を理解するための目安として扱います。実際の挙動は海況、艇種、船体形状、重量、艇速などによって変わります。

1.ブローチングとは何か

本記事で扱うbroaching-toとは、追い波や斜め追い波の中で舟艇が急激に意図しない方向へ回頭し、最大限に操舵しても予定した針路を維持できなくなる現象です。

激しい回頭に伴って船体が大きく傾き、転覆につながることもあります。

ブローチングの中心にあるのは、

操舵能力を超えて発生する急激な回頭

です。

IMOの2008 IS Codeでも、追い波・斜め追い波の中で、最大限の操舵努力を行っても一定針路を維持できなくなる現象がbroachingとして扱われています。(wwwcdn.imo.org)

そして、本記事で重要な言葉が surf-riding(サーフライディング) です。

2.船も波に乗る|surf-riding

追い波や斜め追い波の中で舟艇が高い波の前面に位置すると、波によって前方へ加速されることがあります。

艇速が波の進行速度に近づき、舟艇がその波と一緒に走るような状態になることがあります。

これが船舶工学でいうsurf-ridingです。

IMOも、追い波・斜め追い波で船が高い波の急な前面に位置し、波によって加速されて波に乗る状態をsurf-ridingと呼び、そこからbroaching-toが発生し得ると説明しています。(wwwcdn.imo.org)

ここでサーフィンと並べてみます。

サーファーも波の前面に乗ります。

舟艇もsurf-ridingでは波の前面に乗ります。

どちらも波面上で前方へ加速します。

この段階までを見ると、2つの現象にはすでにかなり似た構造があります。

3.波の前面という「動く斜面」

サーフィンやsurf-ridingは、「後方から来た波に押される」と表現すると直感的に理解しやすい現象です。

さらに構造を分解すると、波の前面という動く斜面に乗ることが重要だと分かります。

サーファーが波をキャッチすると、サーフボードは波頂から谷へ向かう斜面に位置します。

そこでは重力が鉛直下向きに働き、ボードには浮力や流体力も働きます。その組み合わせによってサーファーは波の前面を下る方向へ加速します。サーフィンでは、波面を下ることで位置エネルギーを運動エネルギーへ変え、再び波面を上がることで逆の交換も行われています。(annex.exploratorium.edu)

舟艇の場合も、波の前面では船体に働く波浪による前後方向の力、浮力、重力、推進力、抵抗などの関係によって艇速が変化します。追い波による前後方向の力が十分に大きくなれば、艇は波速へ近づき、surf-ridingへ入ることがあります。(sciencedirect.com)

つまり両者には、

波の前面に位置する
→ 波面上で力を受ける
→ 前方へ加速する

という共通した構造があります。

4.波長と乗り物の長さ

もう1つ共通しているのが、波長と乗り物の長さとの関係です。

通常の海のサーフィンでは、波長はサーフボード長より十分に長くなります。

1枚のボードが1つの波の前面に乗り、その斜面を使って滑るためには、ボード全体から見て水面を1つの連続した波面として利用できるだけの長さが必要です。

極端な例として、2mのボードに対して波長が1mなら、ボードの下に波の山と谷が同時に存在するような状態になります。

サーフィンでは、

ボード全体を1つの波面に置けるだけの波長

が、波乗りを成立させる重要な条件になります。

舟艇でも、波長と艇長の関係はsurf-ridingやbroachingを考える重要な因子です。

IMOの第2世代非損傷時復原性基準に基づくsurf-riding/broachingの評価では、波長/船長比を1.0~3.0の範囲で評価します。船舶工学の研究でも、surf-ridingが成立する代表的な条件として、波長が船長のおおむね1~3倍、波が十分に急峻で、船速が波速へ近づくことが挙げられています。(imorules.com)

1981年に行われた小型高速艇の模型実験では、特に波長/艇長比が2.0付近、波向が船尾方向から20~30°程度、艇速の波方向成分が波速に近い条件でbroaching-toが起こりやすい結果も得られています。(jstage.jst.go.jp)

サーフボードと舟艇では具体的な寸法関係は異なります。

それでも、

乗り物全体が1つの波面とどのような位置関係になるのか

という点は、両者を構造で考える重要な共通項です。

5.波高と波の急峻さ

波長と並んで重要なのが、波高と波の急峻さです。

同じ波長なら、波高が増すほど波高/波長の比は大きくなり、波面は急になります。

舟艇のsurf-ridingでは、波が十分に急峻であることが成立条件の1つになります。IMOの第2世代非損傷時復原性基準でも、波長/船長比とwave steepnessを組み合わせてsurf-riding/broachingへの脆弱性を評価します。(imorules.com)

サーフィンでも、波面の傾斜はテイクオフ、加速、ターンに大きく関係します。

つまり、

波長と乗り物の長さ

に加えて、

波高と波長がつくる波面の形

も、サーフィンと舟艇のsurf-ridingを考える共通の要素になります。

6.サーファーは波の前面で何をしているのか

ここから、サーフィンと舟艇の制御方法の違いが現れます。

サーファーは波の前面に乗ったあと、身体を使ってボードを絶えず操作します。

荷重を前後左右へ移動させれば、ボードのrollやpitchが変化します。

ボードを傾ければ、レールの水への入り方が変わります。

テール側への荷重や姿勢変化によってrockerの使われ方も変化します。

フィンに対する水流の角度が変われば、フィンが発生する流体力も変わります。

実際のサーフィン中にフィンの圧力を測定した研究でも、ターン時にはフィン両面に圧力差が生じ、サーファーの荷重移動、レールを入れる操作、後足による制御などが旋回と安定性に関わることが確認されています。(pmc.ncbi.nlm.nih.gov)

サーファーは、

荷重移動によってボード全体の姿勢を変え、レール、ボトム、rocker、フィンに働く流体力をまとめて利用して、波面上の位置と進行方向を修正している

と考えることができます。

しかも、その操作をかなり素早く行えます。

波面を下る。

ターンする。

波面を上がる。

再び方向を変えて下る。

サーファーは波の前面に乗ったまま、自分の位置と軌道を能動的に変え続けています。

7.舟艇は舵と船体特性でコントロールする

舟艇も波の前面で進行方向を維持しようとします。

制御方法はサーフボードとは大きく異なります。

舟艇では主として舵や推進力を使います。

舵を切る。

舵に横力が生じる。

船体に回頭モーメントが生まれる。

質量と慣性を持つ船体が回頭する。

さらに、船体そのものが持つ方向安定性も針路維持に関係します。

surf-ridingしている舟艇には、これに対して波による回頭作用が働きます。

1981年のブローチング発生機構に関する研究では、追い波の下り斜面を航走する船について、波によるyaw momentが著しく大きくなり、それが舵による針路維持のためのhydrodynamic momentを上回ることがbroaching-toの発生に重要だと結論づけています。(jstage.jst.go.jp)

ここには、

波が舟艇を回そうとする作用

と、

舟艇が予定針路を維持しようとする能力

の対抗関係があります。

艇側には、舵、推進器、船体固有の方向安定性があります。

波側には、波長、波高、急峻さ、波向、波速、そして波面上で舟艇が置かれている位置があります。

波側の作用が大きくなり、舟艇側の最大修正能力を上回ると、最大限に操舵しても予定した針路を維持できなくなります。

broaching-toです。

艇型や波面上での姿勢によっては、この過程で舵・プロペラ・ウォータージェットなどの有効性が低下する場合もあります。高速艇向けの運航ガイダンスでも、操舵応答の悪化や推進器のventilationがsurfingやbroachingの警告兆候として挙げられています。(puc.overheid.nl)

8.サーフィンとbroaching-toを同じ構造に置いてみる

ここまでの2つの現象を、同じ座標軸に並べます。

サーフィン

波が来る
→ ボードが波の前面に乗る
→ 波面上で加速する
→ 荷重移動によって姿勢と流体力を変える
→ 進行方向と波面上の位置を修正する
→ 波乗りを継続する

舟艇

追い波・斜め追い波を受ける
→ 舟艇が波の前面に入る
→ 波面上で加速する
→ surf-ridingする
→ 波による回頭作用を受ける
→ 舵・推進力・方向安定性によって針路を修正する

この段階までは、両者にかなり共通した構造があります。

舟艇側で、

波による回頭作用 > 舟艇が持つ最大の修正能力

となったところで制御が破綻し、broaching-toへ移行します。

サーフィンとbroaching-toを構造で見ると、

波の前面に乗り、そこで加速し、その運動を制御する

という共通した問題を、それぞれ別の乗り物で扱っていることが分かります。

サーフィンでは、その制御を維持しながら波を利用し続けます。

舟艇ではsurf-ridingの状態から制御能力を超える作用を受けると、broaching-toへ移行します。

この分岐が、2つの現象を分けています。

9.キャプテンは海上で何を見ればよいのか

ここまでの比較を、実際のプレジャーボート操船へ戻します。

キャプテンが見るべきなのは、波側の条件と、自艇側の条件との組み合わせです。

波側には波長、波高、波の急峻さ、波向、波速があります。

艇側には艇長、船体形状、艇速、方向安定性、舵や推進器による操縦能力があります。

その組み合わせによって、surf-ridingへの入りやすさと、そこからbroaching-toへ移行する可能性が変わります。

プレジャーボートのキャプテンとして意識したい観察項目をまとめると、次のようになります。

  • 追い波・斜め追い波になっている
  • 波長が艇長のおおむね1~3倍程度の範囲に入っている
  • 波高が増し、波面が急になっている
  • 艇速が波速へ近づいている
  • 一定のスロットルなのに、波ごとに艇速が大きく増減する
  • 艇がわずかなbow-down姿勢となり、波頂が船体中央より後方に位置する状態が続く
  • 自艇が1つの波の前面に長く留まり、波と一緒に走る感覚が生じる
  • 操舵に対する艇の反応が鈍くなる
  • 予定針路の左右へyawが大きくなっていく
  • 艇型によっては、プロペラやウォータージェットにventilationの兆候が現れる

このうち、一定スロットルでの大きな速度変動、波速への接近、bow-down姿勢、操舵応答の悪化、激しいyaw、推進器のventilation、surfingそのものは、高速艇向けの運航ガイダンスでもsurfing/broachingのwarning signsとして挙げられています。(puc.overheid.nl)

ここで重要なのは、1つの兆候だけを見ることではなく、複数の条件が同時に重なっていないかを見ることです。

たとえば、

波長が自艇に対して危険になり得る範囲にある。

艇速が波速へ近づいている。

一定スロットルなのに急に艇速が伸びる。

波の前面に長く留まる。

舵への反応が鈍くなり、yawが大きくなる。

こうした現象が連続して見えてくれば、

自艇がsurf-ridingへ入り、方向制御の余裕を失いつつある

という1つの構造として捉えることができます。

IMOの操船ガイダンスでも、追い波・斜め追い波でsurf-ridingの危険領域へ入る場合には、船速や針路を変更して危険領域から外れる考え方が示されています。(wwwcdn.imo.org)

ブローチングを予見するとは、

その波と、その艇との関係を観察し、自艇に残されている制御余裕を見ること

なのだと思います。

10.結論|ブローチングを「適切に恐れる」

サーファーはsurfingを知っています。

船乗りはbroachingを知っています。

それぞれ別の分野で語られるため、2つを結びつけて考える機会は多くありません。

しかし同じ構造に置いてみると、共通点が見えてきます。

波長と乗り物の長さ。

波高と波面の急峻さ。

波の前面への位置取り。

そこで生じる加速。

波から受ける力。

そして、その状態での姿勢と方向の制御。

サーファーは、それらを利用しながら波面上の運動を制御し続けます。

舟艇もsurf-ridingまではよく似た構造の中にいます。

その先で波による作用が舟艇側の制御能力を上回ると、broaching-toへ移行します。

こうして構造で捉えると、ブローチングは、

波側の条件と艇側の条件が重なり、最終的に方向制御が破綻する現象

として理解できます。

プレジャーボート乗りにとって大切なのは、

何を恐れるべきなのかを理解して、適切に恐れること

です。

波長を見る。

波高を見る。

波向を見る。

波速と艇速の関係を見る。

艇が波面のどこにいるのかを見る。

操舵に対して艇がどう反応しているのかを見る。

そして、自艇がその状況に対してどれだけの制御余裕を残しているのかを考える。

サーフィンとの比較は、そのための1つの座標軸を与えてくれます。

理屈コネ太郎流に言えば、

敵を知り、己を知れば、万回の航海危うからず。

波と自艇の関係を構造として理解する。

そのうえで海を恐れる。

サーフィンとブローチングという、別々の分野で語られてきた2つの現象を並べて考える意味は、そこにあるのだと思います。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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