管理職は職場のイジメを「ある」と想定すべき|見えない攻撃への対策

管理職は職場にイジメはあると想定しよう。
管理職は職場にイジメはあると想定しよう。

職場のイジメは、管理職から見えないところで起きる

管理職が職場の人間関係を見るとき、私は**「イジメはないだろう」ではなく、「見えていないだけで、あるかもしれない」**と考えておいた方がよいと思っています。

職場のイジメは、怒鳴る、侮辱する、皆の前で叱責するといった分かりやすい形だけで起きるわけではありません。

むしろ厄介なのは、

  • 特定の相手にだけ横柄な態度を取る
  • 必要な情報を十分に与えない
  • 「指導」を名目に執拗に責める
  • 他人には分からない程度の言葉遣いや表情で圧力をかける
  • 面倒な仕事を一方的に押しつける

といった、第三者からは見えにくい攻撃です。

私は産業医として、多くの職場の人間関係について面談してきました。

その経験から強く感じるのは、管理職が「問題は起きていない」と思っている職場でも、実際には当事者同士にしか分からない関係の歪みが存在することがある、ということです。


典型的なのは「指導」の形をした攻撃

よく見られる構図の一つが、古株の職員が新しく入った職員や後輩に対して、

指導しているだけです」

という形で、攻撃的あるいは粘着的に振る舞うケースです。

周囲の誰が見てもイジメだと分かるほど露骨なら、管理職も比較的気づきやすいでしょう。

しかし、本当に見つけにくいのは、もっと微妙なものです。

たとえば、

「そんなことも分からないの?」

という言葉でも、冗談として言われる場合と、相手を見下す目的で繰り返される場合では意味がまったく違います。

返事をしない。

ため息をつく。

相手にだけ説明を省く。

他の職員には普通に接するのに、一人にだけ冷たい。

仕事上必要な指摘と、人を傷つけるための態度は、外から一度見ただけでは区別しにくいことがあります。

こうした攻撃は、被害を受けている本人にしか分からない場合があります。


産業医面談で感じた「自分は許される」という感覚

私は産業医として、職場の人間関係に苦しんでいる職員と多数面談してきました。

そして可能な範囲で、相手側の職員とも話をしてきました。

その経験から感じることがあります。

加害的な振る舞いをする人の中には、

「自分はこのように振る舞ってよい」

という強い確信を持っている人が少なくありません。

本人に「私はこの人をイジメている」という自覚があるとは限りません。

むしろ、

「仕事ができないから指導しているだけ」
「昔はもっと厳しかった」
「これくらい普通でしょう」

と考えていることがあります。

ここが厄介です。

本人の中では自分の行動が正当化されているため、単に

「態度を改めてください」

と言っただけでは、問題そのものを理解してもらえない場合があります。

そして、特定の一人だけではなく、立場の弱い後輩や新人に対して似た振る舞いを繰り返している可能性も考える必要があります。


上司には「仕事ができる人」に見えることがある

こうした職員が、管理職から見ても明らかな問題職員なら、対処はそれほど難しくありません。

しかし実際には、逆の場合があります。

私が見てきた範囲では、

  • 上司や先輩には愛想がよい
  • 会議では積極的に発言する
  • 経験が長く、仕事を知っている
  • 問題が起きると後輩に対応させる
  • 自分の仕事を下位職員へ振る
  • 後輩が困っていても積極的には手伝わない

といった人物が、管理職からは

「経験豊富で頼りになる職員」

と評価されていることがあります。

ところが、その人の下についた若手職員から見ると、まったく違う人物像が見えている。

管理職が上から見ている姿と、後輩が下から見ている姿が違うのです。


「仕事を振ること」と「丸投げ」は違う

管理職が特に注意した方がよいのが、業務の委任と丸投げの違いです。

先輩が後輩へ仕事を任せること自体は、組織運営にも人材育成にも必要です。

しかし、

  • 十分な説明をしない
  • 判断材料を与えない
  • 困ったときの支援をしない
  • 責任だけ相手に負わせる
  • 問題が起きたときだけ叱責する

のであれば、それは適切な委任とは言いにくいでしょう。

さらに、その間に本人が雑談をしていたり、自分だけ負担を回避していたりすれば、仕事を任された側には強い不公平感が生まれます。

表面上は、

「先輩が後輩に仕事を教えている」

ように見えても、実態はまったく違う場合があります。

だから管理職は、仕事が誰から誰へ、どのような形で流れているのかを見る必要があります。


イジメを放置すると「辞める人」と「残る人」が逆転する

こうした人間関係を放置すると、問題は被害を受けた一人だけでは済みません。

職場全体の人材構成に影響します。

たとえば、

  • 若手が短期間で辞める
  • 新しく入った人が定着しない
  • 周囲を明るくする人が疲弊する
  • 問題行動をする古株だけが残る

ということが起こり得ます。

ここで重要なのは、

辞めた人だけを見て「この人は職場に合わなかった」と評価しないこと

です。

何人も同じ部署から短期間で辞めているなら、辞めた人たちだけに問題があるとは考えにくい。

部署側にも、何らかの共通要因がある可能性を疑うべきでしょう。


新人が定着しない職場では「誰の下で辞めているか」を見る

管理職には、人事データからも見えることがあります。

たとえば、

「この部署は新人がすぐ辞める」

だけでは情報が粗すぎます。

もう一段細かく、

  • 誰が教育担当だったのか
  • 誰のチームだったのか
  • 誰と組んだ時に退職が多いのか
  • 異動希望が集中している場所はないか

を見る。

すると、

特定の人物の周囲だけで人が定着していない

という構造が見える場合があります。

一回なら偶然かもしれません。

しかし、同じパターンが何度も繰り返されているなら、管理職はそこを調べるべきです。


日本の職場では「先輩だから」が免罪符になりやすい

私が経験してきた日本の職場では、

「先輩だから」
「長く勤めているから」
「あの人は昔からああいう人だから」

という理由で、横柄な態度が事実上放置されることがあります。

学校でも職場でも、年次や上下関係が人間関係に大きな意味を持つ場面は少なくありません。

もちろん、経験年数には価値があります。

長く働いている人が、知識や技能を後輩へ伝えることも重要です。

しかし、

経験が長いことと、他人に失礼な態度を取ってよいことはまったく別です。

管理職が、

「まあ、あの人は昔からああだから」

で済ませてしまうと、その負担を誰か別の職員が引き受けることになります。


管理職は「イジメはない」と証明しようとしない

職場のイジメ対策で、管理職が最初に持つべき姿勢は、

「自分には見えていない問題があるかもしれない」

と考えること。

管理職自身が見ていないところで、人間関係は形成されています。

管理職が部屋に入った瞬間だけ態度を変える人もいるでしょう。

したがって、

  • 退職理由
  • 異動希望
  • 欠勤の増加
  • 特定部署の離職率
  • 面談で繰り返し出てくる人物名
  • 若手からの相談

などを、個別の出来事として処理するだけでなく、同じ構造が繰り返されていないかを見る必要があります。


対策の一つとして「相互評価」を使う

では、管理職から見えない人間関係をどう把握するのか。

私は、一つの方法として職員間の相互評価システムが使えると考えています。

通常の人事評価では、

上司が部下を評価する

という方向が中心です。

しかし、それだけでは、

「上司に対しては感じがよいが、後輩には横柄」

という人物を見つけにくい。

そこで、

  • 上司から部下
  • 部下から上司
  • 同僚同士
  • 他部署との関係

など、複数方向から情報を集めます。

いわゆる360度評価に近い考え方です。


相互評価の目的は「嫌われ者探し」ではない

ただし、相互評価制度を導入すれば自動的に職場のイジメがなくなるわけではありません。

評価制度そのものが人気投票になったり、逆に人間関係の報復に使われたりする危険もあります。

したがって、

誰が嫌われているかを調べる制度

にしてはいけません。

見るべきなのは、単発の悪い評価ではなく、

  • 複数の人から同じ指摘が出ている
  • 特定の行動について繰り返し問題が指摘されている
  • 一定期間、同じ傾向が続いている
  • 離職や異動希望など、別の情報とも一致している

といったパターンです。

相互評価は、処罰のための装置ではなく、

管理職だけでは見えない組織内の関係を知るためのセンサー

として使う方がよいでしょう。


管理職が見るべきなのは「誰が悪いか」だけではない

職場のイジメ問題というと、

「加害者を特定して処分する」

という話になりがちです。

もちろん、明確な問題行為には適切な対応が必要です。

しかし、管理職が本当に考えるべきなのは、それだけではありません。

なぜ、その行動が長期間放置されたのか。

なぜ、相談できなかったのか。

なぜ、何人も辞めるまで気づかなかったのか。

なぜ、問題行動をする職員が「仕事のできる人」と評価されていたのか。

そこまで考えなければ、別の人物によって同じ問題が繰り返されます。


まとめ|「見えないから、ない」ではない

職場のイジメは、管理職の目の前で堂々と行われるとは限りません。

むしろ、

管理職には普通に接し、立場の弱い相手にだけ横柄になる

という形なら、発見するのはかなり難しくなります。

だからこそ管理職は、

「イジメはあるかもしれない」

という前提で職場を見る必要があります。

新人が辞める。

特定部署だけ人が定着しない。

同じ人物について何度も相談が出る。

異動希望が集中する。

そうした現象を一つずつ別の出来事として片づけず、背後に共通した人間関係がないか確認する。

さらに、必要であれば相互評価などを使い、管理職からは見えない上下左右の関係も把握する。

職場のイジメ対策で最も危険なのは、

「うちにはそんな問題はない」

と思い込むことです。

見えないから、ないのではありません。

見えないものをどう見つけるか。

それを考えることこそ、管理職の仕事の一つなのだと思います。


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おわりに

イジメは「ない」と思いたい感情と、「ある」と認識して対応する現実との間で、管理職は意識を切り替える必要があります。「職場にはイジメがあるものだ」とまず想定して組織運営にあたることで、より健全な職場を築いていくことが可能になるのです。

作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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