さくらももこ著『COJI-COJI』は、メルヘンの国を舞台に、コジコジと個性の強い同級生たちの日常を描いた全4巻の漫画です。公式サイトでも、ナンセンスな笑いとファンタジーが同居する作品として紹介されています。
一見すると、かなりハチャメチャです。
登場人物が何者なのか、なぜその姿をしているのか、どこから来たのか。そうしたことは、あまり詳しく説明されません。会話も展開も不条理で、普通の漫画の常識からは大きく外れています。

しかし、読み進めていくと、不思議なことに一本の筋が通っているように感じられます。
何でもありに見えて、何でもよいわけではない。
さくらももこの頭の中にある独特の条理によって成立している、他にあまり似たもののない漫画です。
優しくて、小意地が悪くて、可愛くて怖い
『COJI-COJI』の登場人物たちは、単純に「優しい人」や「悪い人」と分類できません。
不思議な優しさを見せたかと思えば、妙に小意地が悪い。
心が広いように見えて、驚くほど小さいことで腹を立てる。
見た目は可愛いのに、考えていることや行動は少し怖い。
そうした矛盾が、修正されないまま同じ人物の中に同居しています。
しかし、現実の人間も本来はそのようなものです。
優しい人がいつでも優しいとは限りません。普段は善良な人が、くだらないことで意地を張ることもあります。反対に、意地の悪い人物が、思いがけない場面で親切になることもあります。
『COJI-COJI』の登場人物たちは人間ではありませんが、人間の面倒な性質を奇妙な形で引き受けています。
そのため、メルヘンの国の話でありながら、妙に現実的です。
誰もコジコジの家を知らない
コジコジは、学校が終わると同級生たちと一緒に帰ります。
ところが、同級生の誰ひとりとして、コジコジの家がどこにあるのか知りません。
毎日のように顔を合わせ、一緒に学校生活を送り、帰り道まで共にしている。それでも、コジコジがどこから来て、どこへ帰っていくのかは分からない。
私は、こういうところに、さくらももこの孤独を好む感覚が現れているように思えます。
もちろん、これは私の勝手な読み方です。
しかし、コジコジは誰とでも話し、誰とでも一緒に行動する一方で、誰にも所有されず、誰の生活圏にも完全には入っていません。
親しい仲間たちに囲まれていながら、根本の部分では一人です。
ただし、本人はその孤独を寂しいとも、不幸だとも思っていないように見えます。
コジコジはコジコジであり、それ以上の説明を必要としていないからです。
条理的なのに不条理
さくらももこの作品は、条理的でありながら不条理です。
筋道がないのではありません。
一般社会の常識とは異なる筋道で、登場人物と物語が動いています。
『COJI-COJI』を読んでいると、さくらももこの頭の中にある物語を、どこか外国風の見知らぬ土地で、得体の知れない登場人物たちに演じさせているように感じます。
舞台はメルヘンの国です。
しかし、そこで交わされる会話には、現実社会の見栄、嫉妬、虚栄心、思い込み、劣等感、怠惰といったものが、形を変えて入り込んでいます。
コジコジだけは、そうした社会的な思惑から少し離れた場所にいます。
だからこそ、周囲の登場人物が当然だと思っていることを、平然と否定します。
それは深い哲学のように聞こえることもあれば、ただ何も考えていないように見えることもあります。
おそらく、その両方なのでしょう。
作者の死去で4巻までになったのか
『COJI-COJI』が4巻までなのは、さくらももこが亡くなったためなのか、と考えたくなります。
ただし、集英社版の第4巻が刊行されたのは2009年で、さくらももこが亡くなったのは2018年です。したがって、少なくとも「作者の死去によって、刊行途中の4巻で直ちに止まった」と単純に説明することはできません。これは刊行年と逝去年からの判断であり、4巻でまとまった詳しい経緯までは確認できませんでした。
もっとも、『COJI-COJI』は、決められた結末へ向かって一直線に進む物語ではありません。
大きな謎が解かれなかったから未完であるとか、宿敵との決着がつかなかったから途中であるとか、そういう種類の漫画ではありません。
コジコジたちの日常は、読者が本を閉じたあとも、メルヘンの国のどこかで続いている。
そのような終わり方が似合う作品です。
そのため、4巻を読み終えても、途中で切られたという印象はあまりありません。
比べられる作品が思いつかない
この漫画と比肩し得る作品は何かと考えてみましたが、私には思いつきません。
可愛いキャラクターが登場する漫画は、ほかにもあります。
不条理なギャグ漫画もあります。
哲学的なことを語る漫画も、毒のある漫画も、優しい漫画もあります。
しかし、それらが『COJI-COJI』と同じ配合で混ざっている作品は、なかなかありません。
可愛いけれど怖い。
優しいけれど冷たい。
何も考えていないようで、妙に本質的なことを言う。
ハチャメチャなのに、どこか一本の筋が通っている。
まさに、さくらももこワールドが炸裂した漫画です。
うまく説明し切ることが難しい作品でもあります。
とにかく自分で読んで、自分で判断していただきたい。
読んだ人だけが分かる。
そして、読んでも分かる人にしか分からない。
『COJI-COJI』は、そんな奇妙で、なんとも言えない魅力を持つ作品です。
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