本記事ではサーキットでのタイム短縮を叶えるためのライン取りの組立を、理屈コネ太郎の管見内の独断と偏見による私見を述べます。それで理屈コネ太郎本人のタイムはどうなのよ?との疑問を抱く向きもおられようが、ここは理屈をコネて知ったかぶりするブログサイトなのだとご銘記の上読み進めていただければ幸いです。理屈をコネるために、ストレートとコーナーの再定義から始めます。
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ストレートとコーナーの再定義
従来、サーキット走行において「ストレート」とは直線的に加速する区間、「コーナー」とは車両の進行方向を変えるための旋回区間とされてきました。しかし、ここでは運動力学的な視点から、それぞれを以下のように再定義します。
- ストレート: ドライバーが積極的な姿勢制御をしなくても車両が自然とニュートラルステアを維持しつつフル加速できる区間で、幾何的な直線移動だけではなく、非常に大きな円周を走っているような状態でもストレートと捉える。注意して欲しいのはコーナー手前のフルブレーキング区間はストレートに含めません。
- コーナー: フル加速で走行するには小さすぎるRのコース区間で、フル加速状態に少しでも近づけるためにドライバーが積極的に姿勢制御を行わなければニュートラルステアを維持できない走行区間。
- ブレーキング: ストレート終点と旋回開始の間にある、短時間で減速する区間です。本稿の定義では、ブレーキング区間はストレートに含めません。ストレート終点で車両は高い速度に達していてそのままではコーナーを抜けられないので、コーナーを抜けられる最大速度にまで減速します。この減速は、上記コーナーの項でも述べたようにコーナリング中の加速も勘案する必要があります。
ちなみに、極端に速度の遅い車両と高いグリップ性能のタイヤの組み合わせなら、かなりRの小さなコース区間もストレートと捉えることができます。
このように定義することで、「幾何的な直線のコース区間」かどうかよりも、車両とドライバーの状態に着目した理解が可能になります。
特に重要なのは、このコーナーとストレートの概念を用いると、ストレート走行中に車両が次のコーナーに向けて徐々に自然と向きを変えていくという発想が生まれるという点です。具体的には、ストレート走行中に、あらかじめコーナー方向に車両の向きを若干調整しておくような、緩やかな曲線または蛇行線を描く走行ラインを選ぶことで、コーナーをより高い速度で安定して走行するための準備ができます。
コーナー方向に若干車両の向きを合わせるこの操作は、ニュートラルステアで、ドライバーが積極的に姿勢制御にする必要がない“ストレート走行中”に徐々に行うことができます。言い換えれば、ストレート走行中に緩やかな曲線や蛇行の走行線を組み入れて車両の向きをコーナー方向に若干向けておくことが、後続動作の効率を大きく左右できるということです。
ここが、従来の「ストレート=直線的に走行する区間」という発想と大きく異なる点です。
コーナリングのRを大きくするという発想
コーナーの曲がり具合は物理的には**曲率(curvature)で表され、その逆数が旋回半径(R)**です。コーナーのRが大きいほど(=曲率が小さいほど)、車両はより高い速度を維持しやすくなります。
したがって、コーナーのRを大きく保つことは、コーナリングスピードを高める基本戦略の一つです。
ブレーキング開始時点の向きが決めるもの
従来、コーナー進入においては前輪のグリップを有効活用するために「ブレーキングを残しながら旋回を開始する」技法が紹介されがちです。しかし、ここではブレーキングを残さずに旋回を開始する技法を提案します。
具体的には、
ストレート終盤、つまりブレーキング前までに車両をコーナー方向に若干向けておくことで、コーナーのRを疑似的に大きくする。
ここでいうストレートとは、先述のストレートの新定義に照らすと、まだニュートラルステアで車両が自然に走れている状態であり、ドライバーが積極的に姿勢を操作する必要のない領域です。この区間内全体をつかって徐々に車両をコーナー方向に向けておくという準備作業によって、旋回開始後の走行ラインのRを大きくすることができます。走行ラインのRを大きくできれば、コーナー進入速度を上げることができます。
ちなみに、ストレート区間全域を使用して車両の向きをニュートラルステア状態で若干コーナー方向に向けているので、ブレーキング以前にヨー慣性は収束しています。ヨー慣性が収束していれば、フルブレーキングしても舵角ゼロであればスライドもスピンも発生しません。真っすぐにギュっと減速します。
この一連の操作によって得られる主なメリットを以下に整理します:
- ヨー慣性が収束した状態でフルブレーキングできるため、スピンやスリップのリスクが大幅に減少する
- 車両がコーナー方向に若干向いているため、コーナリングの走行ラインのRを大きく取ることができる
- Rが大きくなれば、進入速度を高くできるし、加速旋回もしやすい
- 結果として、脱出速度も上がりタイム短縮に寄与する
加えて、ここで重要になるのが、加速旋回の合理性です。コーナー終盤ではRが自然に大きくなるため、車両は加速しても横Gの限界に達しにくくなります。つまり、コーナー終盤にかけて速度を上げていくことが可能になります。
コーナー脱出時に加速しやすくとも、コーナー進入時の速度が低ければその効果は限定的です。ストレート区間全体を使って、車両を少しでもコーナー方向に向けておくことで、走行ラインのRを大きく取ることができ、結果としてコーナー進入速度を高く保つことが可能になります。進入速度が高く、かつ走行ラインが緩やかになれば、加速旋回も行いやすくなり、脱出速度もさらに高めることができます。
したがって、加速旋回を成立させるためには、旋回の入り口でニュートラルステアを維持できる最大速度までしっかり落としつつ、出口で加速できる“姿勢”を整えておくことが非常に重要です。
まとめ:コーナーの速さはストレート中に仕込め
コーナーを速く抜けるための戦略は、コーナリング中だけでなく、その前段階の“ストレート”にすでに始まっているという発想が鍵です。車両の向きとヨー運動をブレーキング前に整えておくことで、コーナリングのRを大きく保ち、全体としてのラップタイム短縮に大きく貢献します。
ドライビングの最適化は、速く走るだけでなく、「どこで何を終えておくか」にも注目すべき段階に来ています。
※本稿で述べた「ニュートラルステア」は、「舵角ゼロ」のことではありません。進行方向に対して、前後輪がほぼ同じスリップアングルで横力を発生させている状態を指しています。車両に舵角がわずかに残っていても、アンダーステアにもオーバーステアにも傾かず、車両の姿勢が安定している状態です。
なお、スリップアングル(slip angle)とは、タイヤが向いている方向と、実際に車両が進んでいる方向との角度差のことをいいます。旋回中、タイヤはわずかに横方向に滑ることで横力(コーナリングフォース)を発生させており、その微小な滑りの角度がスリップアングルです。完全に滑っているわけではありませんが、グリップを保ったまま“たわみながら横力を生んでいる”状態を表しています。