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■ 可動域は、生活機能の土台にある
シニアの生活機能低下は、明確な筋力より先に “動きにくさ” として現れます。
靴下を履く、振り返る、腕を上げる、歩き出す──
これらの動作の質を左右しているのは、筋力よりも “関節がどれだけ滑らかに動くか” です。
筋力は確かに大切ですが、
それを十分に使うには 「関節が動く」 ことが前提になります。
この前提が崩れると、どれほど筋力があっても生活動作が重たくなる。
臨床現場でも、私はこの光景を数多く見てきました。
■ 可動域10のうち生活で使うのは7だけ。残り3は静かに固まる
関節の生理的な可動域を“10”とすると、
日常生活で使われるのはそのうち“7”程度です。
残りの“3”は普段ほとんど動かされないまま、
少しずつ動きが固まっていきます。
そして、
ある日ふと腕を伸ばしたとき、
普段使わないその“3”の領域が動こうとして痛みとして現れます。
五十肩はその典型で、
筋力低下による痛みではなく、
「使わなかった可動域が固まった結果としての痛み」です。
■ 痛い → 避ける → さらに固まる → もっと痛い
この悪循環が生活機能を損なう
痛みを避けると、使う可動域はさらに狭まり、
また痛みが出て、また避ける──
この繰り返しで、可動域は“10 → 7 → 6 → 5…” とゆっくり減っていきます。
筋力低下は必ずしも痛みを引き起こしませんが、
可動域の低下は痛みと直結し、結果として 生活機能の質 を確実に落とします。
だからこそ、
“可動域”を中心に体を整える視点が大切になります。
■ 「イタ気持ちいい」は、動かすべきサイン
ケガや炎症ではない“固まった可動域”の特徴は、
「イタ気持ちいい領域」が残っていること です。
・痛いけれど刺すような痛みではない
・違和感があるが許容できる
・伸びていく感覚に軽い心地よさがある
この不思議な感覚は、
動かすほど回復する種類の痛み です。
一方、ケガや炎症には“イタ気持ちよさ”がありません。
触れても曲げてもただ痛いだけです。
この場合は動かすほど悪化するので、安静が必要です。
この区別は、シニアが自分の体とつきあううえで非常に重要です。
■ 可動域維持の運動は、軽い筋力維持も同時に叶えてくれる
関節を動かすということは、
その周囲の筋肉を軽く使わなければできません。
つまり、
可動域を維持するための運動そのものが、
シニアにとってちょうど良い“軽負荷の筋力維持”にもなる。
“筋トレをガッツリ” は難しくても、
関節を動かすことなら続けられる。
可動域維持を中心にすることは、
筋力維持も自然に含んだ、合理的で持続しやすい身体戦略 と言えます。
■ 少しの「勢い」も、イタ気持ちいい範囲なら合理的
一般にストレッチはゆっくり行うものと思われていますが、
シニアの場合、
軽い反動を使う動的ストレッチも、
イタ気持ちよい範囲であれば十分に安全で合理的 です。
軽い反動は関節包や筋膜に微細な刺激を与え、
可動域の境界線を柔らかくしてくれます。
もちろん痛みに入る手前で止めることが絶対条件です。
しかしこの“小さな勢い”が、
長年眠っていた可動域の目覚めにつながることもあります。
■ まとめ:可動域を中心に体を整えると、生活が軽くなる
筋力は大切ですが、
生活動作を支える土台は “関節がどれだけ動くか” にあります。
そして可動域維持のための運動は、
シニアにとって負荷が強すぎず、
しかも筋力維持も同時に叶えてくれる。
つまり、
限られた時間や体力のなかで、
シニアが最も合理的に身体を守る方法が
“関節可動域の維持” なのです。
今日から、
痛くない範囲で“イタ気持ちいい領域”をゆっくり動かす習慣を取り入れてください。
一年後の身体の軽さは、確実に変わっているはずです。
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