なぜ現実的な寄港地は少ないのか──フィッシャリーナや海の駅の裏側

出航しては自分のホームポートに帰港する──その繰り返しに、少し飽きてくることがあります。
「たまには別のマリーナ、フィッシャリーナや海の駅に寄ってみよう」と思い、地図やネットで調べ始めると…意外なほど現実的に行ける寄港地が少ないことに気付くのです。
これは長距離航海だけの話ではありません。日帰りや一泊の範囲でも、同じような壁にぶつかります。
では、なぜそんなに選択肢が限られるのでしょうか。


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ビジター歓迎とは限らない

日本沿岸には大小さまざまな港がありますが、その多くは漁港や商港であり、本来は漁業や物流のために存在しています。
ビジター受け入れは「余力があれば」の対応で、専用桟橋やスタッフが常に用意されているとは限りません。
空きがあるように見えても、「許可制」「関係者優先」「安全面の懸念」などを理由に利用できないケースも珍しくありません。
フィッシャリーナや海の駅の看板が掲げられていても、実際には条件が厳しかったり、事前調整が必要なことも多いのです。


陸路集客の強さが港の姿勢を左右する

ビジター受け入れに積極的なフィッシャリーナや海の駅には、ある共通点があります。
それは、港に併設された観光施設や店舗が陸路で大量の集客をしていることです。

仮に年間30万人の陸路客が訪れ、1人あたりの消費が2,000円なら、年間売上はおよそ6億円。
一方、船で来る客が年間200隻、平均3人乗りで日帰り消費5,000円だと、年間の売上は約300万円に過ぎません。
陸路と海路の売上規模は少なくとも20倍以上の差があります。

この数字からわかるように、港や施設の経営の柱は陸路客です。
海路客は収益面では小さくても、「船で行ける場所」というブランド価値や話題性を高める存在として歓迎されやすくなります。
逆に、陸路集客が弱い港では、ビジター受け入れは負担が大きい割に見返りが少なく、積極的にはなりにくいのです。(これは筆者・理屈コネ太郎の読みです)


陸路がない離島のフィッシャリーナや海の駅

一方で、離島のフィッシャリーナや海の駅は陸路集客が望めません。
この場合、港そのものが直接収益を生むのではなく、隣接する宿泊施設やリゾート施設のブランド戦略の一部として機能することがあります。

実際、ある離島の港では、稼働の詳細は不明ながら、実質的には隣接する会員制リゾートホテルの滞在客向けアクティビティや「クルーザーで海から直接アクセスできる特別感」を演出する役割を担っているようです。
こうしたケースでは、ビジター受け入れは限定的で、港は宿泊施設の付加価値として存在していると言えます。


経営状態を推理

港を維持するにはお金がかかります。桟橋や護岸の補修には年数千万円〜億単位が必要になることもあり、これはどの港でも共通の現実です。
ところが、港使用料収入は年間数百万円にとどまるケースがほとんどです。

運営者が自治体の場合は、「港単体の黒字化」よりも港をきっかけに地域で生まれる経済効果を根拠に存続や投資を正当化します。
一方で、運営者が株式会社の場合は、その施設単体の収益性が経営判断の基準になります。
十分な収益が見込めなければビジター受け入れは縮小され、逆に収益につながる見込みがあれば積極的な集客や設備投資が行われます。

いずれにせよ、その経済効果や収益構造も、陸路集客や地域イベントがなければ限定的にならざるを得ません。


ボートユーザーができること

寄港地が少ない現状を変えるには、私たち利用者の姿勢が大切です。
出航前には電話やメールで連絡を入れ、信頼できる利用者として名前や船名を覚えてもらう。
利用ルールやマナーを守り、港側の負担を減らす。
そして寄港地周辺で飲食や買い物をして、少しでも地域経済に貢献する。
歓迎してくれたフィッシャリーナや海の駅は、ブログやSNSで発信し、良い循環を広げていきましょう。


現実的な寄港地が少ない主な理由

  1. 港の多くが漁業・物流目的で設計され、ビジター用施設や人員が常設されていない

  2. 陸路集客が強い港を除き、ビジター収入だけでは維持費を賄えず、受け入れ動機が弱い

  3. 離島など陸路集客がない港は、ホテル等のブランド戦略に組み込まれない限り、積極的な受け入れは難しい

  4. 運営者が自治体でも株式会社でも、経営上の優先順位が港単体の黒字化や地域経済効果の最大化に置かれ、ビジターは後回しになりやすい


まとめ

寄港地の少なさの背景には、港湾施設の本来用途、運営負担、そして経営上の優先順位といった現実があります。
フィッシャリーナや海の駅としてビジターを受け入れてくれる港は、運営側の努力と地域条件が揃った貴重な存在です。
陸路がある港では集客力が、離島ではブランド戦略が、その港のあり方を決めています。

この現実を知ったうえで、どの港に行くかを選び、そこでの時間や消費を楽しむこともクルージングの一部です。
私たちもマナーと地域消費で応えることで、このネットワークを少しずつ広げていけるはずです。


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