GRヤリスRZHPはなぜ左右・前後でμが違う路面に強い? ☆ GR-FOUR+前後LSDの仕組み

クルマは4本のタイヤで路面に接しています。

実際の道路では、その4つの接地点がそれぞれ異なるμを持つことがあります。

右前輪は乾いたアスファルト、左前輪は濡れたペイント。
前輪は濡れた路面、後輪は乾いた路面。
片側だけ残雪や砂利の上を通ることもあります。

このとき重要になるのが、4本のタイヤに残っているグリップを、駆動力としてどこまで利用できるかです。

自動車工学では、左右の車輪が異なるμの路面に接している状態を**split-μ(スプリットμ)**と呼びます。

本記事ではsplit-μを含め、左右・前後で4つの接地点のμが異なる状況を扱います。

対象とするのは、GR-FOURに加えてフロントとリヤにトルセンLSDを備える**GRヤリスRZ “High performance”(RZHP)**です。

RZHPでは、GR-FOURが前後両軸への駆動力配分を担い、前後のトルセンLSDが各軸の左右輪間でトルク配分に差を作ります。

その結果、左右・前後でμが異なる路面では、4つの接地点に残っているグリップを駆動力として利用しやすい範囲が広がります。


μとは何か

μ(ミュー)は、タイヤと路面の間でどれだけ摩擦力を使えるかを表す係数です。

μが高い接地点では、タイヤは大きな駆動力・制動力・横力を発生させやすくなります。

μが低い接地点では、タイヤが路面へ伝えられる力も小さくなります。

実際のμは、路面状態、タイヤの種類、温度、水膜、雪や氷の状態などによって変化します。

本記事では、

グリップ=その接地点でタイヤが使える摩擦力の余裕

駆動力=そのグリップのうち推進に使われる力

として考えます。


実際の道路では4つの接地点のμが変わる

公道では、短い距離の中でも路面条件が変化します。

たとえば、

  • 水たまり
  • 濡れた路面
  • 残雪や部分的な凍結
  • 砂利や砂
  • マンホール
  • 白線などの路面ペイント

があります。

右側のタイヤだけが水たまりを踏むこともあります。

前輪が濡れたペイントを通過した時点で、後輪はまだ乾いたアスファルト上にいることもあります。

走行中のクルマでは、

右前・左前・右後・左後の4か所で、利用できるグリップがそれぞれ異なる

という状態が発生します。

どのタイヤを駆動に利用できるかが、こうした状況でのトラクションに影響します。


2WDでは駆動力を使えるタイヤが一つの軸に集まる

FFなら前輪2本、FRなら後輪2本が駆動輪です。

たとえばFF車で、左前輪が濡れたペイントに乗り、右前輪が乾いたアスファルト上にあるとします。

オープンデフでは左右輪へほぼ同じトルクが伝わるため、低μ側の左前輪が受けられるトルクが小さくなると、高μ側の右前輪へ伝えられるトルクもその水準に制約されます。

右前輪に大きなグリップが残っていても、駆動力として利用できる範囲は限られます。

LSDを備えた2WDでは、左右輪にトルク差を作ることで、高μ側のグリップをより多く駆動へ利用できます。

2WDでは、その働きがFFなら前軸、FRなら後軸という一つの駆動軸の中で行われます。


GR-FOURは前後両軸のグリップを使える

RZHPのGR-FOURは、電子制御多板クラッチを使って前後両軸へ駆動力を配分します。

前輪側のμが低い場面では、後輪側に残っているグリップも駆動に利用できます。

後輪側のμが低い場面では、前輪側のグリップも利用できます。

つまりGR-FOURでは、前後2つの軸に残っているグリップを駆動へ結びつけられます。

左右・前後でμが異なる路面ほど、この構造が意味を持ちます。

実際に前後それぞれへ伝えられるトルク量は、電子制御多板クラッチによる駆動力配分によって決まります。


前後トルセンLSDが左右のμ差を利用する

RZHPでは、フロントとリヤの双方にトルセンLSDが装備されています。

役割を分けると、

GR-FOURの電子制御多板クラッチ
→ 前軸と後軸の駆動力配分

フロント/リヤのトルセンLSD
→ それぞれの軸における左右輪のトルク配分

となります。

トルセンLSDは、低μ側タイヤに残っている反力を基準に、高μ側へより多くのトルクを配分します。

たとえば右前輪が低μ路に入り、左前輪には大きなグリップが残っている場合、フロントLSDは左右のトルクに差を作り、左前輪側のグリップをより多く駆動に利用します。

同時にGR-FOURは、前後軸に残るグリップに応じて後軸側も駆動に使います。

つまりRZHPでは、

前後方向ではGR-FOUR、左右方向では前後トルセンLSD

という二段階の構造で、各接地点に残るグリップを駆動力へ結びつけます。


4つの接地点を駆動に利用しやすいことがRZHPの強み

4本のタイヤが持つグリップは、その瞬間ごとに異なります。

RZHPでは、

  • 前軸のグリップ
  • 後軸のグリップ
  • 前輪左右のグリップ差
  • 後輪左右のグリップ差

を駆動力配分へ反映できる構造になっています。

その結果、4つの接地点に残っているグリップを駆動力として利用しやすい範囲が2WDより広くなります。

これが、左右・前後でμが異なる路面におけるGR-FOUR+前後トルセンLSDの大きな強みです。

本記事では、このハードウェア構成による駆動力配分に焦点を当てています。


均一な高μ路では別の能力が前面に出る

サーキットの乾いた舗装路のように、4輪すべてが高μで、接地点ごとの差も小さい環境では、各タイヤに十分なグリップがあります。

この環境では、高出力をかける発進やコーナー脱出で、前後両軸へ駆動力を分担できることが4WDのトラクション性能につながります。

4WDにはデフ、クラッチ、プロペラシャフトなどの駆動系が追加され、その分の重量を伴います。

高μ路での速さは、

  • 4WDによるトラクション
  • 車両重量
  • 出力
  • タイヤ
  • コースレイアウト

などの組み合わせによって決まります。

不均一なμへの対応力と均一な高μ路での速さは、RZHPの異なる側面を見る評価になります。


ゼロヨンでは別の性能が見える

均一な舗装路で行うゼロヨンは、発進トラクションと加速性能を比較するテストです。

左右・前後でμが異なる路面への対応力を見る場合には、4輪の接地点に異なるグリップ条件を与えることで、別の能力が見えてきます。

GR-FOURと前後トルセンLSDの構成が生きるのは、

4本のタイヤがそれぞれ異なるグリップ条件に置かれた場面

です。

雨、部分的な残雪、砂利、路面ペイントなどが混在する道路や、路面条件が次々と変化するラリーでは、この能力が大きな意味を持ちます。


まとめ

クルマは4本のタイヤで路面に接しています。

その4つの接地点には、それぞれ異なるμが存在することがあります。

左右でμが異なるsplit-μは、その代表的な状態です。

GRヤリスRZHPでは、

  • GR-FOURが前後両軸への駆動力配分を担う
  • フロントのトルセンLSDが前輪左右のトルク差を作る
  • リヤのトルセンLSDが後輪左右のトルク差を作る

という構成になっています。

これによって、左右・前後でμが異なる状況でも、4つの接地点に残っているグリップを駆動力として利用しやすい範囲が広がります。

GRヤリスRZHPがμのばらついた路面で強みを発揮する理由は、この前後・左右の二段階の駆動力配分にあります。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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