GRヤリス前期型6MTと後期型8S-DATを比較!速さと歓びを見つめて

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第1章 はじめに ― 速さと操る歓びのあいだで

GRヤリスは、登場当初から「公道を走れるラリーカー」として高い評価を受けてきた。
そして2024年、待望の8速オートマ(8S-DAT)搭載モデルが登場した。
単なるトランスミッション変更にとどまらず、制御・挙動・走り味まで全面的に刷新された“もうひとつのGRヤリス”である。

私は2020年式6速MT(以下、壱号機)と、後期型8S-DAT(以下、弐号機)の2台を所有している。
この2台を乗り比べることは、「速さ」と「操る歓び」というドライビングの核心を見つめ直す行為でもある。

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第2章 弐号機(8S-DAT)――機械の精度が生む速さ

年明け、3日連続でワインディングを走った。
Day1とDay2は弐号機、Day3は壱号機。
同じ道、同じ自分なのに、走りの質がまるで違う。

弐号機の印象はひとことで言えば「圧倒的に速い」。
人間の操作の差をほとんど許さないほど、8S-DATの制御は正確で迅速だ。
アクセルオンの瞬間、最適なギアが選ばれ、駆動力の抜けはほぼ感じられない。
どんな複合コーナーでも、パワーバンドを外さず、フロントが路面に吸い付くように進む。

理屈コネ太郎のようなヘッポコでも、それなりに速く走れてしまう。
これは一見、ドライバーの存在意義を奪うように思えるが、実は逆だ。
弐号機は「上達の余白」を可視化してくれる。
どの入力が過剰で、どの動作が遅れているかを、正確に教えてくれるのだ。

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第3章 壱号機(6MT)――鍛える楽しさの原点

壱号機は、ドライバーの腕を問う純粋な機械である。
クラッチを切り、ギアを選び、再び繋ぐ。
その一連の動作に、クルマの挙動が直結している。

ミスをすればエンジンの回転が外れ、姿勢が乱れる。
しかし、その緊張感があるからこそ、コーナーを理想的に抜けられたときの快感は格別だ。

ヒール&トゥが決まった瞬間の一体感。
ブレーキングと荷重移動を自分の意思で制御できたときの達成感。
それらは、ドライバーの肉体と機械が完全に同期した一瞬の奇跡だ。

壱号機は、速さよりも“自分の成長”を実感させてくれる。
これは、ただのマニュアル車ではなく、自らを磨くトレーニング装置だと言っていい。

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第4章 技術的比較 ― 操作・荷重・加速・フィール

項目前期型GRヤリス6MT(壱号機)後期型GRヤリス8S-DAT(弐号機)
操作感両足と右手を使う総合操作右足一本(左足ブレーキ可)で完結
駆動レスポンスクラッチ操作で駆動が一瞬切れる常時トルクを維持し駆動切れほぼなし
コーナリング荷重移動を人間が制御電子制御が自動補助し安定性抜群
加速感ダイレクトで荒々しい滑らかで効率的かつリニア
街乗り渋滞は疲れる渋滞でも快適で疲労が少ない
学び要素操作技術を磨ける挙動理解と精度を磨ける

弐号機は、人間の“作業負担”を機械が肩代わりし、
ドライバーをより高次の意識――荷重移動とライン取り――へと解放してくれる。
結果として、同じ道でもスムーズさと速さが両立する。

壱号機は、すべての判断と操作を人間が担う。
そこにミスがあれば即座に現れ、修正が必要になる。
しかし、その「修正の過程」こそが成長であり、操る歓びの本質だ。


第5章 思索のワインディング ― 二台で気づく上達のかたち

弐号機で2日間走った翌日、壱号機に乗り換えた。
その瞬間、体は弐号機の精密な挙動を記憶していた。

結果、壱号機のクラッチ操作やブレーキングが、以前よりも自然に決まる。
弐号機が教えてくれた荷重の流れを、人間の感覚で再現しようとしている自分がいた。

そう、弐号機は「技術を奪う機械」ではなく、「技術を写し出す鏡」だったのだ。
この往復運動――考え、試し、また考える――こそ、ドライビングの醍醐味であり、
定年後の“学び直し”としての愉しみでもある。

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第6章 結論 ― ドライビング道楽の第二段階へ

前期型6MTは「鍛える楽しさ」。
後期型8S-DATは「速く走る楽しさ」。

壱号機は自らの技術を磨く修練場であり、
弐号機はクルマの完成度と荷重の美学を味わう舞台装置だ。

もし少年時代、クラッチを繋いでクルマが動き出したあの瞬間が“第一段階”だったとすれば、
弐号機で己の限界を知り、また走る理由を見つけ直す今は、“第二段階”にあたる。

機械の進化が人間の感性を鈍らせるのではなく、
むしろ、より繊細な意識を呼び覚ましてくれる。

今日も、切れ長の目をした二台の姉妹――壱号機と弐号機がガレージで並んでいる。
どちらに乗るか、それを考える時間こそ、人生後半の至福だ。

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