GRヤリスGR-DATはMTの意味を変えるか? ☆ 6MTと8速ATを両方所有して分かった違い

私は2020年型GRヤリス RZ High Performance 6MTを所有しています。

そのうえで、2024年型GRヤリスに新設定された8速AT「GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)」をもう1台購入しました。

知りたかったのは、GR-DATが6MTより速いかどうかだけではありません。

これほど高性能なATが登場したあとにも、MTを操作する意味は残るのでしょうか。

むしろ、それを自分で確かめたかったのです。

2台を所有し、公道、高速道路、ワインディング、そしてサーキットを行き来した現在、私の答えはこうです。

6MTとGR-DATでは、ドライバーが処理している仕事の構成そのものが違います。

なぜそう考えるようになったのか。

納車前から現在までを、順番に振り返ってみます。

なお、私が所有する2020年型6MTと2024年型GR-DATは、トランスミッションだけが異なるクルマではありません。

2024年型ではエンジン、車体、冷却、足回り、コックピットなどにも変更が加えられています。

したがって、この記事は6MTとGR-DATだけを入れ替えた比較実験ではありません。

同じドライバーが2台を所有し続けたことで見えてきた違いについての記録です。


納車2カ月前|GR-DATを待ちながらMTの意味を考えた

2024年型GRヤリス GR-DAT――以下、弐号機――の納車予定は、あの頃まだ2カ月も先でした。

それにもかかわらず、頭の中ではすでに走り始めていました。

最初に思ったのは、

「せめて納車まで事故などで死なないように、慎重に生きよう」

ということでした。

それほど弐号機を迎えるのが楽しみだった、ということです。

海でも山でも安全マージンを広く取り、とにかく無事に納車日を迎えたいと思っていました。

しかし待っている間に、別のことも考えるようになりました。

私はすでに2020年型GRヤリス6MT――以下、壱号機――を持っています。

それなのに、なぜもう1台GRヤリスを買うのでしょうか。

答えは次第にはっきりしていきました。

GR-DATが登場した時代に、MTを操作する意味は何なのでしょうか。

それを自分で知りたかったのです。


変速操作は「手段」なのか、それとも「技」なのか

変速操作には実用上の目的があります。

適切なギヤ比を選び、エンジン回転と駆動力を管理するための操作です。

しかしMTでは、それだけでは終わりません。

クラッチを切ります。

ギヤを選びます。

必要に応じてエンジン回転を合わせます。

クラッチをつなぎます。

それらを自分の手足で連続して行います。

うまく決まれば気持ちがよいです。

失敗すれば自分で分かります。

だから私は、MTの変速操作そのものにも1つの「技」が成立していると考えるようになりました。

スケートボードのトリックが、単に場所を移動するための手段ではないのと少し似ています。

人間の身体と道具を組み合わせ、その操作そのものを上達させる楽しさがあります。

もし変速操作だけを競う競技があったなら、私はかなり興味を持つと思います。

一方、GR-DATは、その仕事の多くを機械側へ移します。

では、それによってドライビングの楽しさは減るのでしょうか。

それとも、人間は別のことができるようになるのでしょうか。

納車前から、私の関心はそこにありました。


納車初日から高速260kmへ|まずクルマそのものを知る

そして弐号機がやってきました。

ディーラーから自宅まで数km走っただけで、壱号機とはかなり違うクルマだと感じました。

市街地を流しているだけでも、路面や駆動系からさまざまな情報が入ってきます。

普段乗っているノート e-POWERのような穏やかな移動感覚とはまったく違います。

最初は情報量の多さに軽い頭痛すら覚えました。

しかし嫌な感じではありません。

過剰というより、濃密でした。

もっと速度の高い領域で走らせてみたい。

そう思い、納車翌日には高速道路を往復約260km走りました。

まず印象に残ったのは、ドライビングポジションと視界でした。

操作系へ自然に手が届き、長時間でも姿勢を作りやすいです。

一方、最初は操作や設定の多さに戸惑いました。

DとMがあり、Mではパドルでもシフトレバーでも変速できます。

Dでもパドルを使えば一時的に変速へ介入できます。

さらにドライブモードやGR-FOURのモードもあります。

当初の私は、それらを単純に掛け合わせて「36通りの設定」と考えていました。

しかし実際には、DとM、パドルとシフトレバーは同列の独立した設定ではありません。

重要なのは組み合わせの数ではありませんでした。

どの状態で走ると、クルマがどう動くのか。

それを身体で覚えることでした。

1つの状態である程度まとまった距離を走り、その感覚を覚えてから別の使い方を試します。

弐号機は、早い段階から私にとって「実験の相棒」になりました。


ワインディングで受けた衝撃|「誰がどう乗っても速い」と感じた

2025年初頭、いつも走っているワインディングへ弐号機を持ち込みました。

シフトはD。

ドライブモードはSPORT。

そこで、かなり大きな衝撃を受けました。

その瞬間の感覚をそのまま言葉にすると、

「このクルマは、誰がどう乗っても速い」

でした。

今では、それが文字どおり正しいとは考えていません。

ドライバーのブレーキング、ライン取り、舵角、荷重、アクセル操作によって走りは明確に変わります。

しかし、初めてGR-DATでワインディングを走ったときには、本当にそう感じました。

多少操作が雑でもクルマが大きく破綻しません。

こちらが次の操作を考えている間にも、変速は終わっています。

壱号機では自分がいくつもの仕事を連続して処理していた道を、弐号機は滑らかに通過していきました。

当時の私は、こんな比喩で表現しています。

馬が勝手に最適解で駆け抜け、私はただ馬にしがみついているだけ。

速いです。

しかし少し寂しいです。

自分がクルマを動かしているという感覚が薄くなったようにも感じました。

この時点では、

GR-DATはドライバーの仕事を減らしすぎる装置なのではないか。

そんな疑問を持ち始めていました。


GR-DATでは、変速という仕事が後ろへ下がる

その後さらに走るうちに、GR-DATの特徴は「ATだから楽」というだけではないと感じるようになりました。

私にとって大きかったのは、

変速という出来事が、走行の前面に出てきにくいこと

でした。

6MTでは、変速するたびに人間が介入します。

クラッチを切り、ギヤを選び、必要なら回転を合わせ、クラッチをつなぎます。

特に旋回中など、車体へ余計な入力を与えたくない場面では、その操作にも注意を使います。

一方、GR-DATではDのまま走り、途中で変速しても、私が感じる車体姿勢の変化は小さいです。

変速そのものが、走行の流れへ溶け込んでいるように感じます。

Mではパドルでもシフトレバーでも変速できます。

Dでも、必要な場面ではパドルを使って一時的に介入でき、その後は所定の条件で通常のD制御へ戻ります。

つまり普段はクルマに変速を任せ、必要な瞬間だけ人間が介入できます。

6MTでは、変速に関する仕事を基本的に最初から最後まで自分が担当します。

GR-DATでは、その仕事のかなりの部分を機械側へ移せます。

この違いが、次第に重要に思えてきました。


サーキットを走って、「仕事を奪われた」という考えが崩れた

ワインディングを初めて走った頃、私は、

クルマがあまりにも上手に走るため、自分の技量が結果へ反映されにくい

と感じていました。

しかし、その後サーキットを走るようになって、この考えは変わりました。

GR-DATが高いレベルで担当してくれるのは、主として変速に関する仕事です。

一方で、

どこからブレーキを踏むのか。

どの程度の踏力を使うのか。

どの速度でコーナーへ入るのか。

どこでステアリングを切り始めるのか。

舵角をどこまで増やすのか。

いつから戻すのか。

どこからアクセルへ移るのか。

減速、旋回、加速の間でタイヤの能力をどうつないでいくのか。

これらは依然としてドライバーの仕事です。

そして、変速をクルマに任せると、その分だけそれらへ使える注意が増えます。

ここで、ワインディングを初めて走ったときの理解が崩れました。

GR-DATはドライバーの仕事をなくすのではありません。変速を機械側へ移すことで、ドライバーが担当する仕事を組み替えます。

サーキットでは、その違いがはっきり見えました。


サーキットで分かったのは、タイム差以上に注意の向け先の違いだった

私は1人で2台を運用しているため、2台を同じ条件で比較することはできません。

走行日は異なり、気温や路面状態、タイヤの状態、私自身の習熟度も変化します。

さらに、2020年型6MTと2024年型GR-DATは、トランスミッション以外の仕様も異なります。

したがって、サーキットで生じたタイム差をそのまま「6MTとGR-DATの性能差」と解釈することはできません。

それでも、2台を走らせることで明確に感じた違いがあります。

壱号機では、ブレーキ、ライン、舵角、荷重、アクセルに加えて、クラッチ操作、ギヤ選択、回転合わせまで自分で担当します。

弐号機では、変速に使っていた注意を、そのほかの操作へ振り向けられます。

タイムは結果として残ります。

しかし、サーキットを走って得た最も大きな発見は、数字そのものではありませんでした。


6MTとGR-DATでは、楽しんでいる対象が少し違う

2台を行き来するようになってから、MTとATを単純に「どちらが楽しいか」で比べることに、あまり意味を感じなくなりました。

6MTでは、変速操作そのものまで含めて運転します。

クラッチを踏みます。

ギヤを選びます。

必要な回転を作ります。

クラッチをつなぎます。

上手くいくこともあれば、失敗することもあります。

その操作自体に上達の余地があり、自分自身の変化を感じられます。

一方、GR-DATでは、その仕事のかなりの部分をクルマ側へ移せます。

すると、ブレーキをどう抜くか、舵角をどう作るか、荷重がどこにあるか、タイヤの能力をどこへ使うか、どこから加速へ移るかといったことが、より前へ出てきます。

私の場合、2台では拾っている情報が違います。

同じ道を走っていても、見ているものが少し違います。

なお、納車直後に感じた2024年型GRヤリスそのものの完成度の高さについては、その後サーキットまで走らせても印象は大きく変わっていません。

しかし、それはこの記事の中心ではありません。

私にとって重要だったのは、GR-DATを所有したことで、6MTとGR-DATの違いを単なる変速方式の違いとして見なくなったことです。


結論|GR-DATはMTの意味を消すのではなく、むしろ見えやすくした

GR-DATを買う前、私はこう考えていました。

これほど優秀なATが存在するなら、MTを選ぶ意味はなくなるのではないか。

実際、初めてワインディングを走ったときには、

「馬が勝手に走り、私はしがみついているだけ」

と感じました。

しかし、その後サーキットまで走り込み、考えは変わりました。

GR-DATは変速という仕事を高いレベルで引き受けます。

6MTでは、その仕事まで含めて自分で担当します。

だから、どちらか一方がもう一方の代用品になったわけではありませんでした。

同じゲームを違うコントローラーで遊んでいるわけではありません。

少し違うゲームを遊んでいます。

GR-DATを知ったことで、MTの価値が消えたのではありません。

むしろ、自分がMTで何を楽しんでいたのかが、以前よりはっきり見えるようになりました。

同時にGR-DATでは、変速を機械へ渡すことで、それまで見えにくかった運転の別の部分が前へ出てきました。

2台を所有して得た最大の収穫は、6MTとGR-DATのどちらが優れているかという答えではありません。

クルマが担当する仕事が変われば、ドライバーが見る世界も変わります。

高性能なATが登場したことで、MTの意味がなくなったのではありません。

その意味が、かえって輪郭を持って見えるようになりました。

それが、6MTとGR-DATを両方所有して、現在の私がたどり着いた答えです。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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