はじめに|アライメントとジオメトリーは似て非なるもの
クルマの足回りを語るとき、
- アライメント
- ジオメトリー
という言葉がよく出てきます。
この2つは関係していますが、同じものではありません。
簡単に整理すると、
アライメントは、ある状態での車輪の向き。
ジオメトリーは、サスペンションが動いたときに、その向きや位置がどう変わるかを決める幾何学的関係です。
本記事では、
- アライメントとジオメトリーの違い
- キャンバー・トー・キャスター
- ロールセンター(Roll Center:RC)
- バンプステア
- 車高を変えたときに何が起きるのか
- アライメント調整でどこまで補正できるのか
を、初心者向けに整理します。
また、タワーバーやブレース、スタビライザーによっても、サスペンションの働き方やタイヤの使われ方は変わります。詳細は別記事タワーバーやスタビは本当に効果ある?|速くなる場合と遅くなる場合の違いにまとめました。
アライメントとジオメトリーの違い
アライメントとは
アライメントとは、
ある車高・ある静止状態で、タイヤがどの方向を向いているか
を表す値です。
代表的なのは、
- トー
- キャンバー
- キャスター
です。
車種によって調整可能な範囲や項目は異なります。
ジオメトリーとは
ジオメトリーとは、
サスペンションを構成するアームやリンクの位置関係によって決まる、車輪の運動特性
です。
例えば、
- アーム角度
- ロールセンター
- キャンバー変化
- トー変化
- バンプステア
- 車輪の移動軌跡
などが含まれます。
市販車では、通常のアライメント調整だけでは変更できない領域が多くあります。
簡単に言うと
アライメントは、その瞬間の車輪の向き。
ジオメトリーは、サスペンションが動いたときに車輪がどう動くかを決める仕組みです。
基本用語の整理
キャンバー
キャンバーとは、正面から見たタイヤの傾きです。
上側が車体内側へ傾いている状態をネガティブキャンバーと呼びます。
キャンバーは、旋回時のタイヤ接地状態や横力発生に大きく影響します。
トー
トーとは、上から見たタイヤの向きです。
- 前側が内向き:トーイン
- 前側が外向き:トーアウト
トーは、直進安定性や操舵初期の応答に影響します。
キャスター
キャスターとは、側面から見たステアリング軸の傾きです。
キャスターは、
- 直進安定性
- ステアリングの戻り
- 操舵時のキャンバー変化
などに影響します。
ジオメトリーの重要概念
ロールセンターとは
ロールセンターは、
サスペンションジオメトリーから定まり、車体のロール挙動や横力の伝わり方を考えるために使われる仮想的な点
です。
フロントとリアにはそれぞれロールセンターがあり、それらを結ぶことでロール軸を考えることができます。
重心とロール軸の関係
コーナリングでは、タイヤが横力を発生し、その力によって車体にはロールさせるモーメントが生じます。
概念的には、
ロールモーメント ≒ 横力 × 重心からロール軸までの距離
と考えることができます。
重心とロール軸の距離が大きいほど、車体をロールさせるモーメントは大きくなる方向です。
実際のロール量は、
- ばね
- スタビライザー
- 前後のロール剛性
- サスペンションジオメトリー
などとの組み合わせで決まります。
バンプステアとは
バンプステアとは、
サスペンションがストロークしたときにトーが変化する現象
です。
サスペンションが縮むバンプ側でも、伸びるリバンプ側でも起こります。
つまり、ドライバーの操舵入力とは別に、サスペンションの上下動によってタイヤの向きが変化します。
この変化量や方向は、タイロッドやサスペンションアームの配置によって決まります。
車高を変えると何が起きるのか
ここが重要です。
車高を変えると、車体の高さだけではなく、
サスペンションが静止状態でどの位置から動き始めるか
が変わります。
これによって、
- アーム角度
- タイロッド角度
- ロールセンター位置
- キャンバー変化
- トー変化
- バンプステア特性
などが変わる可能性があります。
つまり、
車高を変えることは、サスペンションの作動基準位置を変えることでもあります。
ローダウンでロールセンターはどうなるのか
ローダウンすると重心は低くなります。
一方で、ロールセンターも移動します。
その移動方向や移動量は、サスペンション形式やアーム配置によって異なります。
重要なのは、
重心とロールセンターが同じ量だけ動くとは限らない
という点です。
例えば、重心よりもロールセンターの方が大きく下がるジオメトリーでは、重心とロール軸との距離が拡大することがあります。
その場合、低重心化による効果だけを見れば理解できないロール特性の変化が起こります。
ローダウンするとタイヤの使われ方も変わる
車高変更によってアームの作動位置が変わると、
- キャンバーゲイン
- トー変化
- バンプステア
- 前後車軸の横荷重移動分担
なども変化する可能性があります。
その結果、旋回中のタイヤの向きや接地状態が、純正車高とは異なるものになります。
見た目では同じネガティブキャンバーが付いていても、サスペンションが沈み込んだときのタイヤの向きまで同じとは限りません。
ここが、静的アライメントとジオメトリーの大きな違いです。
アライメントでどこまで補正できるのか
アライメント調整では、
- 静的キャンバー
- 静的トー
- 車種によってはキャスター
を調整できます。
これによって、現在の車高とサスペンション作動位置に合わせて、タイヤの向きを最適化できます。
一方で、通常のアライメント調整だけでは、
- ロールセンター位置
- サスペンションストロークに伴うトー変化
- アームの移動軌跡
- キャンバーゲインそのもの
までは元に戻せません。
つまり、
アライメントは現在の作動位置でタイヤの向きを整えることができますが、車高変更によって変わったサスペンションの運動軌跡そのものまでは戻せません。
ジオメトリーを変更・補正する方法
ジオメトリーを変更するには、アライメント調整よりも構造側へ手を入れる必要があります。
例えば、
- 調整式アーム
- タイロッド位置の変更
- ロールセンター補正パーツ
- ピックアップポイントの変更
- バンプステア補正
などがあります。
競技車両では、こうした部分まで含めてセッティングされることがあります。
車高変更をどう考えるべきか
車高を下げる目的には、
- 重心を下げる
- 空力特性を変える
- サスペンションストローク位置を変える
- 見た目を変える
などがあります。
ただし、車高を変更すればサスペンションの静的作動位置も変わります。
そのため、車高調整では、
- 静的アライメント
- ストローク中のキャンバー変化
- トー変化
- ロールセンター
- ストローク量
- 路面追従性
まで含めて考えると、変化を理解しやすくなります。
アライメントとジオメトリーの違いをもう一度整理する
アライメント
ある状態での車輪の向き。
主に、
- キャンバー
- トー
- キャスター
で表します。
ジオメトリー
サスペンションが動いたときに、車輪の位置や向きがどう変化するかを決める幾何学的関係。
主に、
- アーム配置
- ロールセンター
- キャンバーゲイン
- トー変化
- バンプステア
- 車輪の移動軌跡
に関係します。
まとめ
アライメントとジオメトリーは密接に関係していますが、見ているものが違います。
アライメントは、その時点でのタイヤの向きです。
ジオメトリーは、サスペンションが動いたときに、そのタイヤがどのように動くかを決めます。
車高を変えれば、タイヤの静的な向きだけでなく、サスペンションが動き始める基準位置も変わります。
そのため、アライメントを調整して静的なキャンバーやトーを整えても、ストローク中の運動軌跡まで元に戻るわけではありません。
最後に一行でまとめるなら、
車高を変えるということは、見た目だけでなく、サスペンションが働く基準位置そのものを変えるということです。