GRヤリスでコーナーを立ち上がるとき、アクセルを踏むと前輪が外側へ逃げる。
私は、このコーナー後半のアンダーステアに悩んでいました。
しかし、プロレーサーのドライビングレッスンで指摘された大きな原因の一つは、クリッピングポイント以降のアクセル操作ではありませんでした。問題は、それより前の、ストレートエンドからクリッピングポイントまでの運転にありました。
進入速度を十分に落としきれず、減速の仕事を旋回区間まで引きずっていたため、外側前輪へ減速と旋回の負担が集中していたのです。
症状はコーナー後半に現れていましたが、少なくとも私の場合、その状態はコーナー進入から作られていました。
本記事では、2020年型GRヤリス6MTで受けたプロレーサーのレッスンをもとに、ストレートエンドの減速不足が、なぜコーナー後半のアンダーステアにつながったのか、そして減速から旋回までの操作をどのように修正したのかを説明します。
なお、減速、トレイルブレーキ、舵角、アクセル開度を含むコーナリング全体の基本については、別記事「アウト・イン・アウトは結果である|トレイルブレーキと舵角で考えるコーナリングの基本」で詳しく整理しています。
本記事では、そのうちストレートエンドからクリッピングポイントまでの進入操作に焦点を絞ります。
約3か月ぶりに受けたプロレーサーのレッスン
約3か月ぶりに、プロレーサーによるドライビングレッスンを受けました。
インストラクターは前回と同じ人物です。感覚だけでなく、なぜその操作が必要なのかを理屈で説明してくれる、理論派のインストラクターでした。
私は理屈コネ太郎ですから、理屈で理解できないことは、なかなか身体が受け付けません。そのため、このインストラクターの説明は大変参考になりました。
1回目のレッスンで私が気づいたのは、タイヤの横グリップをほとんど使えていなかったことです。
それまでの私は、クルマを十分に旋回させないまま、なるべく直線的に走ろうとしていました。そこを修正したことで、ラップタイムはかなり短縮しました。
しかし、その先がなかなか分かりません。
特に、2020年型GRヤリス6MTでは、あるコーナーの後半でアンダーステアが出ていました。
そこで今回は、その特定のコーナーに問題を絞ってレッスンを受けました。
まず私が運転し、助手席のインストラクターに現状を見てもらいます。その後、問題点と改善方法について口頭で説明を受け、最後にインストラクターの運転で、正しい操作と車両挙動を体験しました。
指摘された問題は「コーナー進入で前輪を使いすぎている」
インストラクターから指摘されたのは、私がコーナー進入で前輪を使いすぎているという問題でした。
より正確に言えば、ストレートエンドで必要な減速を終えられず、強い減速を旋回区間まで引きずっていました。
ブレーキングによって荷重が前方へ移ること自体は、悪いことではありません。旋回を始めるためには、ブレーキングによって生じた前輪荷重を利用し、前輪に有効な旋回力を発生させる必要があります。
問題は、その程度と時間です。
私は速度が高いままコーナーへ入り、減速を目的とした強いブレーキを残しながら、大きな舵角を与えていました。
そのため、外側前輪には、
- 減速する仕事
- クルマの向きを変える仕事
が同時に強く要求されていました。
さらに、進入速度が高いため、狙った走行ラインへ乗せるには、より大きな舵角が必要になります。
つまり、前輪へ荷重を移すこと自体が問題なのではありません。必要な減速を終えないまま旋回へ入り、前輪へ多くの仕事を同時に要求していたことが問題だったのです。
なぜ前輪を使いすぎると遅くなるのか
タイヤが発揮できる摩擦力には限界があります。
強く減速しているときには、タイヤが発揮できる摩擦力の多くが、前後方向の制動力に使われます。その状態で大きな舵角を与えれば、今度は横方向の旋回力も同時に要求することになります。
制動と旋回を合わせた要求がタイヤの摩擦限界を超えれば、舵角を増やしてもクルマはそれ以上曲がりません。
むしろ前輪が外側へ滑り始め、アンダーステアが強くなります。
ここでいう「前輪を使いすぎる」とは、前輪が発揮できる摩擦力の多くを、すでに制動と旋回に使っており、さらに旋回へ振り分けられる摩擦力の余裕が小さい状態を指します。
進入速度が高いまま強いブレーキを残し、大きな舵角を与えれば、前輪の摩擦力にはほとんど余裕がありません。その状態でさらに舵角を増やしても、クルマは狙った方向へ曲がりにくくなります。
また、強いブレーキングを旋回区間まで引きずると、車両の荷重は前方へ偏ったままになります。
前輪荷重が増える一方で、後輪荷重は相対的に減ります。その結果、後輪が担える横力も小さくなりやすく、クルマ全体として利用できる旋回力を十分に引き出せません。
私は、前輪だけを頼りにクルマの向きを変えようとしていたのです。
前輪は働きすぎて摩擦力の余裕を失い、後輪は持っている能力を十分に使えていません。
これでは、四輪のグリップの合力を活かせません。
クルマの姿勢も安定しにくく、コーナリング速度を上げることもできません。
コーナー後半のアンダーステアが進入から始まる理由
進入速度が高いまま減速を旋回区間まで引きずれば、クリッピングポイントへ向かうために大きな舵角が必要になります。
その姿勢をクリッピングポイント付近まで引きずると、クリッピングポイント通過後にも大きな舵角が残りやすくなります。
そこからアクセルを踏めば、前輪には旋回力に加えて駆動力も要求されます。
GRヤリスは四輪駆動車ですから、前輪も駆動力を分担します。
すでに大きな舵角によって横方向へ多くの摩擦力を使っている状態で、さらに駆動力を要求すれば、前輪の摩擦力の余裕を超えやすくなります。
その結果、前輪が狙った走行ラインを維持できず、コーナー外側へ逃げます。
症状はコーナー後半のアンダーステアとして現れますが、その状態を作った一因は、ストレートエンドでの減速不足と、進入後の前輪への仕事の集中だったのです。
もちろん、コーナー後半のアンダーステアには、クリッピングポイント以降の舵角とアクセル開度の関係も影響します。
しかし、出口側の操作だけを修正しても、進入時点で速度が高く、大きな舵角を残さざるを得ない姿勢を作っていれば、根本的な改善にはなりません。
解決の方向は「四輪で曲がる」こと
では、どのように改善すればよいのでしょうか。
まず必要なのは、ストレートエンドで必要な減速の大部分を終えることです。
インストラクターから示された方向は、強い減速目的のブレーキを旋回区間まで引きずり、前輪へ過大な仕事をさせる運転をやめることでした。
直線区間で必要な減速の大部分を終え、ターンインではブレーキ踏力を少し緩めます。
制動への要求を減らした分だけ、前輪には旋回力へ振り分けられる摩擦力の余裕が生まれます。
その余裕に合わせて舵角を増やし、クリッピングポイントへ向かいます。
ただし、四輪で曲がるとは、前後の荷重移動を起こさないという意味ではありません。
ブレーキングすれば荷重は前方へ移り、アクセルを踏めば後方へ移ります。旋回すれば外側へ移ります。
荷重移動そのものをなくすことはできませんし、なくす必要もありません。
ターンインでは、ブレーキングによって生じた前輪荷重を利用して旋回を始めます。
しかし、最大制動に近い状態では、前輪が発揮できる摩擦力の多くが減速に使われています。その状態で大きな舵角を与えれば、制動と旋回を合わせた要求がタイヤの限界を超えやすくなります。
そこで、ストレートエンドで強い減速目的のブレーキを終え、ターンインに合わせて踏力を緩めます。
ブレーキ踏力を減らした分だけ旋回へ使える摩擦力の余裕を作り、その余裕に合わせて舵角を増やします。
さらにブレーキを抜いていくことで、前方へ偏っていた荷重が徐々に戻り、後輪も旋回へ参加しやすくなります。
文章にすると長い操作に見えますが、実際にはコンマ数秒の出来事です。
ここでいう「四輪で曲がる」とは、四輪へ均等に荷重をかけることではありません。四本のタイヤが、それぞれの荷重に応じて旋回力を分担できる状態を作るという意味です。
改善の具体策|必要な減速を直線区間で終える
最初に修正したのは、ストレートエンドでの減速です。
それまでの私は、ブレーキングの開始が遅く、旋回を始める地点までに必要な速度へ落としきれていませんでした。
そのため、コーナーへ入りながら強く減速することになり、前輪へ大きな負担をかけていました。
改善後は、ブレーキングポイントを少し手前へ移しました。
ステアリングをほぼ中立に保てる直線区間で、強いブレーキングを短く行い、旋回を始めるまでに必要な減速の大部分を終えます。
ここで重要なのは、単に早い地点から弱く長くブレーキを踏むことではありません。
ブレーキングの開始地点を少し手前へ移しながら、強い制動は直線区間で短く済ませます。
そして、ターンインする時点では、すでに旋回可能な速度へ近づけておきます。
進入速度を適切に落とせば、狙ったラインへ乗せるためにステアリングを大きく切り足す必要もなくなります。
強いブレーキからトレイルブレーキへ移る
直線区間で必要な減速の大部分を終えても、ターンインの瞬間にブレーキペダルから足を完全に離すわけではありません。
強いブレーキ踏力を少し緩め、ブレーキを徐々に抜きながら舵角を増やしていきます。
つまり、
- ストレートエンドでは、減速を目的とした強く短いブレーキングを行う
- ターンインでは、ブレーキ踏力を緩めた分だけ舵角を増やす
- コーナーへ入った後は、ブレーキを徐々に抜きながら舵角を増やし、クリッピングポイントを目指す
という流れです。
この、ブレーキ踏力を減らしながら旋回へ移る操作がトレイルブレーキです。
トレイルブレーキは、ただブレーキを遅い地点まで踏み続ける技術ではありません。
強い制動から旋回へ、タイヤの仕事を滑らかに移すための操作です。
ブレーキ踏力を減らせば、タイヤが旋回に使える摩擦力の余裕が増えます。その余裕に合わせて舵角を増やします。
同時に、ブレーキを抜くことで前方へ偏っていた荷重が徐々に戻り、後輪も旋回へ参加しやすくなります。
前輪の仕事を早めに減らし、後輪を参加させる
私の以前の運転では、クリッピングポイントへ近づいても、前輪が減速と旋回の両方を強く担っていました。
改善後は、主要な減速を直線区間で終え、ターンイン後はブレーキ踏力を徐々に減らします。
それによって、前輪が担う減速の仕事を減らし、旋回へ使える摩擦力の余裕を作ります。
さらに、前方へ移っていた荷重を徐々に戻すことで、後輪荷重を回復させます。
後輪にも横力を発生させ、四輪全体で旋回を維持します。
要するに、
前輪で旋回を始めるが、前輪だけで最後まで曲がろうとしない
ということです。
前輪を使うことは必要です。
しかし、前輪にすべてを任せず、クルマの姿勢を整えながら後輪を旋回へ参加させます。
この違いが、コーナリング速度に大きく影響します。
現代の市販車は以前より曲がる
インストラクターによると、現在の市販車は、以前のクルマと比べて格段に曲がるようになっているそうです。
タイヤ、サスペンション、ボディ剛性、駆動制御などが進歩しているため、昔ほど極端に前輪荷重を作らなくても旋回できます。
それにもかかわらず、必要以上に前荷重を作り、前輪だけでクルマの向きを変えようとすれば、かえって前輪を限界へ近づけてしまいます。
前輪を使いすぎるのではなく、前輪と後輪に横グリップを分担させた方が合理的です。
その結果、
- 外側前輪へ仕事が集中しにくくなる
- 後輪も旋回力を発生する
- 四輪全体で利用できる横力が増える
- コーナー中の速度を高く維持しやすくなる
という効果が得られます。
GRヤリスの能力が足りなかったのではありません。
私が、GRヤリスの四輪を十分に使えていなかったのです。
レッスン翌日の実走結果
このレッスンを受けた翌日、自分一人で同じコースを走りました。
結果は次のとおりです。
レッスン前
1分50秒764
最高速度201.6km/h
レッスン後
1分49秒661
最高速度199.3km/h
いずれも2020年型GRヤリス6MTでの記録です。
ラップタイムは、約1.1秒短縮しました。
一方、記録された最高速度は低下しています。
最高速度の計測地点がストレートエンド付近にあり、ブレーキング開始地点と重なっているためではないかと推測しています。
今回の改善では、ブレーキングポイントを少し手前へ移し、直線区間で必要な減速の大部分を終え、ターンイン以降に後輪荷重を回復させやすい状態を作りました。
そのため、計測地点での速度は下がったものの、コーナー進入からクリッピングポイントまでの走りが改善し、区間全体では速くなった可能性があります。
最高速度が高いことと、ラップタイムが速いことは同じではありません。
ストレートの最後まで速度を維持しても、その後の減速と旋回が崩れれば、コーナー区間全体では遅くなります。
今回の結果は、そのことをよく表していると思います。
まとめ|コーナー後半のアンダーステアは進入から始まっていた
GRヤリスで発生していたコーナー後半のアンダーステアは、出口のアクセル操作だけの問題ではありませんでした。
少なくとも私の場合、その状態を作っていた大きな原因の一つは、ストレートエンドからクリッピングポイントまでの進入操作にありました。
私の問題は、
- ストレートエンドの減速目的ブレーキングの開始が遅い
- ターンインまでに必要な減速を終えられていない
- 強い制動を旋回区間まで引きずる
- 外側前輪へ減速と旋回の仕事を集中させる
- 前輪の摩擦力の余裕を失う
- 後輪を旋回へ十分に参加させられない
という一連の流れにありました。
改善の方向は、次のとおりです。
- ブレーキングポイントを少し手前へ移す
- ストレートエンドで舵角ゼロで短時間・短距離で十分に減速する
- 旋回はブレーキ踏力を抜きながら舵角を増やす
- 前輪への仕事の集中を減らす
- 前輪に旋回へ使える摩擦力の余裕を作る
- 後輪荷重を回復させ、四輪で旋回する
荷重移動は使います。
前輪の横力を使ってヨーも立ち上げます。
しかし、その状態を必要以上に引きずりません。
前輪で旋回を始め、ブレーキを抜きながら後輪を参加させ、四輪全体でクリッピングポイントへ向かう。
この塩梅が、コーナー進入からクリッピングポイントまでの速度を決めます。
クリッピングポイント以降は、今度は舵角を戻しながらアクセル開度を増やす必要があります。
大きな舵角を残したままアクセルを開けすぎれば、前輪に要求される旋回力と駆動力が摩擦力の余裕を超え、コーナー後半のアンダーステアにつながります。
この部分については、別の記事で詳しく扱います。
最近のクルマが以前より曲がるようになったことについては、別記事「クルマは以前より『曲がる』ようになった。だからドライビングテクニックも変わる」でも考察しています。
理屈コネ太郎61歳。
相変わらずのへっぽこドライバーではありますが、今日も明日も明後日も、ドライビングテクニックの習得に夢中です。
本記事はストレートエンドからクリッピング直前までの操作について纏めた記事です。クリッピングからコーナー脱出までに関してはGRヤリスのコーナー脱出でアンダーステアを出さない|舵角とアクセル開度の関係に纏めました。
